作品タイトル不明
178.種族がたくさんいることの強さ
178.種族がたくさんいることの強さ
「先生、改めてですが、 こんなもの(マンドラゴラ) が特産品になるのですか?」
孤児だったミハイルが不思議そうな顔で言った。
彼はマンドラゴラ採集の時も、他の孤児たちに積極的に声掛けなどをしてくれていた。
彼の言葉に、フィネが反応する。
「あたしはいらないかなー。焼いてもまずいし、何より姿かたちが気持ち悪い! マンドラゴラの絶叫を聞いた後だと、よりきしょく悪いって!」
ブルブル! と体を震わせた。
「では、エルフが買うのかしら。エルフは変わり者が多いから」
何だか可哀そうな目でソラの方を、キュールネ―が見るが、ソラは憤慨した様子で腰に手を当てて、
「ドラゴンほどではありません! 森と生きてて、ちょっと他種族からの干渉を嫌うだけです!」
「変わってるじゃない。と言いたいところだけど、まぁ確かに山に引きこもりがちなドラゴンほどではないかしら?」
キュールネ―があっさりと前言を 翻(ひるがえ) したりしていた。
なお、ピノは自由にちょうちょを追いかけているので放っておく。
「気が早いなお前たちは」
俺は苦笑しながら、
「これを食うのは相当の美食家だろう。俺も見たことは無い。そうじゃなくて、ちゃんと一つずつ鉢に植え替える。その際は、長持ちするように魔力が満ちた土を使う。それから、マンドラゴラの苗だけだと美観に欠けるから、花や飾りなど装飾がいるだろうな」
「装飾?」「美観?」「何言ってんだ、先生」
キュールネ―やソラ、フィネがそろって疑問を口にするが、ルギだけはポンと手を打って、
「ああ、そういうことですか。なるほど。分かりました、さすが先生ですね!」
いつも冷静な彼にしては珍しく、大きな声で言った。
「どういうことかしら?」
キュールネ―が顎に指をあてて、首をひねる。
それに対して、
「つまり、お主らは今まさに時代の変わり目にいるということよ」
そうフェンリルが言った。
他の者は分かっていないようだが、俺は頷いた。
「今フェンリルが言った通り、今は魔族とも和解し、ドラゴン族もこうして生徒を派遣してくれるくらいには、歩み寄りをしてくれている。エルフも同じく、だ。つまり、つい先日までのように、人族だけが商売の対象ではなくなった。というか、これからどんどん貿易が活発になっていく。今は時代の節目なわけだ」
「どこかの大賢者が邪神を倒したからのう」
「まぁそれは。きっかけの一つにはなったかもしれないな」
「相変わらず自己評価が控えめすぎるのよなぁ」
俺はフェンリルの呆れたような声をスルーする。
「ねえ、もう少し分かる様にいってくださいますか?」
キュールネ―からも催促が来た。
なので、
「ルギ」
俺は説明の続きを、事情を了解してくれたルギに説明を丸投げする。こういうのも授業の一環である。
「え? いきなりですね」
彼は頬をかきながらも説明しだす。
「つまり、これは防犯用の観葉植物、あるいは置物ということです。部屋や移動用の貴族用の馬車に飾るといいでしょう。そして、例えば敵襲とか、何かしらのピンチが訪れた時に引き抜けば相手は絶対に腰を抜かします。その間に持ち主は逃げるという寸法です」
「こんなうるさくて気持ち悪いもの、ぜってたい売れないって!」
フィネがもっともな疑問を言うが、
「それが人族の感覚なんでしょうね」
ルギは顎に手を当てながら言う。
「ですが、正直魔族は、こういう少し面白みのあるものが好きなんですよ。結構肝の座った貴族のご令嬢もたくさんいたりするので……。だから、庶民よりも貴族階級に売れるのではないでしょうか?」
「えっ、貴族が買うんですか?」
ソラが驚く。
俺は頷きながら、
「ルギの見立て通りだと思うぞ。この前ちょっと魔王と話してたんだが、こういうものが好きそうだった。面白いな、魔族っていうのは」
「さらっと魔王と世間話してニーズ調査してる、私たちの先生って一体……」
ソラが驚愕しているが、放っておいて、
「で、だ。こいつを貿易品として出してもいいが、少し売れ行きを確認してからのほうがいいだろう。幸い、この国には良い施設がある」
