作品タイトル不明
EP 4
ハイウェイ・トゥ・ヘルと、激アツの『確定演出』
ズドゴォォォォォォンッ!!
血のように赤い空。ひび割れた荒野。
硫黄の悪臭が立ち込める地獄の大地に、重さ2トンを超える鋼鉄の塊——『トヨタ ランドクルーザー 70系』が、轟音と共に着地した。
「……空気が悪いな。だが、走るには十分だ」
運転席の龍魔呂が、静かにシフトレバーを叩き込む。
車内に流れるベートーヴェン『交響曲 第7番 イ長調 第2楽章』の重厚な旋律が、絶望に満ちた地獄の景色と奇妙なまでにマッチしていた。
ヴォロロロロォォォォンッ!!
アクセルが踏み込まれ、ランクルが地獄の荒野を爆走し始める。
だが、生者の放つ強烈な匂いに、地獄の住人たちが黙っているはずがなかった。
「グォォォォッ! 生きた人間だァァ!」
「肉だ! 魂だァァァッ!」
荒野の岩陰から、三つの頭を持つ巨大な地獄の 番犬(ケルベロス) の群れや、武装した悪魔たちが、よだれを垂らしながらランクル目掛けて殺到してきた。
「おいおい! いきなり大群のお出ましだぜ!?」
後部座席のポチが慌てる。
だが、龍魔呂の瞳に一切の揺らぎはない。彼は咥えていたタバコの灰を窓の外へ落とすと、無表情のままアクセルをさらに強く踏み込んだ。
「……邪魔だ」
ドゴォォォォォォッ!!
回避行動など一切なし。
龍魔呂の『赤黒い闘気』でコーティングされたランクルは、真正面から突っ込んできたケルベロスの群れを、情け容赦なく撥ね飛ばし、ミンチに変えていく!
「ギィェェェェッ!?」
「な、なんだこの鉄の箱は!? 硬すぎるゥ!」
「横から取り憑け! 窓を割れ!」
轢き殺される仲間を尻目に、数匹の身軽な悪魔たちが、ランクルの側面に飛びついて窓ガラスを叩き割ろうとした。
——その時である。
ウィィィィン……と、後部座席の窓ガラスが静かに下りた。
「失礼します。ポポロ村の村長、ただいま村外パトロール中です」
窓から身を乗り出したのは、特注の安全靴を履いたヤンデレ物理村長・キャルルだった。
彼女は走行中の車の窓枠に手をかけると、そのままの体勢で脚を振り上げ……。
「【月影流・鐘打ち】」
メシャァァァァッ!!
タローマンで購入した特注の安全靴のつま先が、側面に張り付いていた悪魔の顎を粉砕した。
「アッブェ!?」
歯を撒き散らしながら、悪魔が荒野へと転がり落ちていく。キャルルは次々と群がってくる悪魔たちの顔面を、窓から足を突き出してリズミカルに蹴り飛ばしていった。
「おお! いいぞキャルル!」
助手席のカイトが、身を乗り出して親指を立てた。
「地獄の 土壌(あくま) はカチカチで質が悪い! お前の安全靴で顎(岩)を砕いて、車のタイヤで耕せば、上質な『肥料』になりそうだ!!」
「はいっ! カイトさんの為に、極上の肥料を作ります!(ヤンデレスマイル)」
カイトの狂った農業解釈と、キャルルの物理粉砕が地獄の荒野を蹂躙していく。
【神界セレスティア —— & ルナミス帝国(生配信中)】
その規格外の惨劇は、上空を追従するキュララの【配信ドローン】によって、余すところなく全世界へ生中継されていた。
『ちょww ランクルでケルベロス轢き殺すなww』
『安全靴の村長、物理強すぎて草』
『カイトまた悪魔を肥料にしてるよ……』
コメント欄が爆速で流れる中。
ルナミス帝国のパチンコ店で、その配信を見ていた一人の男が、台を叩いて絶叫していた。
「うぉぉぉぉぉぉっ!! マジかよ!!」
ヒモニートと化した調停者、狼王フェンリルである。
「この後ろからのカメラアングル! 立ち昇る赤黒いオーラ! そして次々と撥ね飛ばされる魔獣の大群! 間違いねぇ……パチンコ『CR異世界王道トラックでドン!』の、【超激アツ・ケルベロス轢き逃げリーチ】の完全再現だァァァ!!」
重度のパチンカスであるフェンリルは、脳汁をドバドバと分泌させながらエンジェルすまーとふぉんをタップし、狂ったように【赤スパチャ(100万G)】を龍魔呂たちに投げ銭し始めた。
『【狼王フェンリル:確定演出キタァァ! そのまま突っ走れェェ!!】』
神々すらも熱狂の渦に巻き込みながら、龍魔呂の乗るランクルは、地獄の悪魔たちを文字通り「蹴散らし」ながら爆走を続ける。
「ひ、ひぃぃぃ……っ! なんだあいつら!? 地獄をドライブスルー感覚で荒らし回ってやがる……!!」
生き残った悪魔たちは、遠ざかっていくランクルのテールランプを見つめながら、恐怖にガタガタと震え上がることしかできなかった。
だが、この狂乱のロードムービーも、やがて終わりを告げる。
彼らの行く手に、赤黒く濁った大河——【三途の川】と、その河原が見えてきたのだ。
龍魔呂の顔から、僅かな笑みが消え去る。
ここから先は、彼にとっての「本物の地獄」への入り口であった。