作品タイトル不明
185.課外授業/潜入『聖都マリード』
185.課外授業/潜入『聖都マリード』
~アリアケ視点~
「なるほど。情報の出所はそこらあたりか。まぁ、想定はしていたが。しかしさすがバシュータだ。よく突き止めてくれてた」
「ありがとうございます。で、旦那、どうしますか? いきなり殴り込みですかい?」
「それもいいかもしれない。大事な生徒を連れて行かれたんだからな。ただ……」
うーん、と俺は首を傾げる。
「その男と、今回仕掛けてきた謀略には齟齬があると思う。その男は感づいていないのかもしれないが、これはその男を利用した、もっと大きな仕掛けだ。大陸全土を巻き込んだな」
「アリアケの旦那が絡んでいるんですから、そうでしょうね」
「そうかもしれんが、余りそう言ってくれるな。何だか俺が皆を巻き込んでいるように見えるだろう?」
俺が苦笑すると、バシュータは肩をすくめて、
「そうは言いませんがね。まぁ事態の中心にいることは変わりありません。舞台の主役には旦那。その男は自分が主役だと思っているでしょうが、旦那の勘では、そうではありませんな」
「ああ。あるいは舞台自体が主役かもしれん」
「と言うと……」
と、そんなコソコソ話を校長室でしていると、バンッ! と扉が開かれた。
別に鍵もかけてないので、出入り自由のため、機密性はないに等しい。
飛び込んできたのは、この学校の生徒達だった。
「ルギが転校ってどういうことだよ! 先生!」
開口一番叫んだのは、人族のフィネだ。目に涙をためている。
「本当です。転校には手続きが必要だというのに」
「そういう問題じゃないでしょうに……」
「分かってるわよ。場をなごまそうとしたジョークです」
「壊滅的にセンスがないのね」
「あんたたちうるさい!」
続いて入ってきたソラ、キュールネーと言い合いを始めた。
と、その時、
「ルギが行ったのはワイズ教の聖都マリード。転校じゃない」
ピノがぼそりといった。
その言葉を聞いて、顔を青くしたのは孤児院の子供たちのリーダー的存在のミハイルである。
「そ、そんな! あんな酷いところへ!? 一体どうして」
ずいぶん混乱しているようだ。
「アリアケ先生! 何とか言ってくれよ! ルギはどうしてあたしたちを! あたしたちを! くっ……!」
フィネが何かを言いかけて言葉を詰まらせる。
恐らくこう言いたいんだろう。
「どうして自分たちを捨てて出て行ってしまったのか、か?」
「!!」
ショックを受けた表情をする。だが、
「フィネ。余りルギを舐めてやるな」
「はへ? な、舐める?」
俺は苦笑しつつ言う。
「俺があいつを引き留めようとすれば、引き留められた。だが、あいつの意思は固いように思った。強くなる為に聖都マリードに行くと決めた。そのことは、まあ俺の指導力不足だったのかもしれん。強くなることと、その力を使いこなすことは別のことだ。そのバランスを崩せば、かつての俺の不出来な弟子のようになると、慎重な授業をしていたせいで、あいつにとっては物足りなかったんだろう」
「力と心のバランスが均衡しないと、暴走して周りに迷惑をかける」
ピノがなぜか珍しく口を開き、フォローしてくれる。
「あいつもそれはたぶん分かっている。それでも力を求めて、聖都マリードへ向かったんだ。なら、それを引き留めることは出来ない」
「でも! でも!」
「ただな」
納得できないという顔のフィネに、俺は微笑みかける。
「ソラ、お前の言う通り転校届は出されていない。今はまぁ、無断欠席といったところだろう」
「はへ?」
「何が言いたいのですか、先生?」
ぽかんとするフィネと、訝し気なキュールネー。
「校長としては生徒の無断欠席を認めるわけにはいかない。ゆえに、これは課外授業の一環とする。聖都マリードで旧国教であるワイズ教を学び、強くなる訓練をする特別授業だ」
「めちゃめちゃ」
ピノが半眼でつっこむ。今日は多弁であることだ。
「でも……。だったらあたしたちもその授業を受けたい! 同じクラスの生徒なんだから、問題ないはずだ!」
「なるほど、それは道理ですね」
「面倒ねえ……」
フィネ、ソラ、キュールネーが言った。
人族とエルフ族、ドラゴン族の子供たちが、魔族であるルギを心配して、おそらく敵地であるマリードへ乗り込むことを本気で考えているのだ。
「さすが旦那の生徒は、そこいらの冒険者どもよりよほど 気風(きっぷ) が良いですな」
「アリシアや他の皆が手伝ってくれたおかげだ。お前も含めてな」
さて。
生真面目な表情で俺を見つめる少女たちに、俺はあっさりと告げた。
「では、お前たちも参加するか? 課外授業に?」
「「「へ?」」」
生徒たちの驚きの声が響く。
まさかあっさりと許可がおりると思っていなかったのだろう。
「い、いいのかよ?」
「もちろん。大切なクラスメイトを助けに行きたいと思うのは、友達として当然だしな」
「べ、別に大切とかじゃ……」
もじもじとするフィネ。
それには触れずに、俺は言葉を続ける。
「お前たちはこれから聖都マリードへ侵入し、神殿で巫女見習いとして働く。そのための準備はバシュータが既に済ませてくれている」
「は?」「最初からそのつもりでしたか」「はめられてませんか、わたしたち」
「そして、授業には教員の随行が必要だろう。俺と、あと数人、先生方についてきてもらうことにしよう。そして、何かあれば協力してルギを助ける」
「いきなり助けてはいけないのですか?」
「言ったろう? ルギの意思自体は尊重すると。あいつが飽きて帰りたくなったり、危険が迫れば助けてやればいい。そして」
俺はこれだけはしっかりと言う。
「俺がいる限り、あいつの身が危険に晒されることはないと保証しよう。大賢者アリアケ・ミハマの名において、な」
「おおー、旦那が保証なら安心していいっすね。何せ、この大陸で最大の保証っすからね」
「そんな大層なものではないさ」
「いやいや、そこはそろそろ自覚してくださいよ」
バシュータの言葉に俺は苦笑するしかない。
ともかくこうして、
「明日には課外授業に出発しよう。段取りはバシュータに聞いてくれ」
「ほ、本当に、明日出発するんだな、先生?」
ああ、と俺は頷く。
「大事な生徒をさらったワイズ教をぶっ飛ばす……もとい、課外授業『聖都マリード侵入作戦』を明日決行する。今日は英気を養え」
その言葉に生徒たちは、
「「「はい!!」」」
威勢よく応じたのだった。