「そうか、旅館ですね。ブリギッテ様が経営する」
ルギがすぐに合点する。
「そうだ。温泉旅館アンミツの土産物屋で販売すればいい。ここは中立国だから魔族の出入りは自由だからな。特産品として販売する」
「ひえー、魔族相手の商売を早速考えるなんて、発想がけた違いですね、すごい! これは大儲けの匂いがする!」
フィネが目を輝かせて言った。
「大したことじゃないさ。だが、とりあえず魔王にはサンプルを送っておくか。面白いものが出来たと。うまくすれば魔族たちの間に宣伝してくれるだろう」
「じゃあ、僕らは後は魔力を土に移したり、鉢植えをしたりすればいいのでしょうか?」
孤児のリーダー、ミハイルが言うが、
「いい質問だな。答えは否、だ。それが今回の授業の肝の一つだな」
「え?」
生徒達が首をひねる。
「世の中は協力関係で回っている。そういった作業自体は別の者たちがやってくれるんだ。すべてを自分たちだけでする必要はない。加工ルートは冒険者ギルドのオシムが確保してくれている。つまり、俺たちとしてはマンドラゴラを採集したら、冒険者ギルドの受付に渡せばいい。その時点で貨幣に交換してくれるだろう」
「ええ? マンドラゴラみたいな気持ち悪い植物を渡したら、それでお金がもらえるんですの?」
「ああ。とはいえ、まだ貴族のご令嬢に売れたわけではないから、現時点では、買取単価は足元を見られるだろうがな。しかし、売れると分かれば、高騰すると思う。そうしたら、一苗で10銀貨ぐらいにはなるんじゃないか?」
「そ、そんなに!?」
生徒達がざわついた。なぜなら、
「節約すれば、1か月くらいは、普通に暮らせるぐらいのお金ですわ!」
「まぁな。これが経済というものだ。商品を作って、ニーズのあるところに高く売る。そうやって社会は回っている。……だからこの学校での経験と言うのは貴重だぞ?」
「どういうこと?」
フィネが首をひねる。
「だって、お前たちはバラバラの種族だろう? だから考え方も趣味嗜好も違う。しかし、それは決してマイナスではないんだ。今日の授業で分かったろう?」
「確かにそうだね! ピノがマンドラゴラの場所を探し出せたけど、移動を手伝ったのは空が飛べるキュールネーがいたから100個以上のマンドラゴラを採集できたし。エルフのソラが森に慣れているからてきぱきと指示してくれた。私は人族らしく用意周到に耳栓を沢山もってきたし、ルギのおかげでマンドラゴラが魔族に好意的に受け入れられることが分かった!」
俺は微笑みながら、
「そう、違う種族が協力することで、新しい価値を生み出せたり発見があったりする。ハッキリ言ってお前たちは可能性の塊なんだ。困ったらお互いに相談してみろ。きっと活路が見いだせるだろう」
「なるほど、これは発見ですね!」
「なんだか乗せられているようでしゃくですが、まぁ、異論ありませんわ」
ソラとキュールネ―が言った。
「いろいろな種族が協力すればきっと面白いことが出来るし良い社会になる。それを覚えておいてくれ」
「「「「「「「「はい、アリアケ先生!!!」」」」」」」
よし。
「宜しい。では今日の授業はここまでだ! ……と言いたいところだが」
俺は切り上げようとしたが、ピンときて、続けた。
「実際にこのマンドラゴラをギルドで貨幣に交換するところも見ておいたほうがいいな。言葉だけだと現実感がないだろうし」
俺がそう言うと、フィネがお金だお金~! と、はしゃいだ。さすが冒険者の娘は現金である。
逆に、ソラやキュールネ―は余りピンときてない感じだ。
この辺りも種族間でちょっと反応が違うのが面白いところだな。
そんなことを思っていると、フェンリルがやってきて、
「将来、こういった光景が当たり前になるのであろうなあ。主様といると一足先に世の中の先が見える。退屈とは無縁よな」
「買いかぶりさ」
彼女の言葉に俺は苦笑するのだった。
とはいえ、実際に俺の生徒達が卒業後に、様々な場所で色々な良い意味での事件を起こしていくことは間違いないだろう。
そんな確信が俺の中にはあるのだった。