作品タイトル不明
EP 2
資本主義の暴力! 誕生、オロチおにいさん
ルナミス帝国、最高級五つ星ホテルのプレジデンシャル・スイート。
大理石のテーブルの上には、キャビア、フォアグラ、最高級和牛のステーキといった超高級食材が山のように並べられていた。
「もぐもぐもぐ! オロチおじ様、この黒いプチプチ(キャビア)、塩味が効いててパンの耳に最高に合いますわ!」
「ガハハハハ! ええてええて! ワシの魂のマブダチ(ずっ友)なんやで、遠慮せんと好きなだけ食やぁ!」
芋ジャージ姿のリーザが豪快に高級メシを胃袋に流し込むのを、紫のダブルスーツを着たゴルド商会会長・オロチが、蛇の目を♡マークにさせながらデレデレと見つめていた。
「で? リーザちゃんは『アイドル』をやっとるんだったな? 何かワシに手伝えることはにゃあか? ステージの建設か? それともライバル事務所の爆破か?」
「物騒ですの! ……実は私、どうしても出たい番組があるんですの」
リーザは、パンの耳を握りしめながら、目をキラキラと輝かせた。
「ルナミスTV局で毎週日曜の朝にやってる、大人気子供向け歌番組『ポロロロン♪』! あそこで歌を披露して、純真な子供たち(新規の太客)を大量に囲い込みたいんですの!!」
「……なるほど。未来の顧客を開拓するっちゅうわけだな。どえりゃあ素晴らしいビジネスモデルだわ!」
ずっ友フィルターのおかげで、リーザの強欲な発言すらも「素晴らしい経営戦略」に聞こえてしまうオロチ。
彼は金ピカの指輪がはまった指でパチン! と指を鳴らし、控えていた黒服を呼び寄せた。
「おい。今すぐルナミスTV局の株を過半数買い占めろ。今日からあの局は、ゴルド商会の子会社だわ」
***
数日後。ルナミスTV局、第1スタジオ。
「ひぃぃぃぃっ……!! お、お待ちしておりましたぁぁ!」
局長やプロデューサーたちが、床に額を擦りつけるほどの勢いで土下座の列を作っていた。
無理もない。大陸の経済を牛耳るゴルド商会が、突如としてTV局を丸ごと買収し、人気番組『ポロロロン♪』の完全ジャックを宣言したのだから。
パステルカラーの風船や、可愛らしい動物の着ぐるみが配置された、夢と希望に満ちた子供向け番組のセット。
しかし、そこに立ち込めているのは、極上の『ポポロシガー(葉巻)』の紫色の煙と、裏社会のドス黒いオーラであった。
「えー、お集まりの局員の皆さぁん」
カメラの前に立ったのは、ギラギラの原色パープルのダブルスーツを着こなし、首には純金の極太ネックレス、両腕にはダイヤが敷き詰められた超高級時計をジャラジャラと鳴らす男——オロチであった。
「今日からこの番組の『うたのおにいさん』を担当させてもらう、オロチおにいさんだわ。ワシのマブダチであるリーザおねえさんと一緒に、ちびっ子たちに愛と夢と【資本主義の現実】を教え込んだるでよ。よろしく頼むわ」
オロチがニヤァ……と、スリットアイ(蛇の目)を細めて笑う。
その圧倒的な「昭和のパチンコ屋社長(あるいはヤクザの組長)」の風格に、スタジオの隅に集められていたエキストラの子供たちは、恐怖のあまりガタガタと震え、今にも泣き出しそうになっていた。
「ちょっとオロチおじ様! 子供たちが怖がってますわよ! もっとアイドルらしく、フレッシュに笑顔ですの!」
芋ジャージ姿のリーザが、みかん箱の上に乗ってダメ出しをする。
「おっと、すまんにゃあ。オロチおにいさん、ちょっと凄みが出すぎたわ」
オロチはガハハと笑いながら、咥えていたポポロシガーの灰を、ADが震えながら差し出した純金製の携帯灰皿にトントンと落とした。
「ディレクター! カメラスイッチング、ワシとリーザちゃんのアップ多めで頼むでよ! 視聴率が100%切ったら、お前らの内臓をゴルド商会の闇ルートで売り飛ばすでな!」
「ヒィィィィッ!! は、はいぃぃぃぃ!! 5秒前! 4、3、2……(泣)」
キューサインが出され、カメラの赤いランプが点灯する。
世界一カオスで、世界一コンプライアンスを無視した子供向け番組『ポロロロン♪』の生放送が、ルナミス帝国全土に向けて放たれてしまったのであった。