作品タイトル不明
181.謀略
181.謀略
~フィネ視点~
「追い詰めたぞ! さっさとミハイルのお金を返せー!」
ミハイルから貨幣袋をスった窃盗犯の男は、素早い動きで人気のない路地裏の奥へ奥へと進む。
だけど、追い詰めた。大きな壁、袋小路だ!
「追い詰めた? げへへ、それはどうかな?」
「なに!?」
「周りを見てみな、ひゃっはー!!!」
窃盗犯が叫んだ瞬間に、今まで建物だと思っていた壁から、何十という針が私たちを串刺しにするように射出された。
やばっ!?
私は躱しきれず、致命傷を負った自分を想像するが、
「危ないですわね、うろこに傷がつくでしょう?」
「キュールネー!」
追いついて来たキュールネ―が、黄金の翼だけを具現化させて、私たちの周囲を覆って防いでくれた。
「ただの 賊(スリ) ではなさそうですわね」
地面の針を見ながらキュールネ―はけだるく言った。
「どうだ、これが私たちの必殺技『友情パワー』だ!」
「変な名前をつけないでちょうだい、品性が同類だと思われたら、神龍の格が堕ちちゃうわ」
「二人とも油断しないで!」
「してない!」「してませんわ」
ソラの声に即座に反応する。
地面からも先ほどと同じように無数の針が飛び出して来たからだ。
とっさに後退する私たちをその針はしつこく斜角を変えて更に追い打ちをしかけてくるが、
「ウィンドバリア!」
びゅおおおおおおおおおおおおおおおお!!
ソラの発生させた魔法によって跳ね返す。
跳ね返された針が、
『ドス! ドスドスドスドスドス!』
反対に、窃盗犯へと殺到し、その体に吸い込まれて行く。
「みんな無事ですか? 敵は……」
ルギが警戒しながら近づく。
「危ない」
え?
普段、ほとんど声を発しないので、その声音が一瞬誰のものだか理解できない。
でも、すぐにピノだと思い至る。
緊急事態だと直感が告げた。
「危ない! ルギ!」
「え? 何が……」
何が起こっているのかをルギが聞こうとする。
ただ、これは単に私の斥候としての直感でしかない。だからどうすればいいのか伝えることは出来ない。
だから私に出来たのは。
「斥候スキル≪ スチイイイ(盗む) イル≫!」
「フィネ!?」
とっさにスキルを発動しながら、ルギに覆いかぶさった。
≪ スチール(盗む) ≫はその名の通り、相手の持ち物を盗む確率を上昇させるスキル。
これを発動した理由は、
「なに!? 貨幣袋を盗んだだと!? ひゃーははは! 馬鹿め!!」
バカはお前だ!
お金が目的なわけがない。
「馬鹿! 死ぬ気かフィネ!?」
ルギが叫んだ瞬間に、ギロチンの刃が二対空中に出現した。それが私たちに迫ってくる。
スキル連続使用!!
「切り札! スキル≪道連れ≫!!!」
「フィネ!」
ルギの吐息が顔にかかる。ああ、もう。集中できないでしょうが!
「死ねええええええええええ!! ひゃっはっははははははははは!」
ガギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインンンンンンン。
「はーっはっはっは……。な、なにいいいいい!?」
「ぐは!」
私の背中を凄まじい衝撃が襲う。
「身を挺して仲間をかばうとは、ぐっじょぶ! 喰らいなさいウインドッ……」
「ちぃっ。やれたのは一人か! だが目的は達成。撤退だ」
「逃がすとでもお思いですか! 一体どこの誰の差し金でっ……!」
「才能はあるが、まだまだ実戦不足だな。ひゃは!」
男はそう言うと、フッと姿を消した。
目の前に残されたのは、袋小路をつくる高い壁一枚だけだ
「消えた!?」
「違うわね。これは幻覚よ。……はあッ!!!」
キュールネ―が魔力を放つと、壁……。いや、幻覚を構成していた魔力構造が破壊される。
すると、その先には路地裏の道が単に続いているだけだった。
「何者でしょうか?」
「さーね。知らないわよ。先生方に報告よろしくね。ま、それより、死んだ仲間を埋葬しなくちゃ」
キュールネ―があっけらかんという。
「くそ! フィネ! 僕なんかをかばって死んでしまうなんて! あなたが死んだら僕はっ……!!」
「……」
「君とはこれからもずっと一緒だと思っていたのに。僕は自分の力のなさが情けない」
えーと……。
「こんなことでは冥界の父上になんと言えばいいのか。僕の大切なっ……」
「た、大切な?」
どきどき。
「大切なっ……て、どうして……」
ルギがぐったりしている私を乱暴に押しのけて、半眼になって言った。
「どうして死人がしゃべっているんですか?」
「死んでない! 勝手に勘違いしたのはあんただっつーの。キュールネ―も悪質!」
「……はぁ~」
スキル≪道連れ≫。
それは周囲にある物体をとっさに武器や防具にして使用できるという斥候のスキルだ。
ただ、余り使わない。何でかっていうと、
「銀貨がぐちゃぐちゃですね」
本来その道具の持つ用途以外に使用するから、その道具の耐久値を超えて壊れてしまうからだ。銀貨を重ねて作ったとっさの盾は、あのギロチンの前にもろくもボロボロになってしまった。価値は銅貨以下だろう。
でも、
「なんだよー。私が死んでた方が良かったのかよー」
「そんなわけないでしょう」
ぎゅー。
ドキリ!
抱きしめられてしまった! はわわ! はわわわわわ!
「ただ、もう二度としないでください。寿命が縮まります」
「あ、あっはっはっはっは! 私だってやりたくてやったわけじゃないから!」
「……そうですよね。僕がもっと強ければ」
あれ? ちょっといつもと反応が違うような。
「気にしない! 気にしない! みんな無事だったんだしさ! さ、早くミハイルのところにもどろ!」
「ええ、そうですね」
私は手を差し出すが、ルギは大丈夫だと言って、自分の力で立ち上がる。
私の手はむなしく空を切る……。
と思ったんだけど、
「んむ」
ガシ!
私の手と、ルギの手。
両方の手を、なぜかピノががっしりと掴んでいた。
「ちょっと、ピノ?」
「どうしたんですか?」
「小指」
え?
ピノ意味不明な行動に、私とルギが疑問符を浮かべている間に、彼女は私たちの左手の小指をつまむ。
そして、
「ちょん、ちょん」
お互いの小指同士をくっつけた。
「儀式完了」
「何の儀式よ」
キュールネ―が呆れた表情で見ていた。他のみんなも肩をすくめたり首を振るしかない。
まあ、とにかく全員無事だった。
何より、
「先生たちに報告だね」
妙な魔術師に襲われた。それはこの平和な王国を陥れようとする不穏な影のように思われた。