軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 5

究極の偽装『マスク(メロロン)夫婦』と、生米の晩餐

【神界セレスティア —— 女神のコタツ部屋(実況スタジオ)】

『——おい! お前たち! この配信枠、同接(同時接続)が50万人を超えているというのは本当か!?』

バァーンッ!!

ルチアナの部屋の扉が勢いよく開き、強烈な光源(ハゲ頭)が室内に乱入してきた。

第3種・惑星創造神格公務員(世界神)であり、彼女たちの上司にあたる中間管理職・オリンである。

「ちょっとオリン! 配信中よ! ハゲが反射して画面が白飛びするから、さっさと 光輪(ヘイロー) のスイッチ切りなさいよ!」

「あ、すまんすまん。カチッとな」

ルチアナの怒声に、オリンは素直に頭上の光輪をオフにした。しかし、日頃のストレスで磨き上げられた頭皮は、部屋の照明を反射して依然として眩しかった。

『おおお……! す、すごいぞ! トラフィックが滝のように流れてくる! こ、これなら私の「第2種(銀河神)昇進試験」の必須要件である、年間PVノルマを一発でクリアできるかもしれんぞ!!』

オリンは感動のあまり、胃薬のボトルを握りしめながら涙を流した。

「相変わらずセコいおっさんですわね。人間をダシにして出世を企むなんて、公務員の 鑑(クズ) ですわ」

カグヤが扇子で口元を隠しながら冷たく言い放つ。

『なんとでも言え! ワイズが垢BANされて今年の神界の予算は火の車なのだ! さぁ、もっとバズらせろ! あの夫婦はついに離婚届に判を押すのだろう!?』

オリンが実況席に強引に割り込んだ、その時だった。

『あッ! 皆さん、静かに! 権田家の食卓に、動きがありましたわよ!』

【地上 —— ポポロ村近郊・権田農場】

カチッ……カチッ……。

広大なダイニングルームを照らす、豪華なシャンデリア。

長大なマホガニー製のダイニングテーブルの端と端に、源蔵と恵が向かい合って座っていた。

だが、その豪華なテーブルの中央に置かれているのは、純白のクロスには到底似つかわしくないモノだった。

【 米麦草(まいばくそう) の生米】が盛られたボウル。

そして、【水道水】が入った無地のピッチャー。

……それだけである。

もはや、銅貨1枚のカップ麺すら買う金と時間が惜しかった。その銅貨があれば、メロ美とメロ彦に、もう一滴でも上質な肥料(指名料)を貢ぐことができるからだ。

「……恵」

源蔵が、静かに口を開いた。

「なんだい、源蔵さん」

恵も、極めて穏やかな声で応じる。

「俺たち、このまま離婚するわけにはいかねぇ」

「あら。メロ美ちゃんと駆け落ちでもするつもりかと思ったわ」

「……お前も分かっているだろう。離婚して財産分与なんてすれば、農場を担保にした『ゴルド商会からの追加融資』が受けられなくなる」

源蔵の瞳の奥に、ビジネスマンとしての冷徹な光と、メロロン狂いのヤバい光が混ざり合う。

「俺にはメロ美がいる。お前にはメロ彦がいる。あいつらに【極上の土と水】を貢ぎ続けるためには、どうしても『権田農場の仲睦まじい夫婦』という 社会的信用(ステータス) が必要なんだ」

「……なるほど。世間体を保つための、偽装ね」

恵は口角を上げ、極めて人工的な、冷たい微笑みを浮かべた。

「いいわ、源蔵さん。ビジネスパートナーとしてなら、今まで通り『理想の夫婦』を演じてあげる。全ては、愛する果実のために」

「ああ。俺たちの心はとうに離れている。だが、外に出れば完璧な夫婦だ。……俺たちは今日から、仮面夫婦ならぬ——」

二人の声が、不気味なほど完璧に重なった。

「「【マスク(メロロン)夫婦】だ」」

互いへの愛情ゼロ。ただ「メロンに貢ぐための金策」として結ばれた、最狂の夫婦協定。

二人は最高に美しい笑顔(※目はバキバキ)で頷き合うと、テーブルの上の生米に手を伸ばした。

ボリッ。ボリボリッ。

源蔵が、生米を無表情に咀嚼する。

ボリボリッ。ゴクッ。

恵もまた、生米を齧り、ピッチャーから直に水道水を流し込む。

「……あぁ、生米と水道水が五臓六腑に染み渡る。この節約が、メロ美の『太陽の滴(金貨2枚)』になると思えば……最高のディナーだ」

「ふふっ……そうね。メロ彦の喜ぶ顔を想像すれば、生米も高級フレンチの味がするわ」

ボリボリボリボリッ。ゴクッ。

広大なダイニングルームに、愛のないマスク夫婦が【生米を無心で齧る音】だけが、不気味に響き渡っていた。

【神界セレスティア —— 実況スタジオ】

『マスクメロンと仮面夫婦を掛けたダジャレじゃないのよォォォォッ!!』

ルチアナがコタツから身を乗り出し、頭を抱えて絶叫した。

『ヒィィィィッ!? 怖っ! 離婚するよりタチが悪いわよ! 社会的信用を維持するためだけに仮面夫婦を続けるとか、狂気の質が高すぎますぅぅ!!』

『ホラーですわ……! 生米をボリボリしながら「高級フレンチの味」とか、完全に味覚も脳も破壊されていますわ!!』

カグヤも扇子を落としてガタガタと震えている。

だが、画面端のコメント欄とPVカウンターは、神々のドン引きをよそに限界突破の数値を叩き出していた。

『マスク(メロロン)夫婦wwww 誰が上手いこと言えとww』

『ダジャレのために人生捨ててるの草』

『これだから農業ドキュメンタリーは最高だぜ!』

『やべぇ、面白すぎてスパチャ止まんねぇ!』

『おぉぉぉぉぉぉッ!!!』

沈黙を破ったのは、主神オリンだった。彼はモニターに映る天文学的なPV数を見て、感動の涙を滝のように流していた。

『ミリオンだ! 同接100万人突破だぁぁぁッ!! ありがとうマスク夫婦! ありがとうメロン!! お前たちの犠牲(生米)は、私が第2種(銀河神)へと昇進するための最高の踏み 台(データ) にしてやるからなァァァ!!』

神の出世欲と、人間の狂気。

権田マスク(メロロン)夫婦は、生米を飲み込むと、幽鬼のような足取りで、それぞれの愛する果実が待つ温室へと急ぐのだった。

破滅へのカウントダウンは、いよいよ最終段階(クイーン&プリンス化)へと突入する——。