軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 7

究極の肥料と、メロロンの『 寿命(しゅうかく) 』

ポポロ村から全速力で駆け戻ってきた権田夫妻は、農場の敷地に入った瞬間、固く握りしめていた手を「バッ!」と弾かれたように離した。

「じゃあな、恵! 融資の審査員が来たら呼べよ!」

「ええ! 源蔵さんも、メロ美ちゃんによろしくね!」

つい数秒前までの『理想のマスク夫婦』の仮面をかなぐり捨て、二人はそれぞれの 愛人(メロン) が待つ温室へと猛ダッシュで吸い込まれていった。

バァーンッ!!

「ハァッ……ハァッ……! メ、メロ美! 待たせたな!」

第一温室。

源蔵は泥だらけの服のまま、カイトから貰い受けた『S級指定・腐葉土』と『月光薬入りの水』を、クイーンメロロンの根元へと一気に注ぎ込んだ。

コポ……コポポポポッ……。

その瞬間、温室内の空気が「カッ!」と黄金色に輝いた。

『あぁっ……! なにこれ、すごい……! 源蔵さん、私の中から、今まで感じたことのないような力が……! 極上の甘さが、全身を駆け巡っていくわ……っ!』

ぽよんっ、ぽよんっ!

メロ美の豊満な果肉が、神がかった肥料の力によってパンッパンに張り詰め、マスクメロンの網目がまるで芸術品のように美しく発光し始めた。糖度、香り、そして魔性。すべてがアナステシア世界の限界を突破した【完全なる究極形態】へと至ったのだ。

第二温室でも、恵が与えた肥料により、プリンス・メロ彦が究極の進化を遂げていた。

『……ふっ。恵、君の愛(肥料)の力はすごいな。俺の全身の細胞が、君を求めて甘く熟していくのが分かるよ……』

「あぁっ……メロ彦! 貴方、なんて美しいの! その流線型のボディ、たまらないわ!」

二つの温室は、まさに愛の絶頂を迎えていた。

だが——。

『……でも、源蔵さん。ごめんなさい』

「え? メロ美、どうしたんだ? どこか痛むのか!?」

黄金に輝くメロ美の声が、ふっと、儚げなものに変わった。

蔓(ツル) が力なく垂れ下がり、源蔵の泥だらけの頬を優しく、愛おしそうに撫でる。

『私……もう、「大人」になりきってしまったの。……メロンの命は、短いのよ。私がこの美しい姿でいられるのは、あと数時間だけ……』

「な、なんだって……!? 嘘だろ、これから俺とお前で、永遠の愛を誓い合うんじゃないのか!?」

『ふふっ……馬鹿ね。農作物が、永遠に畑にいられるわけないじゃない。私は果実。私の運命は……【 収穫(しゅうかく) 】されることなの』

源蔵の目から、大粒の涙がボロッとこぼれ落ちた。

第二温室でも、恵がメロ彦の果肉にすがりついて号泣していた。

「嫌よ! 嫌ぁぁぁっ! 貴方が土に還るなんて、私、生きていけないわ!!」

『泣かないで、恵……』

メロ彦の太い蔓が、恵の涙をそっと拭う。

『土に還るんじゃない。俺は……君の血肉になりたいんだ。君の【中】で、永遠に生きたい。……だから、俺を食べてくれ』

「えっ……?」

第一温室でも、メロ美が同じ言葉を紡いでいた。

『源蔵さん……私を、一番美味しい時に、あなたの手で味わってほしいの。私の果肉を、甘さを、あなたの全てで受け止めて……。そして、残った【種】を、あなたの中で温めて……』

「メ、メロ美……! 俺に、お前を喰えと言うのか……! そんな残酷なこと、できるわけがない!!」

『残酷じゃないわ。これが……私達の、究極の【愛の形】なのよ……♡』

メロロンという魔性植物の真の目的。

それは、寄生した人間に己を捕食させ、心と体を完全に支配し、来年のための【種】を絶対に守護させるという、おぞましくも純粋な 生存戦略(ラブストーリー) であった。

「う、うぉぉぉぉぉぉッ……! メロ美ぃぃぃぃぃ!!」

源蔵の慟哭が、夕暮れの農場に響き渡った。

【神界セレスティア —— 女神のコタツ部屋(実況スタジオ)】

『——さぁぁぁぁぁぁッ!!! きましたわよ皆様ァァァッ!!』

ルチアナが、涙でマスカラをボロボロに崩しながら、マイク(スマホ)に向かって絶叫していた。

『メロロンの寿命! すなわち収穫の時です! 愛するがゆえに、自らを捕食してくれと願う究極の自己犠牲! これが! これが農業の生み出した究極のロミオとジュリエットですわァァァ!!』

『う、ううっ……ずるいですわ……! ただのメロンなのに……ただの果物の分際で、なんて泣けるセリフを……!』

カグヤも扇子を握りつぶし、ボロボロと涙を流している。

その横で、主神オリンが血走った目でPVカウンターを見つめながら、ガッツポーズをして天を仰いだ。

『同接1億人! 1億人突破だぁぁぁッ!! 宇宙中のヒマな神々やエイリアンまでもが、この小さな辺境の惑星の「メロン不倫劇」に釘付けになっているぞ!! すごいトラフィックだ、神界のサーバーが焼け焦げそうだぁぁぁ!!』

画面の端を滝のように流れるコメント欄も、完全に狂気に呑み込まれていた。

『うわあああん! メロ美ちゃん死なないでえええ!』

『「私を食べて」ってそういう意味かよ! 究極の純愛じゃねぇか!』

『俺、なんでメロン相手に号泣してんだろ……』

『源蔵! 食ってやれ! それが男の責任だ!! スパチャ100万G!!』

メロロンという果実が仕掛けた、命を懸けた愛の罠。

視聴者(神々)すらもその魔性にアテられ、涙とスパチャの雨を降らせる中。

権田マスク夫婦は、ついに生涯で最も悲しく、そして最も甘美な『ディナータイム(収穫)』を迎えようとしていた——。