作品タイトル不明
EP 10
概念改変! 最強農民の『 地獄土壌改良(ビニールハウス) 』
ズバァァァァァァァァァァァンッ!!!!
真紅の鬼神・ラビークの放った【無量大数獄炎刀】によって、地獄の絶対的支配者である閻魔大王が完全に両断された。
降り注ぐ赤黒い返り血の雨の中、賽の河原に静寂が訪れる——はずだった。
ピキッ……ピキキキキキッ!!
「……ッ!? なんだ!?」
コックピット内の龍魔呂が息を呑む。
空が、大地が、空間そのものが、まるでヒビ割れたガラスのように砕け始めたのだ。
「あわわわ! カ、カイトさん! 地獄の空間が崩れていきます!」
キャルルがカイトを庇うように前に出る。
「当然だ! 閻魔大王は『地獄のシステム』そのもの! 管理者(コア) を失ったこの空間は、因果律の崩壊を起こして虚無に消えちまうんだよ!!」
ポチが絶叫する。
崩壊は、無慈悲に進行していく。
賽の河原の大地が割れ、虚無の闇が顔を覗かせる。そして何より——。
「……にい、ちゃん……? 体が、透けて……」
カイトに預けられていたユウの体が、光の粒子となってポロポロと崩れ始めていた。地獄という器が壊れれば、そこに囚われていた魂もまた、消滅の運命を辿るのだ。
「ユウッ!!」
龍魔呂が血相を変え、ラビークのハッチを開けて飛び出そうとする。
だが、間に合わない。虚無の崩壊はすぐそこまで迫っていた。
——その時である。
「……まったく。閻魔の野郎、 土壌(システム) の管理が全くなってねぇな」
麦わら帽子を深く被ったS級農民・カイトが、崩れゆく賽の河原の大地(土)を一つかみし、ボロボロとこぼしながら深い溜息を吐いた。
「絶望ばかり吸わせるから、土が痩せ細って、こんな簡単にヒビが入るんだ。……赤点(Dマイナス)だぞ、こんな畑は」
カイトはドテラの懐から、彼がいつも農場の事業計画書や、作物の品質チェックの際に使っている【一本の赤ペン】を取り出した。
そして、虚無に向かって崩れゆく『空間のヒビ』に向かって、躊躇いなく赤ペンを走らせたのだ!
「ここから先は、俺の【 添削(リライト) 】の時間だ」
キュキュキュッ!
カイトの振るう赤ペンの軌跡が、空間のヒビを強引に「赤線」で結びつけ、縫い合わせていく。
【神界セレスティア —— & 宇宙管理センター(生配信中)】
『ファッ!?ww 空間のヒビを赤ペンで直してる!?』
『いやいやいや! 概念の崩壊だぞ!? 文房具で直るわけねぇだろ!』
『農民のやっていい 領域(スケール) じゃねぇ!www』
ゴッドチューブの画面の向こうで、神々が総立ちになってツッコミを入れる。
だが、カイトの農業特化のサイコパス理論は、宇宙の常識すらも超越していた。
「ポチ! リーザ! キャルル! 手伝え! この荒れた土地(地獄)に、極上の『ビニールハウス』を建てるぞ!!」
カイトが赤ペンをしまい、今度は手にした超硬度クワを、賽の河原の大地に力強く突き立てた。
そこから、カイトの持つ圧倒的な『生命を育む力(農民のオーラ)』が、地獄の最下層へと爆発的に注ぎ込まれていく!
「オ、オレの時間を遅延させる力を、骨組み(フレーム)に使うのか!? やってやるぜ!」
ポチが時間操作の力で、崩壊の速度を極限まで遅延させ、空間を固定する。
「私のも使いなさいな! 【Love & Money】で、空間の強度を買い取りますの!」
リーザの強欲な魔力が、ポチの固定した空間に「絶対的な価値」を付与して補強する。
「カイトさんの為なら! 私の月光薬の回復力を、空間そのものに注ぎ込みます!」
キャルルが安全靴で大地を踏みしめ、癒やしの光を大地の亀裂へと流し込む。
「いくぞ……! 【農民奥義・ 極大生命温室(アルティメット・ビニールハウス) 】!!」
カイトがクワを天高く振り上げた瞬間。
地獄の赤黒くひび割れた空を覆い尽くすように、半透明で暖かな光を放つ【超巨大なビニール(概念の膜)】が出現した。
吹き荒れていた虚無の風が止む。
氷のように冷たかった賽の河原が、まるで春の陽だまりのような、暖かく優しい空気に包まれた。
「……あ……。体が、元に戻った……」
消えかけていたユウの体が、暖かなビニールハウスの光を浴びて、完全に実体を取り戻した。他の子供たちの魂も、安心したようにその場に座り込む。
カイトは、閻魔大王というシステム管理者を失った「地獄」という名の概念そのものを、魂を優しく保護して育む『極上のビニールハウス(魂のゆりかご)』へと、強引に書き換えてしまったのだ。
『……嘘、でしょ……』
神界の宇宙管理センターで、宇宙神ユニーバが持っていたマカロンを取り落とした。
『あ、あのただの農民……。神でも不可能な【宇宙の概念の書き換え】を、農業理論だけでやり遂げたわ……!!』
『お前ら、こいつ(農民)が一番ヤバいだろww』
『宇宙のシステムが赤ペンで修正された歴史的瞬間』
『カイト農場、ついに地獄を自社のビニールハウスに買収完了』
コメント欄は、驚愕と大爆笑の渦に呑み込まれていた。
「……ふぅ。これで、土壌の準備は完了だ」
カイトはクワを肩に担ぎ、満足げに額の汗を拭った。
そして、ランクルから降りてきた龍魔呂と、その横で浮遊するポチを振り返る。
「最高のビニールハウス(環境)が整った。これなら、どんな無茶な種(過去)を植え直しても、絶対に枯れることはねぇ」
カイトの言葉に、ポチがゴクリと唾を飲み込む。
「あぁ。……なら、俺の出番だな」
かつて世界を滅ぼしかけた始祖竜クロノが、カイトから貰った大量の『角砂糖』をボリボリと一気に噛み砕き、その真の権能を解放する準備に入った。
【時空改変】。
「ユウが死んだ事実」を消し去るための、最後の儀式が今、始まろうとしていた。