作品タイトル不明
180.お買い物
180.お買い物
~フィネ視点~
「欲しいものと言われても、困りました……」
マンドラゴラで荒稼ぎをした私たちは、町へと繰り出していた。
元孤児たち50人……は無理なので、とりあえず5人ほどを連れ出した。その子たちがまた他の孤児たちに教えてあげればいい。
それにしても絶景だ。魔族やエルフ、獣人などなど、様々な種族の人たちが歩いているが、それはここだけだろう。
この中立国オールティは元々村だったんだけど、アリアケ先生が来てから急速に発展している。ある意味、アリアケ先生だから統治できているような国だ。
「どうやったらあのレベルに到達するんだろうな、ルギ?」
「まぁ、修行しかないのでは?」
「じゃなくてさ! なんかもうちょっと精神的な意味でだよ。落ち着いて物事を俯瞰的に見て戦略的に優位に立つ、みたいなあの感じ! やってみたい! 憧れる!」
「難しいことを考えているんですね。僕なんかはそれよりも……」
「あんたらちゃんと引率しなさいよ。ドラゴンのあたしにはちょっと荷が重いんだから」
と、ルギといつものようにおしゃべりしていると、困り顔でキュールネーが苦情を言ってきた。
「にゅふふ」
「何、あたまどうかしたの?」
私がいやらしく笑うと、キュールネ―が気味悪そうに言った。
いやぁ、昔だったら「あたしは知らないわよ」と言って、どこかに行ってしまっただろう、ドラゴニュートのキュールネ―が、こうしてちゃんと苦情を言ってくるのだ。
「ある意味の尊さを感じてたんだよ」
「はぁ? 意味不明」
キュールネーは眉根をしかめたまま、ツタツタと歩いて行ってしまった。
その後ろから孤児たち5人がそわそわと落ち着かない様子で付いてくる。
「で、何を買うべきなのでしょうか?」
と、相変わらず聞いてくる、元孤児でリーダーでもあるミハイル。
彼でさえこの調子なので、他の奴らが自由に物を買うなんて出来るわけないのだった。
「そうだなー、あっ! あれなんてうまそうじゃない?」
私にはウサギ肉で作った、串焼きを売っている店を見つけて、指さす。
「1本2銅貨だって。どう?」
「お、お肉ですか! しかし、そんな贅沢をしていいのでしょうか?」
「ワイズ教の教えに反してるとか?」
「いえ。ただ、清貧に努めよ、という教えはありますので、どうかと……」
「2銅貨使うくらいどってことないよ! さあ、ほら、ほれ! ほれ! 買うのだー!」
「うう。でもやっぱり寄付したほうがいいのでは?」
「だからー」
なんだか押し問答になる。
と、そこにエルフのソラが割り込んできた。
「物を買うのはそう悪いことではありませんよ。あのお店の店主さんには子供が3人もいるのです」
「は、はあ?」
ミハイルたちがいきなりの話の展開に目を丸くしているが、ソラはそんなことで話の腰をおられたりはしない。というか、よく知っていますね。行きつけなんだな、こいつエルフのくせに。
「つまり、あなたたちがお金を使うことで、彼の子供たちのお腹が満たされるんです! つまり、あなたたちはおいしいお肉が食べられる! 店主の子供たちもおいしいお肉が食べられる! ウィンウィンなのです! 貿易の基本ですね!」
「では、この2銅貨を、あの店主へ寄付したほうがいいのではないですか?」
「それは彼の本意のでNGです!」
「どうしてですか?」
「彼は自分の仕事に誇りをもっているのです! 美味しい焼き鳥を食べてもらってお金をもらう! そこにやりがいと自負を抱いているのです! それを、お金だけ置いていく、というのは美味しい焼き鳥を作っている自分への冒涜と感じるでしょう! OK?」
「よく分かりません」
「なんと!?」
「ああ、でも」
ミハイルが慌てて首を横に振り、
「お金を払うことで交換することが、やましいことではない、ということが分かりました。確かにワイズ教でも、高い壺を売ることで、信者の方から高額の寄付を得ていましたので。お互いが満足すればそれで双方が幸せなのですね」
「それは詐欺だと思いますが、一旦その理解でいいです」
はぁ、とソラが嘆息した。長耳が垂れたのは疲労の証だ。
「じゃあ、みんな今日は試しにソラさんがすすめてくれた焼き鳥を買って食べてみようか」
「「「「は、はい」」」」
ということで、元孤児たちが、ジュージュー焼けて、油のしたたる、塩で味付けされた串焼きを買って頬張る。
すると、
