作品タイトル不明
第三十二章 ずっ友ロコシと炎上の子供番組
運命の出会いは、タローソンのゴミ捨て場で
ルナミス帝国とポポロ村の境界線にあるコンビニエンスストア『タローソン』。
夕暮れ時の薄暗い裏路地で、ガサゴソとダンボールの山を漁る小さな影があった。
芋ジャージに健康サンダルという、およそアイドルとは程遠い姿の少女——【強欲貧乏アイドル】リーザである。
「フフフ……今日はツイてますの! まさかこんな極上の『廃棄品(お宝)』が落ちているなんて!」
彼女の手には、黄金色に怪しく輝く、ひと回り大きなトウモロコシが握られていた。
「この艶、この重み……間違いありませんわ。最近、悪徳政治家たちの間で密かに流行っているという噂の『ずっ友ロコシ』! 誰かが料亭帰りにでも落としたのか知りませんけど、茹でてあるし、今日の私のディナーには最高ですの!」
リーザがヨダレを垂らしながらトウモロコシをジャージの懐にねじ込もうとした、その時。
キキィィィッ!
路地裏の入り口に、周囲の空気を威圧するような漆黒の高級魔導リムジンが横付けされた。
「どえりゃあド田舎だわ。ここが噂のカイト農場があるポポロ村かね?」
リムジンの後部座席から降りてきたのは、強烈な原色パープルのダブルスーツに身を包み、金ピカの指輪をジャラジャラと鳴らす男——大陸の経済を牛耳る『ゴルド商会』の会長、オロチ(50歳)だ。
彼は特注のポポロシガーの煙をふぅーっと吐き出し、縦に割れた鋭い『蛇の 目(スリットアイ) 』でポポロ村を一瞥した。
「ふん。大国を退けた武闘派の村だと言うで、どんな恐ろしい連中がおるかと思えば……。こんな土地、ゴルド商会のカネの力でサクッと地上げして、巨大カジノリゾートにしてやるでよ」
傲慢な笑みを浮かべながら路地裏を歩き出したオロチの視線が、ゴミ箱の横にしゃがみ込む芋ジャージの少女と交差した。
バチッ!
(な、なんですのこのギラギラした成金おじさん……!? まさか、私のシマ(ゴミ捨て場)の廃棄弁当を狙う 同業者(ライバル) ……!?)
リーザの野生の勘(※底辺の生存本能)が、最大級の警鐘を鳴らす。
オロチもまた、露骨に眉をひそめて手をシッシッと振った。
「なんやこの小汚いネエちゃんは。ゴミ漁りなら余所でやりゃあ! ワシは今から大事な視察なんだわ。黒服、この小娘をつまみ出せ!」
「シャアァァァッ!!」
リーザは獲物を守る野良猫のように威嚇した。
「これは私が先に見つけたんですの! 権力で私の食料を奪う気なら、アイドル(野生)の恐ろしさを叩き込みますわよ!」
「ハッ! カネで買えんもんなんてにゃあて。やっちまえ!」
迫り来る屈強な黒服たち。
絶体絶命のピンチに、リーザの脳内で「底辺の処世術」が弾けた。
(ここで全ロスは避けなければ……! ならば、交渉(分け前)で手を打つしかありませんの!)
「ええい! わかりましたわ! あんたみたいな成金に、この極上トウモロコシの『半分』をくれてやりますの!」
パキィィィンッ!!
リーザは黄金に輝く『ずっ友ロコシ』を、見事な手際で真っ二つにへし折った。
「はい、半分こですの!! これで私のシマは荒らさないでくださいな!!」
「はぁ!? おみゃあ何言うとる——ムゴォッ!?」
リーザは、オロチの口に無理やり半分のロコシをねじ込み、自分も残りの半分に勢いよくかじりついた。
モグモグ、ゴクン。
——その瞬間である。
『ずっ友ロコシ』に秘められた、 脳内麻薬(オキシトシン) を強制分泌させる対人関係バグの魔力が、二人の脳髄を直撃した。
「……あ?」
オロチの縦に割れた冷徹な蛇の目が、ピクピクと痙攣し……。
ポンッ!
と、巨大なアニメのような『ピンク色のハートマーク♡』に変化した。
ドクン、ドクン、ドクン……!
オロチの脳内に、リーザとの「存在しない熱い友情の記憶」が濁流のように流れ込んでいく。
(……思い出しただわ。ワシが事業で失敗して泥水をすすっていた若き日、一緒にパンの耳を分け合ってくれた、魂の恩人は……リーザ、おみゃあだったなァ……!)
※完全にアイテムのバグによる幻覚である。
「……」
「……」
オロチは咥えていた高級なポポロシガーをポロリと落とし、震える手で、芋ジャージのリーザの両手をガシッと握りしめた。
「リーザぁぁぁっ! 会いたかったでよォォォ!」
「オロチおじ様ぁぁぁっ! 私もずっと探してましたのォォォ!」(※リーザの脳内もバグっている)
「黒服! 村の視察は中止だわ! 今日はワシの【最高のマブダチ(ずっ友)】との再会記念日だて! すぐにルナミス帝国で一番高いスイートルームと、極上のメシを用意せえ!!」
「フフッ! オロチおじ様の奢りなら、キャビアの乗ったパンの耳を限界まで食べますわよ!」
夕暮れのタローソン裏路地で。
大陸経済を牛耳る冷酷な極道社長と、パンの耳で命を繋ぐ底辺アイドルが、肩を組んで高笑いをするという、世界で最もカオスな「ズブズブの関係」が爆誕した瞬間であった。