軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 5

三途の川と、賽の河原

地獄の荒野を爆走していたランクルが、徐々にそのスピードを落としていく。

あれほど群がっていた悪魔たちの姿は、いつの間にか消え失せていた。

「……着いたな」

龍魔呂がブレーキを踏み込み、エンジンを切る。

重低音の駆動音が止むと、車内を満たしていたベートーヴェンの『交響曲 第7番』も静かに沈黙した。

フロントガラスの向こうに広がっていたのは、赤黒く濁った巨大な大河——【三途の川】。

そして、その岸辺に広がる、無数の石が転がる荒涼とした河原——【賽の河原】であった。

「……なんだ、ここは。空気が……重すぎる」

後部座席のポチが、ブルッと身震いをする。

先程までゲリラライブの準備ではしゃいでいたリーザや、トンファーを構えていたキャルルも、その異様な光景を前に言葉を失っていた。

カチャ、カチャ、カチャ……。

静まり返った河原に響くのは、硬い石と石がぶつかる虚ろな音。

見渡す限りの荒涼とした石原で、無数の『小さな子供たちの亡者』が、泣きながら、あるいは無表情のまま、ひたすらに小石を積み上げ、塔を作っていた。

「親より先に死んだ子供たちが落ちる地獄、賽の河原……」

カイトが麦わら帽子のツバを深く下げ、低い声で呟いた。

子供たちが泣きながら石を積み上げ、もう少しで塔が完成する——その時だった。

「ギャハハハハ! 崩れろ崩れろォ!!」

「てめぇらの石積みなんざ、永遠に終わらねぇんだよ!!」

巨大な金棒を持った地獄の鬼たちが現れ、ゲラゲラと下劣な笑い声を上げながら、子供たちが必死に積み上げた石の塔を蹴り崩し、鉄の鞭で容赦なく子供たちを打ち据え始めたのだ。

「ひぃっ! ごめんなさい、ごめんなさい!」

「うわぁぁぁん! ママぁ、パパぁ……!」

泣き叫ぶ子供たち。しかし鬼たちは一切の慈悲もなく、再び石を積むように強要し、鞭を振るう。

その終わりのない絶望のシステムが、賽の河原の真実であった。

「……ひどい……ですの……」

リーザが口元を手で覆い、涙を浮かべる。

龍魔呂は、無言のままランクルのドアを開け、河原へと降り立った。

彼の漆黒の瞳が、無数の子供たちの中から『一人の小さな影』を、正確に捉えていた。

(……ユウ……)

河原の片隅。

泥だらけになりながら、小さな手で必死に石を積んでいる5歳ほどの男の子。

かつて龍魔呂が守り抜けず、共にゴミ捨て場に捨てられた愛する弟、ユウの姿がそこにあった。

「……にい、ちゃん……。にいちゃん、たすけて……」

ユウが泣きながら石を積む。

だが、その背後に、醜悪な笑みを浮かべた鬼が忍び寄った。

「オラァ! 手が止まってんぞガキィ!!」

ピシャァァァァッ!!

無慈悲な鉄の鞭が、ユウの小さな背中を打ち据えた。

「ああっ……! う、うぅぅ……っ!」

ユウが痛みに顔を歪め、崩れ落ちた石の山の上に倒れ込む。

その瞬間。

ギギッ……!

龍魔呂の頭の中で、何か決定的な『タガ』が外れる音がした。

(——ユウを殺したら カナラズオマエヲ コロス——)

かつてのフラッシュバック。燃え盛る家、闘技場の絶望。

それらが、目の前の光景と完全にリンクし、ドス黒いマグマとなって龍魔呂の脳髄を焼き尽くした。

「……マスター?」

車内にいたポチが、龍魔呂の背中から立ち昇る『異常な気配』に気づき、息を呑む。

龍魔呂の全身から、空間そのものを歪ませるほどの【赤黒い闘気】が間欠泉のように噴き出し始めたのだ。

それは、彼が人間としての理性を捨て去り、完全なる殺戮の化身——【死を呼ぶ四番(DEATH4)】へと変貌した証。

「……」

龍魔呂は懐から『マルボロ赤』を取り出し、真鍮製のオイルライターを構えた。

——カチッ。

冷たく、重い金属音。

処刑開始のゴングが、地獄の河原に響き渡った。

そして、龍魔呂の耳に装着されたインカムから、次元を超えたマッドサイエンティストの声が狂喜と共に響く。

『ヒャーハッハッハ! バイタル異常検知! 精神リミッター解除! お待ちかねだぜマイ・マスター!! 最高の音楽(BGM)と共に、クソッタレな鬼どもをミンチにしてやれェ!!』

ガジェットの遠隔操作により、ランクルのカーステレオが強制起動する。

流れ出したのは、世界の終末と神の怒りを歌い上げる最狂の処刑BGM——ヴェルディ作曲『レクイエム』より、「怒りの日(Dies Irae)」。

ジャジャジャジャーン!! ジャジャジャジャーン!!

荘厳にして絶望的なコーラスが地獄の空を切り裂く中。

「……貴様らが、悪だ」

死神の宣告と共に、龍魔呂の手にはガジェット特製の【二丁のサブマシンガン】が握られていた。