作品タイトル不明
EP 2
宿敵との再会、そして『竜王の豚骨ラーメン』
『ピロリン♪ ルナイーツ! 新規の配達リクエストがあります!』
ポポロ村の上空を飛翔していたポチ(クロノ)の首元で、魔導通信石が軽快な音を鳴らした。
「おっ! 記念すべき初依頼だ! ピックアップの店は……『屋台・竜王軒』? なんだか強そうな名前のラーメン屋だな。よっしゃ、急行するぜ!」
ポチは配達用保温バッグを背負い、風を切って指定された座標へと急降下した。
ルナミス帝国郊外の街道沿い。
そこに、赤提灯をぶら下げた古風なラーメン屋台があった。
凄まじく濃厚な豚骨の匂いが周囲に漂っている。
「ちわーっす! ルナイーツです! ピックアップに来ま……し……た……」
屋台の暖簾をくぐったポチは、ピタリと動きを止めた。
「……遅いぞ、 配達員(ルナイーツ) 。麺が伸びるだろうが」
厨房に立っていたのは、一人の男だった。
オールバックに撫で付けた白髪交じりの髪、鋭い眼光。仕立ての良いシャツの上に前掛けを締め、口には太い 葉巻(シガー) を咥えた、圧倒的な覇気を放つ『イケオジ』。
ポチの竜としての本能が、警鐘をけたたましく鳴らした。
間違いない。そのイケオジは、かつて古代大戦でポチ(クロノ)を完膚なきまでに叩き潰し、卵にまで巻き戻した宿敵——【調停者・竜王デューク】の人間形態だったのだ。
「でゅ、デューク……!? なんでお前がこんなところでラーメン作ってんだよ!!」
「……あぁ? お前は……クロノか。卵から孵って、カイトという農民の所で飼われているとは聞いていたが」
デュークは葉巻の煙をふぅっと吐き出しながら、ポチの背負っている四角い保温バッグを一瞥した。
「なるほど、今はギグワーカーか。地に足の着いた良い仕事じゃないか。神輿にされてイキっていた昔より、よっぽど似合ってるぞ」
「うるせぇ! ていうかお前、調停者だろ!? ルチアナ(世界神)から世界の管理を任されてるんじゃねぇのかよ!」
「あぁ、ルチアナからの依頼書なら、さっき焚き付けの紙代わりに使った。我は今、この『豚骨ラーメン』のスープの仕込みで忙しいのだ。魔物の間引きだの小競り合いの仲裁だのは、フレアかあの 駄犬(フェンリル) に回せ」
「職務放棄じゃねぇか!!」
デュークはかつて、転生勇者でありルナミス帝国の王でもあった『佐藤太郎』とマブダチだった。太郎がこの世を去った後、彼が遺したレシピを元に独自の豚骨ラーメンを極め、いつしか屋台を引くようになっていたのだ。(※ちなみに最近、彼が寝ていた山の麓に竜人族が住み着き「竜王様!」と崇めてきて非常に鬱陶しいらしい)。
チャッチャッチャッ!
デュークは手首のスナップを効かせ、華麗な湯切りを見せた。
「さぁ、クロノ。客を待たせるな。我の究極の豚骨スープが冷める前に、確実に届けろ」
ゴトリ、と熱々のラーメンの丼が、魔法で密封された容器に入れられてカウンターに置かれた。
かつての宿敵同士。バチバチの殺気が走るかと思いきや……二人の間に流れていたのは、謎の『プロとプロの緊張感』だった。
「……フッ。デューク、お前、 配達員(オレ) を誰だと思ってんだ?」
ポチはニヤリと笑い、コンテナにラーメンを丁寧にしまった。
「俺は始祖竜クロノだぞ? 俺の『時間操作』を舐めるな。このラーメンの時間をピタリと止めて、1秒も進ませねぇ(冷めさせねぇ)まま、客のテーブルまで届けてやるよ!!」
「ほう。言うようになったな。なら見せてみろ、お前の『配達』を!」
「おう! 行ってくらぁ!!」
バサァァァッ!!
ポチは音速を超え、ラーメンを背負って大空へと消えていった。
【神界セレスティア —— 女神のコタツ部屋】
『……あのジジイ(デューク)、私の業務依頼書、ラーメンの焚き付けにしやがったわね……ッ!!』
モニターの前で、ルチアナがギリギリと歯を軋ませていた。
「ま、まぁルチアナ先輩、落ち着いて……。でも、始祖竜と竜王が、ラーメンの配達で謎の熱いプロ意識を燃やしている映像……PVは爆上がりしてますぅ!」
リリスがスマホの画面を見せながら宥める。
「ええ、コメント欄も『スケールでかいのか小さいのか分からんww』『竜王の湯切りフォーム綺麗すぎだろ』と大盛況ですわね。しかし、これで三柱のうち一人は完全に『ラーメン屋の親父』になっていることが判明しましたわ」
カグヤが扇子で口元を隠し、溜息をついた。
「デュークがこれなら、不死鳥フレアと狼王フェンリルはどうなってるのよ……。嫌な予感しかしないわね」
神々の心配をよそに、ポポロ村の空では、ポチが「時間操作」という神話級の権能を【ラーメンが伸びないためだけ】にフル稼働させ、見事な配達を完遂していた。
ニートを脱却したポチの初仕事は大成功に終わった。
しかし、この「就労の波」は、カイト農場周辺のイカれた連中をさらに巻き込んでいくことになる——。