作品タイトル不明
EP 7
機神降臨と、絶対質量の『蹂躙』
「ギィェェェェェェェェッ!!」
廃教会の地下から這い出た『古代の巨魔獣』の咆哮が、ポポロ村の空気をビリビリと震わせた。
全身を硬い鱗と無数の触手で覆われた、体高20メートルを超える災厄の化身。かつて軍隊が総出で封印したというその怪物が、涎を垂らしながら龍魔呂を見下ろしている。
「ヒャハハハハ! 踏み潰せ! そのイキったガキを肉塊に変えてやれェ!」
這いずり回る頭目が、狂ったように叫ぶ。
だが。
見上げるほどの絶望を前にしても、龍魔呂は咥えたタバコの煙を細く吐き出すだけだった。
「……宿代(村)を荒らすな」
『ヒャーハッハ! その通りだぜマイ・マスター! お待ちかね、俺の 最高傑作(オモチャ) の出番だァ!!』
空を覆い尽くすほどに巨大な【次元の裂け目】が、頭上にパカッと開いた。
そこから、純白の流線型フォルムを持つ巨大な影が、隕石のような速度で落下してくる。
ズッグゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!
大地が爆発したかのような衝撃波。
もうもうと舞い上がる土煙を切り裂いて立ち上がったのは、巨大な二本角(兎の耳)を持つ、純白の【人型機神 ラビーク】だった。
「な、なんだあの巨大なゴーレムは……!?」
頭目が絶望に顔を引き攣らせる。
龍魔呂の体が光に包まれ、瞬時にラビークのコックピットへと転送された。
内部には、操縦桿もレバーも存在しない。
ガジェットの開発した【モビルトレースシステム】。龍魔呂の『鬼神流』の武術の動きを、タイムラグ・ゼロで巨大な鋼鉄の巨体に連動させる完全同調操縦機構である。
「 起動(ブート) 」
ウゥンッ……!
ラビークの純白の双眸が、深紅に発光する。
「ギョォォォォッ!!」
魔獣が巨大な爪を振り上げ、ラビークを一刀両断すべく叩きつけてきた。
直撃すれば山すら削り取る一撃。
だが、コックピット内の龍魔呂は、焦ることもなく静かに右腕を円を描くように回した。
【陳式太極拳・ 化勁(かけい) 】。
ガァァァァンッ!!
ラビークの右腕が、魔獣の凶爪をヌルリと受け流す。
その瞬間、魔獣の腕が「ボキボキボキッ!」と嫌な音を立ててあり得ない方向へへし折れた。
「ガァ……!? ギィッ!?」
魔獣が痛みに狂い、後ずさる。
『ヒャハハハ! 驚いたか! ラビークの装甲材質は、俺が次元の狭間で精製した宇宙論的質量を持つ超硬度特殊合金【ヒイロガネ】だ!』
インカム越しにガジェットが早口でまくしたてる。
『異常なまでの硬度と質量! つまり「絶対防御=絶対攻撃」! ラビークがただ腕を振るうだけで、その運動エネルギーは隕石落下に匹敵するんだよォ!』
「……五月蝿いぞ、ガジェット。武器を寄越せ」
『アイアイサー!』
ラビークの背部コンテナが展開し、龍魔呂の手に巨大な火器が握られた。
護衛艦の主砲クラス(127mm)の口径を、そのまま束ねてガトリング機構にした頭のおかしい特大火器。
龍魔呂の全身から溢れ出す【赤黒い闘気】が、ラビークの機体を通じてガトリング砲へと流れ込み、弾丸一つ一つに圧倒的な破壊の呪いを付与していく。
「……消えろ」
ギュインッ……ズドドドドドドドドドドドドドドッッ!!!
毎分数千発。
戦艦の主砲レベルの「赤黒い闘気弾」が、面制圧の嵐となって魔獣に襲いかかった。
「ギャアアアアアアッ!?」
分厚い鱗も、再生能力も全く意味を成さない。魔獣の巨体が、触手ごと凄まじい勢いで削り取られ、周囲の地形ごと地形図から消去されていく。
「ま、待て! 降参だ! 降参するから——」
魔獣の足元で這いずり回る頭目が命乞いをするが、龍魔呂の耳には届かない。
「終わりにする」
ガトリング砲を投げ捨て、ラビークが背中から引き抜いたのは、超巨大な大剣——【無量大数獄炎刀】。
刀身から噴き出したガジェット特製のプラズマ獄炎が、龍魔呂の赤黒い闘気と混ざり合い、天を衝くほどの『赤黒い光刃』を形成する。
コックピット内で、龍魔呂が極限まで腰を落とし、刀を青眼に構えた。
全スラスターのリミッターが解除され、機体が限界を超えた駆動音を上げる。
「鬼神流 奥義・機神Ver——」
ドゴォォォォッ!!
音を置き去りにした超高速ブーストダッシュ。【琉球古武術・縮地】の機神応用。
空間そのものが歪むほどの神速で、ラビークは魔獣の懐へと潜り込んだ。
「——【鬼神将獄炎斬り(きしんしょう ごくえんぎり)】」
スゥ……ッ。
すれ違いざまの、一閃。
あまりの速さと鋭さに、斬られた魔獣は数秒間、自分が斬られたことにすら気づかず立ち尽くしていた。
カチャッ。
龍魔呂が、コックピット内で静かに見えない刀を鞘に納める(残心)。
その直後。
魔獣の巨体に、巨大な『赤黒い獄炎の十字架』が浮かび上がった。
ズバァァァァァァァァァァァンッ!!!!
全てを原子レベルで灰燼に帰す大爆発。
爆炎が晴れた後には、魔獣の姿は影も形も残っていなかった。
ただ、飛び散った魔獣の返り血(生体組織)を浴びたラビークの純白の装甲だけが、ドス黒い赤色へと染まり上がっていた。
「純白の兎」から、「真紅の鬼神」へ。
それが、機神ラビークの真の姿であった。
「……残るは、てめぇだけだ」
真紅に染まった鋼鉄の巨神が、足元で恐怖のあまり失禁している頭目を見下ろす。
完全なる殺意。
ラビークの巨大な足が、頭目を虫ケラのように踏み潰そうと持ち上げられた——その瞬間だった。
「……パパぁ……! パパ、死んじゃやだぁ……っ!」
頭目の背後の瓦礫から。
泥だらけになった「小さな女の子」が飛び出し、両手を広げて、震えながら頭目を庇って立ち塞がったのだ。
ピタリ。
振り下ろされるはずだったラビークの巨大な足が、空中で完全に停止した。