軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 8

愛の別れと、号泣の『 捕食(ディナー) 』

権田農場の二つの温室は、夕闇の中で黄金色の光を放っていた。

だが、その光は命の絶頂であり……同時に、終わりの合図でもあった。

『はぁ……はぁ……』

第一温室。

クイーンメロロンへと進化したメロ美の網目から、スゥッ……と光が消えかけていた。

限界まで熟しきった果肉は自重でひび割れそうになり、甘い香りはむせ返るほどの濃威を放っている。寿命(収穫の時)が、秒単位で迫っていた。

「メロ美……! 嫌だ、逝かないでくれ! 俺の命を分けてもいい、だから……!」

源蔵が泥だらけの手で、メロ美の果実を愛おしく抱きしめる。

『……だめよ、源蔵さん。そんなことしたら、パパが……悲しむでしょ?』

「メロ美……お前、俺のことをまた『パパ』って……」

メロ美の 蔓(ツル) が、最期の力を振り絞って源蔵の頬を撫でた。

『ありがとう……源蔵さん。私、産まれてきて……本当に、良かった……』

「ううっ……! メロ美ぃ……っ!」

『私を……最高に美味しく、食べてね……? そして……【種】は、きちんと保管してね……? 約束、よ……』

ガクッ!

その言葉を最後に。

源蔵の頬を撫でていた蔓が、力なく土へと崩れ落ちた。

メロ美の意識(魂)が消え、ただの「極上に美味そうなマスクメロン」へと還った瞬間だった。

「あぁぁぁ……! メロ美いいいいいいいぃぃッ!!」

第二温室でも、全く同じ悲劇が起きていた。

『……じゃあな、恵。お前との時間……悪くなかったぜ。お前の水(愛)、最高に甘かったよ』

「嫌ぁぁぁっ! 嫌よメロ彦! 貴方のいない世界なんて……!」

プリンスメロロンのメロ彦が、イケボで最期の言葉を紡ぐ。

『体に気をつけろよな。……また、1年後に逢おうぜ。……愛してる』

ガクッ!

「逝かないでええええええええええッ!! メロ彦おおおおおぉぉぉッ!!」

恵の絶叫が、ガラス張りの温室に反響し、夜の農場に虚しく吸い込まれていった。

——そして、静寂が訪れた。

残されたのは、極限まで空腹(生米断食)に耐え抜いた狂気の男女と、カイト農場の最高級肥料によってアナステシア世界の限界を突破した『至高のメロン』。

源蔵は、震える手でメロ美を抱き上げると、ナイフを使わず、そのまま顔を埋めるようにガブリと噛み付いた。

ブシャァァァァァッ……!!

「あ……あぁ……ッ!」

果肉を噛みちぎった瞬間、源蔵の脳内に宇宙が広がった。

何日も生米と水道水しか口にしていなかった極限状態の肉体に、S級指定果実の暴力的なまでの糖度と水分、そして「メロ美の愛」が、ナイアガラの滝のように流れ込んでくる。

「う、ううっ……! メロ美ぃ、甘いよぉ……っ! お前、こんなに甘く……!」

源蔵は顔中を果汁と涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら、野獣のようにメロ美を貪り食った。

ズズゥッ! ジュルルッ!

「美味しい……美味しいよメロ美……俺の血肉になってくれ……ッ!」

恵もまた、ドレスを果汁でドロドロに汚しながら、メロ彦にしゃぶりついていた。

「うわぁぁぁん! メロ彦ぉぉ……こんなにジューシーに育って……っ! 愛してる、私も貴方を愛してるわぁぁっ!」

二人は号泣しながら、互いの 不倫相手(メロン) を貪り食う。

そして、絶対に傷つけないように、口の中から【種】だけを丁寧に取り出し、宝石箱に収めるように両手で大切に包み込むのだった。

【神界セレスティア —— 女神のコタツ部屋(実況スタジオ)】

『ズビィィィィィィィィッ!!!』

ルチアナが、天界の高級ティッシュを箱ごと抱え、滝のような鼻水と涙を噛んでいた。

『うわあああん! なんなのよこれぇぇ!! ただの農家のおっさんとおばさんが、育てたメロン食ってるだけなのにぃぃ!! なんでこんなに泣けるのよォォォ!!』

『ずるいですわ……! こんなの、こんなの……っ! 究極の純愛じゃありませんの……ッ!!』

カグヤも扇子を投げ捨て、アイメイクがドロドロになるのも構わず号泣している。

『あぁ……! 素晴らしい! 素晴らしいぞ権田夫婦!!』

オリンもハゲ頭をピカピカと輝かせながら(※涙と汗で濡れている)、画面に向かって拍手喝采を送っていた。

神界のコメント欄は、もはや制御不能の暴走状態に陥っていた。

『アカン、涙腺崩壊したwwww』

『ただの 収穫(ディナー) なのに重すぎるだろ!!』

『メロ彦ぉぉぉ! 恵ちゃんの中で永遠に生きろよぉぉ!』

『来年また会えるの最高かよ……! 輪廻転生ロマンスやんけ!』

『【魔王ラスティア:100万G】←おい、魔王まで限界スパチャしてんぞww』

『【レオンハート獣王:50万G】←獣王も泣いてるwww』

アナステシア世界中の視聴者が、権田夫婦の狂気の純愛(メロン食い)に涙し、熱狂の渦に包まれていた。

このドキュメンタリーは間違いなく、ゴッドチューブの歴史に残る「伝説の神回」として語り継がれるだろう。誰もがそう確信していた。

……ただ一人。

この狂気の配信を、全く別のベクトル(サイコパス農業視点)から真顔で見つめている『麦わら帽子の男』を除いては。