作品タイトル不明
EP 8
閻魔降臨と、絶対絶命の『機神』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!!
地獄の大地が悲鳴を上げ、赤黒い空が幾重にもひび割れる。
カイトたちが 肥料(ミンチ) に変えた大悪魔の残骸を踏み躙りながら、地平線の彼方から『それ』は立ち上がった。
天を突くほどの巨体。
身に纏うのは、地獄の業火で織り上げられた十二単衣。
そして、その顔には怒れる鬼神の如き恐ろしい形相が浮かび上がっている。
「……何事だ。我が庭(地獄)を荒らし、生と死の 理(ことわり) を乱す不届き者は!!」
地獄の絶対的支配者——【閻魔大王】。
その声は音ではなく、直接魂をすり潰すような『 重圧(プレッシャー) 』となって、ポポロ村の面々にのしかかった。
「ひ、ひぃぃ……っ! なんですの、あのデカさ……!?」
「さ、さすがのオレでも、ちょっとヤバい空気を感じるぜ……っ!」
先程まで無双していたリーザが膝をつき、始祖竜であるポチですら冷や汗を流してカイトの背中に隠れる。
閻魔から放たれるのは、単なる魔力や暴力ではない。【地獄のシステム(法則)】そのものが持つ、逆らうことのできない絶対的な権威だった。
「……ユウ」
龍魔呂は、震えるユウの小さな体をカイトへと預けた。
「カイト。少しの間、ユウを頼む」
「おう。任せとけ。……だが、あのデカブツ、俺のクワじゃ届かねぇぞ」
カイトが麦わら帽子を押さえながら、見上げるほどの巨神(閻魔)を睨む。
「問題ない。……あいつを粉砕する『特大の農機具』なら、俺が持っている」
龍魔呂は咥えていたタバコを吐き捨て、インカムのスイッチを強く叩き込んだ。
「ガジェット!!」
『ヒャーハッハッハ! お待ちかねだぜマイ・マスター!! 宇宙最強のオモチャ、最高のタイミングでデリバリーしてやるよォ!!』
空気を切り裂く狂気の笑い声と共に。
閻魔大王の頭上の空間(次元の壁)が、パリンッ! とガラスのように砕け散った。
ズドゴォォォォォォォォンッ!!!
隕石落下にも等しい衝撃波が賽の河原を吹き飛ばす。
もうもうと舞い上がる土煙を切り裂いて立ち上がったのは、巨大な二本角(兎の耳)を持つ、純白の【人型機神 ラビーク(Rabiik)】であった。
宇宙論的質量を持つ超硬度特殊合金【ヒイロガネ】で構成された、神すらも凌駕する機械の巨神。
龍魔呂の体が光に包まれ、瞬時にラビークのコックピットへと転送される。
「 起動(ブート) 」
ウゥンッ……!
ラビークの純白の双眸が、深紅に発光した。
「ほぅ……機巧の巨像か。だが、地獄の王たる我に、そのような玩具が通じると——」
「五月蝿い。消えろ」
閻魔の言葉を遮り、ラビークの背部コンテナが展開。
龍魔呂の動きと完全に 連動(モビルトレース) したラビークの腕に、護衛艦の主砲クラス(127mm)を束ねた超特大のガトリング砲が握り込まれた。
龍魔呂から溢れ出す【赤黒い闘気】が銃身に流れ込み、極限の破壊質量が付与される。
ギュインッ……ズドドドドドドドドドドドドドドッッ!!!
毎分数千発の「赤黒い闘気弾」が、面制圧の嵐となって閻魔大王の巨体を完全に飲み込んだ。
【神界セレスティア —— 女神のコタツ部屋(生配信中)】
『うぉぉぉぉぉっ!! ラビーク降臨キタァァァ!』
『ロボットアニメ始まったぞww 激アツすぎる!!』
『やっちまえ! 閻魔ごと地獄を更地にしろ!!』
ゴッドチューブのコメント欄が、この日一番の熱狂に包まれる。
PV数は天文学的数字に達し、宇宙神ユニーバも「がんばれラビークちゃん!!」とペンライトを振って大絶叫していた。
——だが。
その熱狂は、数秒後に「完全なる絶望」へと叩き落とされることになる。
「……愚かな」
凄まじい爆炎と土煙が晴れた後。
そこに立っていた閻魔大王の巨体には、ただの一つの傷すらついていなかった。
「な、なんだと……!?」
コックピットの中で、龍魔呂が目を見開く。
『バ、バカな!? ラビークのヒイロガネ徹甲弾が全弾直撃したんだぞ! 装甲どころか、山脈が丸ごと消し飛ぶ威力だぞ!?』
通信機越しにガジェットがパニックを起こす。
「無駄だ、生者よ」
閻魔大王が、無慈悲な声で宣告する。
「我は『地獄の理』そのもの。物理の破壊も、魔の闘気も、この空間の法則を書き換えない限り、我には届かぬ」
ズォォォォォ……ッ!!
閻魔大王が、天を覆うほど巨大な右手を振り上げた。
そこから放たれたのは、空間そのものを圧縮し、全ての存在を無に帰す【冥界の重力波】。
ドゴォォォォォォォンッ!!!!
「グ、ガァァァァァァッ!?」
ヒイロガネの超硬度装甲を持つラビークが、まるで紙屑のようにひしゃげ、賽の河原の大地に力強く叩きつけられた。
『警告! 警告! 機体損傷率40%! 姿勢制御不能! マイ・マスター、逃げろ! 次の攻撃を食らったらラビークごとペシャンコだ!!』
コックピット内に、赤いエマージェンシーランプと警告音が鳴り響く。
「くそっ……! 動け……! 動けェッ!」
龍魔呂が操縦桿代わりのコンソールを叩くが、閻魔の圧倒的な重力波に押さえつけられ、ラビークは指一本動かすことができない。
「終わりだ。地獄の塵となるがよい」
閻魔の巨大な足が、完全に無防備となったラビークを踏み潰そうと、ゆっくりと持ち上げられた。
『あぁぁぁ! ラビークがぁぁ!』
『嘘だろ、あの龍魔呂が手も足も出ないなんて……!』
『終わった……』
ゴッドチューブのコメント欄が、一瞬にして絶望に染まる。
龍魔呂の視界が、巨大な影(死)によって完全に覆い尽くされようとしていた。
絶体絶命。
誰もが龍魔呂の敗北を確信した、その刹那である。
——ピシャァァァァァァァァァァンッ!!!!
地獄の赤黒い空を、一筋の『黄金の 雷(いかずち) 』が切り裂いた。