軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 9

最強農民の異常な解釈と、『農家の鑑』

【神界セレスティア —— 配信終了後のコタツ部屋】

『……っ、うぅぅ……ズビィィィッ……』

ゴッドチューブの配信が終了し、画面がブラックアウトした後も、ルチアナの部屋には鼻をすする音だけが響いていた。

テーブルの上には、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった高級ティッシュの山が築かれている。

「最高の……最高の愛の形でしたわ……。私、明日からメロンを見るたびに、メロ彦を思い出して泣いてしまいそうですわ……」

カグヤが腫れ上がった目で虚空を見つめ、オリンは「ありがとう権田夫婦……これで私の昇進は確実だ……!」と胃薬の空き瓶を握りしめて咽び泣いていた。

世界中の神々、魔族、獣人、そして人間たち……全てのアナステシアの住人が、権田マスク夫婦の狂気的かつ純粋な「愛と死のディナー」の余韻に浸り、深い感動に包まれていた。

——ただ一箇所、三大国の緩衝地帯にある「ポポロ村」の広場を除いては。

【地上 —— ポポロ村・カイト農場】

「……ヒィィィ。なんなんですのあの配信。おじさんとおばさんが、泣きながらメロンに齧り付いてるだけのホラー映像でしたの……」

「しかも、果汁と涙と鼻水でドロドロでしたね……。いくらなんでも、果物相手にあの執着は狂ってますよ……」

広場の丸太のベンチに座り、エンジェルすまーとふぉんで配信を見ていたリーザとキャルルが、ドン引きした顔で青ざめていた。

その横で、元勇者のゼロスは「あんな大人にはなりたくない」と震え、元悪役のミラースは「俺もあんな風に、愛するカマ(シックル)に喰われる日が来るのだろうか……」と哲学的な悩みに陥っていた。

誰もが、権田夫婦の「不倫」や「NTR」、そして「狂気的な依存」という本質に恐れ慄いていた。

だが。

彼らの背後で腕を組み、一緒に画面を覗き込んでいた麦わら帽子の男——S級農民・カイトだけは、全く違う表情を浮かべていた。

「…………」

カイトは、深く深く息を吐き出し……なんと、その目から一筋のキラリと光る熱い涙をこぼしたのだ。

「えっ? カ、カイトさん? なんで泣いてるんですの!?」

リーザがギョッとして振り返る。

カイトは涙を乱暴にドテラの袖で拭うと、夜空を見上げ、震える声で語り始めた。

「……お前らには分からねぇのか。あの夫婦の、途方もない『農業魂』が」

「「「……はぇ?」」」

ポポロ村の面々の声が見事にハモる。

「よく考えてみろ。あいつら、最高の『土と水』を買うために、己の贅沢を全て捨てて【生米と水道水】だけで飢えを凌いだんだぞ? さらには、農場の融資(社会的信用)を維持するためだけに、互いの感情を殺して【マスク夫婦】という完璧な 生産体制(システム) を構築しやがった」

カイトの言葉に、熱がこもっていく。

「そして……最後だ。丹精込めて育て上げた作物が、最も美味くなる【収穫の絶頂(寿命の瞬間)】を1秒たりとも逃さず、自らの手で、余すところなく味わい尽くした! まさに生産者の特権だ!」

「い、いやカイトさん! あれはそういう事じゃなくて、メロンに寝取られて——」

キャルルのツッコミを、カイトは手で制した。

「極めつけは、あの最後だ。あいつら、泣きながら……一番大事な【種】を、絶対に傷つけないように口から出して、大切に保管しやがった」

カイトはギュッと拳を握りしめ、ポロリともう一筋の涙を流した。

「メロンを大切に育てて、一番美味い瞬間に食べて……種をきちんと保管して、また1年後に育てる(再会する)。……くそっ。究極のストイックと、完璧な命の 循環(サイクル) じゃねぇか。あいつら……まさに『農家の鑑』だなぁ……ッ!!」

しぃぃぃぃぃぃん……。

ポポロ村の広場が、完全な静寂に包まれた。

リーザも、キャルルも、ゼロスも、ミラースも。そして、スマホの画面越しにそのやり取りを聞いていた天界のルチアナたちも。

全員の脳内で、ピキッ、と何かがショートする音がした。

『……………………え?』

数秒の沈黙の後、ゴッドチューブのコメント欄が、感動の涙から一転して【大爆笑の嵐】へと切り替わった。

『ファッ!?wwww』

『カイトのサイコパス農業フィルター起動キタ━(゜∀゜)━!』

『不倫とか寝取りとか、そういう概念全スルーかよww』

『「種を保管して来年また育てる(感涙)」じゃないんだわww』

『お腹痛いwww この農民、メロンよりヤバいだろwwww』

「ち、ちがうわよカイト!! あれは農家の鑑じゃなくて、ただのメロン狂いのヤバい夫婦よ!! アンタのそのブレない農業解釈、逆にホラーだわ!!」

画面の向こうから、ルチアナのツッコミの絶叫が響き渡る。

だが、カイトはその言葉を「照れ隠し」と受け取ったのか、満足げに鼻で笑った。

「ふん。天界の連中には、土に生きる人間の美しさは分からねぇか。……よし、ポチ! 龍魔呂! 俺たちも負けてられねぇぞ! 明日は朝4時起きで、米麦草の土壌改良だ!!」

「キュイッ!(合点承知!)」

「フッ……任せておけ、 相棒(カイト) 。最高の塩むすびを用意しよう」

世界中が「狂気のメロンドラマ」に酔いしれる中、ただ一人、カイトだけは「同業者の熱いドキュメンタリー」に刺激を受け、さらなる農業の極みへとモチベーションを爆上げさせていた。

アナステシア世界は、今日もこの最強で最狂の農民を中心に、平和(?)に回っていくのであった。