軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十章 ルナイーツと死を呼ぶ四番

始祖竜の就労と、ざわつく 宇宙(ニートたち)

ポポロ村の柔らかな日差しの中、カイト農場の縁側では、のどかな時間が流れていた。

「……すぅ。むにゃ……」

麦わら帽子を顔に乗せて昼寝をしている最強の農民・カイト。

その傍らで、丸々とした小さな竜——ポチ(本名:始祖竜クロノ)もまた、無防備に腹を出して惰眠を貪っていた。

(……昔は、俺も若かったな……)

微睡みの中、ポチの脳裏に遥か昔の記憶がよぎる。

『古代大戦』。

天使、魔族、竜人族が、世界の覇権を巡って血を洗う争いを繰り広げていた時代。

突然変異体として産まれたクロノ(ポチ)は、一吹きで水爆並みの威力を誇り、さらには対象の時間を巻き戻し、進めることができるというデタラメな権能を持っていた。

竜人族は狂喜し、彼を神輿に担ぎ上げて覇権に王手をかけたのだ。

(神輿にされて暴れたはいいが……よくよく考えたら、世界を支配した『その後』はどうするんだよって話だ……)

結局、事態を重く見た調停者である三柱(竜王デューク、不死鳥フレア、狼王フェンリル)が介入。クロノは彼らとの死闘の末に敗北し、自らの時間を巻き戻して「卵」となり、時空の彼方へ逃亡した。

(あそこが俺のピークだったな。……そして今は……)

ポチは薄く目を開け、横で爆睡しているカイトを見た。

今は、この規格外の農民に拾われ、朝起きて、美味い飯(主に角砂糖)を食い、畑を走り回り、昼寝をするだけの生活。

平和だ。争いもない。満ち足りている。

だが……ポチの竜としての本能、いや、知性が、ふとある『残酷な事実』に行き着いてしまった。

「…………って!? これ、ただのニートじゃねぇかよ!!」

ポチはガバッと跳ね起きた。

「うわぁぁぁ! 何も生み出してねぇ! ただ飯食って寝てるだけだ! こんなんじゃ、あのコタツでダラダラしてるルチアナやカグヤたち(世界神)を笑えねぇ!!」

「おう、どないしたんやポチ。えらい慌てて」

縁側でお茶を飲んでいた獣人の商人・ニャングルが、算盤を弾きながら呆れたように声をかけた。

「ニャングル! 俺、働きたい! ニートは嫌だ!」

「……はぇ? 始祖竜が就労希望でっか?」

ニャングルは一瞬キョトンとしたが、すぐに商人の 顔(ニヤリ) になった。

「よっしゃ、なら丁度ええもんがおますわ。これ、使いなはれ」

ニャングルが懐から取り出したのは、一枚の光る石板——【魔導通信石】だった。

「今、ルナミス帝国を中心に『ルナイーツ』っちゅう、魔導石の通知で飯を配達するギグワークが流行ってまんねん。ポチはんの飛翔スピードと『時間操作(冷めないうちに届ける)』があれば、トップ配達員になれまっせ!」

「配達員……! よし、やる! 俺は今日から、ルナイーツの配達竜だ!!」

ポチは魔導通信石を首から下げ、空高く飛び立った。

その小さな背中には、「自立」という名の熱いオーラが纏われていた。

【神界セレスティア —— 女神のコタツ部屋】

『ピローン♪ ゴッドチューブ速報:【あのヤンチャ(始祖竜)が社会復帰!?】』

「……ブフォッ!!」

コタツで缶ビールを飲んでいたルチアナが、派手に中身を噴き出した。

「ちょっ、ルチアナ!? 何やってんですの! 汚い!」

カグヤが慌てて扇子でガードする。

「ごめん、違うの! これ見て! カイトのところで飼われてるあのトカゲ(ポチ)……古代大戦でイキリ散らかしてた始祖竜クロノが、ウーバー 配達員(ルナイーツ) 始めてるんだけど!!」

「……はいぃぃ!?」

巨大モニターに映し出されたのは、背中に四角い保温バッグを背負い、「配達急ぐぜー!」と空を飛ぶポチの姿だった。

『ちょww 始祖竜がウーバーww』

『あの破壊神がニート脱却してて草』

『俺らも働かなきゃ……(震え声)』

コメント欄が爆速で流れていく。

そして、その中に一際目立つ、虹色に輝くスーパーチャット(1,000万G)が飛んできた。

『【宇宙神ユニーバ:ポチ君、えらい! 頑張ってね(号泣の絵文字)】』

「「「 宇宙神(トップ) がスパチャ投げてるぅぅぅ!?」」」

ルチアナとカグヤ、そして部屋にお茶を持ってきた見習い女神のリリスが揃って絶叫した。

【超次元・宇宙管理センター —— ユニーバの執務室】

「はぁっ……はぁっ……ポチ君、えらい……! 昔はあんなにグレてたのに……立派に働いて……!」

第1種 宇宙創造神格公務員。

宇宙の全てを管理するトップ官僚であり、組織「GOD」の最高実務責任者であるユニーバ・オリジンは、執務室のデスクで号泣していた。

机の上には、神界の高級マカロンと、激甘のアップルティーが入ったマイタンブラー。

そして目の前の空中に展開された無数のウィンドウには、「宇宙の星々の運行データ」……ではなく、【猫動画】と【ポチのルナイーツ配達密着配信】が映し出されていた。

「だめよ……私、もっと犬とか他の動物の動画も見たいのに……これ以上関連動画のループにハマったら、宇宙の仕事が完全に 麻痺(ストップ) しちゃう……! ぶるぶるぶる……」

彼女は激務のストレスから、完全に『動物動画アルゴリズムの沼』に囚われていた。先日も権田夫婦のメロロン泥沼配信をうっかり不眠不休で完走してしまい、目の下には深いクマができている。

「でも、ポチ君の頑張る姿は応援しなきゃ……! ああっ、天界のニート神(実家暮らし)たちからも『俺らも働かなきゃ』って焦りのコメントが! いいわ、宇宙の労働意欲向上に繋がってる!」

ユニーバは震える手でタンブラーの甘い紅茶を煽りながら、さらにスパチャを投げ続けた。

かつて世界を滅ぼしかけたドラゴンの、ちっぽけな「就労意欲」。

それが今、宇宙規模の公務員組織「GOD」のヒエラルキーと、天界の子ども部屋で親の信仰心(年金)をかじっているニート神たちに、かつてないほどの 激震(プレッシャー) を与えようとしていた。