軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 7

【Love & Money】と、地獄の『土壌改良』

「グオォォォォォォッ!!」

「生者だ! 生きた肉だァァァッ!」

三途の川が氾濫し、地獄の深層から湧き出した大悪魔の軍勢が、空を黒く染め上げるほどの数で迫り来る。

先程の雑兵(鬼)とは次元が違う。一体一体が国を滅ぼすほどの魔力を持った、正真正銘の『災厄』たちだ。

だが、その絶望的な大軍勢を前にして、賽の河原のド真ん中に置かれた「みかん箱(お立ち台)」の上に立つ少女は、不敵な笑みを浮かべていた。

「さぁ、魔法の時間の始まりよ!」

芋ジャージに健康サンダル姿の【強欲貧乏アイドル】リーザが、マイク(※ただの木の枝)を握りしめ、天高く突き上げた。

『愛!アイ!愛!アイ!ラ~ブラブ! (Fu Fu!)』

『マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ! (Yeah!!)』

朗々と響き渡る、人魚姫としての本気の歌声。

彼女のオリジナルソング『Love & Money』の規格外のメロディが、地獄の空気を一瞬にして塗り替えた。

「な、なんだこの音波は……!?」

「き、貴様ら、何をしている! さっさとその人間どもを喰い殺——」

大悪魔たちが襲いかかろうとした、その瞬間。

ピタリ……と、数万の悪魔軍団の動きが、まるで時間が停止したかのように完全に止まったのだ。

「フフッ。私がステージに立って歌うと、ファン達の『時間』を奪うことができるんですの」

リーザの瞳が、狂気にも似た強欲の(¥)マークに輝く。

そう、彼女の歌は、聴く者すべての思考を停止させ、彼女だけを直視させる【 強制魅了(タイム・スティール) 】のバフ効果を持っていた!

「さぁ、地獄のファン(亡者)のみなさん! 私のために世界(地獄)を回して! 貴方たちの時間と、命と、ありったけの 財産(スパチャ) を、私に全部貢ぎなさいなーっ!!」

『ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ (Want You! Want You!)』

恐るべき歌の力。大悪魔たちは、殺意を完全に忘れ、なぜか手持ちの地獄の業火をサイリウム代わりに振り回し、「オ・レ・の! リーザァァァ!!」と奇声を上げて熱狂のコールを打ち始めたのだ。

【神界セレスティア —— 女神のコタツ部屋(生配信中)】

『ファッ!? 地獄の大悪魔がオタ芸打ってるんだけどww』

『アイドルの強欲が地獄のシステムを上書きしたぞ!!』

『画面から目が離せねぇ……っ! おれの 全財産(スパチャ) 持っていけリーザァァ!』

キュララの配信カメラを通じ、リーザの『時間を奪う歌』は全宇宙の神々をも完全に魅了していた。

画面の隅の視聴者数(PV)メーターが、異常な速度で跳ね上がる。

1,000万、5,000万……そして、ついに【同時接続者数:1億人】を突破!

「あわわわ! ル、ルチアナ様! 神界のサーバーから煙が出てますぅ!」

「もう知らない! 落ちないようにユニーバ様に冷却魔法かけさせなさい!!」

宇宙管理センターで、トップであるユニーバが「ひぃぃ! サーバーが溶けるぅぅ!」と半泣きになりながら冷却魔法をかけ続けるという、宇宙規模の異常事態に発展していた。

一方、地獄の地上。

悪魔たちがリーザの歌に夢中になり、完全に無防備になったその隙を、ポポロ村の面々が見逃すはずがなかった。

「……村長の業務、執行します」

タローマン特注の安全靴を履いたヤンデレ物理村長・キャルルが、クラウチングスタートの姿勢をとった。

彼女の安全靴に仕込まれた『雷竜石』が解放され、1億ボルトの紫電が彼女の全身を包み込む。

「カイトさんの道を阻む害虫(悪魔)は、一匹残らず駆除します……! 【月影流・超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)】!!」

ドッバァァァァァァァンッ!!!!

地獄の空気を引き裂く、マッハ1の 衝撃波(ソニックブーム) 。

紫電の雷光を纏ったキャルルが、空中で三角飛びを繰り返しながら、オタ芸を打っていた大悪魔たちの顔面を、277トンの威力を持つ飛び蹴りで次々と粉砕していく!

「アッブェ!?」「ギベェッ!!」

顎を砕かれ、全身の骨を粉々にされながら、悪魔たちがボウリングのピンのように吹き飛んでいく。

「おのれェ! 目が覚めたぞ! 殺せェェ!」

一部の強力な悪魔が我に返り、反撃の炎を放とうとするが——。

「オレのダチ(龍魔呂)には、指一本触れさせねぇぜ!」

始祖竜ポチが【時間操作】の権能を発動。

悪魔たちの放った魔法や動きが、スローモーションのように 遅延(ディレイ) される。

そして、その超スローモーションになった悪魔たちの前に、麦わら帽子を被った男が、巨大な『超硬度クワ』を担いで悠然と歩み出た。

「よし、キャルルが程よく砕いて、ポチが時間を止めてくれたな」

カイトは、首をコキコキと鳴らしながらニカッと笑う。

「地獄の 土(あくま) は硬すぎて使い物にならねぇが……よォく『耕して』やれば、極上の 肥料(ミンチ) になりそうじゃねぇか!!」

ドゴォォッ! バキィィッ! メシャァァッ!!

完全なる農業サイコパスの目覚め。

カイトの振るうクワが、悪魔たちの頭蓋骨を、硬い土くれを砕くかのように次々と粉砕し、地獄の土壌へと漉き込んでいく。

もはや戦闘ではない。これは、ただの【極端に暴力的な農作業】であった。

大悪魔の軍団は、アイドルの歌に魅了され、ヤンデレ村長に蹴り殺され、農民に肥料として耕されるという、地獄の歴史上、最も理不尽で屈辱的な蹂躙を受けて壊滅した。

『……ハッハッハ! すっげぇカオスだぜ!!』

ランクルに寄りかかりながら、龍魔呂が二丁のサブマシンガンを肩に乗せ、久しぶりに腹の底から笑っていた。

彼の心に渦巻いていたドス黒い殺意が、このイカれた仲間たちの非常識な強さによって、見事に吹き飛ばされていたのだ。

だが。

彼らの笑顔を切り裂くように、地獄の底から「真の絶望」が這い上がろうとしていた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!!

「……何事だ! 地獄(わし) の庭を荒らし、 理(ことわり) を乱す不届き者は!!」

地平線の彼方。

天を突くほどの巨大な影が、地獄の業火と共に立ち上がった。

全てを裁く冥界の絶対的支配者——【閻魔大王】が、ついにその姿を現したのである。