「美味しい!?」
目を丸くして飛び上がった。
「よ、世の中にこんな美味しいものがあったなんてっ……!!!!」
孤児たちが驚愕していた。
「もっと美味しいものもありますからね。というか服とかも買うべきですね。さあ、キュールネー案内してください!」
「なんであたしなのよ!」
「私は余り詳しくありませんし、フィネはあんまり興味ないでしょうし」
「否定はしないけどね」
私は憮然としながら言う。
「ま、いいでしょ。ついて来て頂戴。と言っても、私だって安いお店しか知らないわよ」
「十分です」
というわけで、次は服屋へやってきた。
もちろん、オーダーメイドの服を作るような高級店ではなく、着古した衣服が売られている普通の服屋だ。
「ここは中古品だけど、清潔なものしか置いていないからおすすめなんだけど、どうかしら?」
「いいんじゃないですか。ワイズ教の制服ばかり着ていては 傷(いた) みも早いでしょう。そうですね、これなんかいいと思いますが……?」
「わ! センスないなー、ルギ! こういうのは派手な方がいいよ。ほら、これとか」
「ははは、こんなギラギラした服で外を歩けと言われたら、僕なら自死するかもしれません」
「にゃんだと!」
「くだらない喧嘩はやめなさいよ、もう。ちなみに、あたし的にはこのお店のラインナップの中で、その二つだけは、ないわ~、という感じよ」
「「なあっ!?」」
ショックを受ける私たちを置いて、キュールネ―はゆっくりと服を物色し、そしてある服を手に取りながら、
「これとかはどうかしら? ワイズ教は落ち着いた宗教だから、こういう白地の、おとなしめの方が落ち着くのではないかしら? 見た目も清潔感があっていいと思うわ。黒地は汚れが目立たないけど、それって本末転倒な気がするのよね……。ちなみに、ブリギッテ教はもっと戦闘的な感じだけど。ただ、あの人たち変わってるから。袖なしの真っ赤な服とか好きなのよね……。ちょっと私の美的センスが拒否反応を示すレベルの人が多いから、ワイズ教の服選びは楽でいいわ」
「人族より視野の広いドラゴンがいた!」
「気遣いで負ける人族の存在意義も問うべきですよ、フィネ?」
「ルギだってあたしの同類だから! 他人面禁止だよ!」
そんな言い合いをしている内に、銀貨1枚程度を使って、ミハイル達が私服を何着か購入した。
おすすめされた白地のシャツ数枚に、落ち着いた紺やカーキ色をしたズボン、それに黒のベルト。
シンプルだがよく似合う。
「自分の服を買って頂ける日が来るなんて。想像もしていませんでした。ありがとうございます!」
「買ってあげたわけじゃなくて、自分のお金で買っただけよ。今後もそうなさい。特に女子はおしゃれに気を使った方がいいわ」
「は、はい。キュールネ―お姉様!」
ミハイルではない、別の女性の孤児の少女が、妙に尊敬するような熱い視線を向けて言った。
「いえ。様はやめてね。同級生なんだから……」
ちょっと困り顔をするキュールネ―だった。
ところで、わたしは「おやおや?」 と私は意外に思う。
ちなみにルギも同じように思っているらしい。
「以前だったら、様付けを強要するくらいだったはずですが……?」
だよね。私もそう思った。
すると、耳ざとく聞きつけたキュールネ―は、プイっと顔を背けて、
「そうだったかしら? もう忘れたわ。さあ、もう行きましょう。お腹が減って来ちゃった」
そう言って、お店を後にする。
まあ、何はともあれ、
「いやぁ、最初はどうなることかと思ったけど、ちゃんと買い物の練習が出来て良かった。んじゃ、あとはお昼でも食べて解散にしよっか?」
「そうですね。この近くだと、ギルドが一番近くて美味しいですね」
「ん? あー、そうだなー。ギルドかー」
私は迷った表情を浮かべる。
個人的に、ちょっと、思うことがあったからだ。
「何かダメな理由でも?」
そんな風に私たち全員が道端で立ち止まって、相談していた時だった。
「おっと、ごめんよ、ぼうやたち」
ミハイルに男がぶつかって謝った。
「あ、いえ。こちらこそすみません。よそ見をしていて……」
私はすぐに叫んだ。
「ミハイル! 貨幣袋は!?」
「へ? あれ、どこに行ったのかな?」
彼が腰元に下げていた袋がいつの間にか消えていた。
「スリだ!」
「あっちに行きました! 追いましょう!」
私の叫び声に、ルギたちがいち早く反応して駆け出したのだった。