軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 4

【敵襲?】「異議あり!」 ゴルド商会の令嬢、六法全書で殴り込み

「――そこまでですわ!」

喧騒に包まれた食堂に、凛とした声が響き渡った。

水を打ったように静まり返る生徒たち。

その視線の先に立っていたのは、純白のスーツに身を包んだ一人の女性。

ゆるふわな金髪に、知的な眼鏡。そして手には、辞書よりも分厚い革張りの書物――『帝国六法全書』が握られている。

「……誰?」

「綺麗な人だ……」

生徒たちが囁き合う中、彼女はカツカツとヒールを鳴らしてカイトの元へ歩み寄った。

「貴方がこの施設の代表、カイト様ですね?」

「うん、そうだけど。君は?」

カイトがキョトンとして答えると、彼女は眼鏡をクイッと押し上げ、ビシッと指を突きつけた。

「私はリベラ・ゴルド。ゴルド商会の顧問弁護士ですわ」

「ご、ゴルド商会……ッ!?」

その名を聞いた瞬間、隣にいたルーベンスが噴き出しそうになった。

大陸最大の流通組織。その会長の愛娘にして、法廷無敗の『白い悪魔』と呼ばれる弁護士が、なぜこんな辺境に!?

「単刀直入に申し上げます。この施設の運営に対し、『異議あり(オブジェクション)』ですわ!」

リベラは六法全書をテーブルにドォン! と叩きつけた。

「調査させていただきました。この施設は、法的に見て『トリプル役満』のアウトです」

「トリプル……役満?」

カイトが首を傾げると、リベラは流れるように罪状を読み上げた。

「第一に、『建築基準法違反』! あのような要塞(校舎)の建築許可、どこの役所が出しましたの? 基礎工事にオリハルコン? 違法改造にも程があります!」

「第二に、『危険生物飼育条例違反』! 校庭にドラゴンやフェンリルを放し飼いにするなんて、安全管理義務違反も甚だしいですわ!」

「そして第三に、『教育基本法違反』! 教員免許はお持ちで? カリキュラムは? さきほどの給食も、食品衛生法および 薬事法(ドーピング) に抵触する恐れがあります!」

リベラの言葉はマシンガンのようだった。

論理的かつ、隙のない法的三段論法。

ルーベンスは顔面蒼白だ。物理的な攻撃なら防げるが、ゴルド商会に経済制裁や法的措置をとられれば、農場の流通ルートが死ぬ。

「よって! 即刻この学校の閉鎖、および業務停止を勧告します! 従わない場合、裁判所へ提訴させていただきますわよ!」

リベラは勝利を確信した笑みを浮かべた。

どんな権力者も、この「正論」の前にはひれ伏してきたのだ。

だが。

「……さいばん?」

カイトはポカンとした顔で、リベラを見つめ返した。

「……ええ、裁判です。法廷で争うことになりますわよ?」

「へぇ~。それって、新しい野菜の名前?」

「は?」

リベラの思考が一瞬停止した。

野菜?

この男、今なんと言った?

「ごめんね、僕、農業のことしか詳しくなくてさ。『サイバン』って美味しいの? 煮物とかにできる?」

カイトは本気だった。

彼の辞書に「法」という文字はない。あるのは「美味しい」か「美味しくない」かだけだ。

リベラの完璧なロジックが、カイトの「天然」というブラックホールに吸い込まれていく。

「なっ、なっ……! ふざけないでくださいまし!」

リベラは顔を赤くして机を叩いた。

「私は真剣に……!」

「あ、そうだ。君、喉乾いてない?」

カイトはリベラの怒りをスルーし、ニコニコとお茶を差し出した。

「遠くから来たんでしょ? お茶淹れたから飲みなよ。龍魔呂さんの特製ハーブティーだよ」

「……ッ! 私を買収するつもりですの!? その手には乗りませんわ!」

リベラはプイッと顔を背けた。

だが。

ふわり、と漂ってきた香りに、彼女の鼻がピクリと動いた。

(……何、この香り? ベルガモットに似ているけれど、もっと芳醇で……心が落ち着くような……)

「美味しいよ? 六法全書読むのも疲れ目でしょ?」

「ぐぬぬ……」

リベラはゴクリと喉を鳴らした。

紅茶とお菓子には目がない。しかも、この香りは間違いなく「Sランク」。

だが、ここで飲んでしまえば、弁護士としてのプライドが崩れ去る。

「……け、結構です! 私はお茶を飲みに来たのではありません! 監査(かんさ) に来たのです!」

リベラは必死に誘惑を振り払い、立ち上がった。

「貴方が話の通じない方だということは分かりました。ならば……直接、『現場』を確認させていただきます!」

彼女はカイトを睨みつけた。

「教師陣の免許、および授業内容を精査します。もし一つでも不備があれば、その場で営業停止命令書を叩きつけてやりますわ!」

そう言い放ち、リベラは風のように食堂を出て行った。

「……行っちゃった」

カイトは残念そうにお茶を啜った。

「リベラちゃん、いい子そうだね。お茶菓子も用意してたのに」

「カイト殿……貴方の眼球はビー玉ですか?」

ルーベンスは胃薬の袋を破りながら突っ込んだ。

あれのどこが「いい子」なのか。全身から「訴訟」のオーラが出ていたではないか。

「マズイことになりましたぞ……。相手はあのゴルド商会。下手に揉めれば、農場の物資が止まります」

「大丈夫だよルーベンスさん」

カイトは食べかけのクッキーを齧りながら笑った。

「うちの先生たちは優秀だからね。監査なんて楽勝だよ!」

その言葉を聞いた瞬間、ルーベンスの脳裏に、

「ポテチを食う校長」「ブレスを吐く体育教師」「ブラック・ホールを作る魔法教師」の姿が走馬灯のように駆け巡った。

「……終わった」

ルーベンスはその場に崩れ落ちた。

最強弁護士 vs 最凶教師陣。

法廷バトルどころではない。これは「常識」と「神話」の全面戦争だ。