軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 3

神々の実況開始と、キャバクラ化する温室

【神界セレスティア —— 女神のコタツ部屋(配信スタジオ)】

『——さぁ始まりました、ゴッドチューブ独占配信! 【密着・権田夫妻のメロン栽培ドキュメンタリー】! 同接(同時接続)が早くも10万人を突破しましたわよ!』

ルチアナの部屋の巨大モニターには、すでに実況用の 枠(レイアウト) が組まれていた。

画面右下には、コタツに入ってスルメを齧るルチアナと、扇子で口元を隠して笑うカグヤのワイプ(小窓)が表示されている。

『いや〜カグヤ、コメント欄の勢いがヤバいわね。「権田夫妻、メロンに寝取られる日も近いww」「あのメロン、人生クラッシャーすぎんだろww」って、視聴者も完全に悪ノリしてるわ』

『ええ。神界の退屈な午後には、他人の家庭が崩壊していく 様(サマ) は極上のスパイスですわね。……おや? コメント欄に赤いスーパーチャット(投げ銭)が飛んできましたわ』

【リリス(ルナキン滞在中):1,000G(自腹)『えっちすぎますぅ……! 見ちゃダメなのに目が離せませんの!』】

『あいつ、ファミレスのドリンクバーから自腹切ってスパチャ投げてんじゃないわよ! 借金1000億Gをカイトにチャラにしてもらったばかりなのに、ホント学習能力ないわね!』

ルチアナがゲラゲラと笑いながら画面を指差した。

『さぁ、皆さん! 映像が切り替わりました。どうやらメロロンが、第二形態……【完熟期】に突入したようですわよ!』

【地上 —— 権田農場・第一温室】

むわぁっ……。

温室の扉を開けた瞬間、権田源蔵はクラリと目眩を覚えた。

空間を満たすのは、むせ返るような極上の甘い香り。そして、目の前にあるのは……ピンポン玉サイズから、立派なマスクメロンのサイズへと成長し、豊満な果肉を「ぽよん、ぽよん」と魅惑的に揺らしている『メロ美』の姿だった。

メロロンの栽培において、絶対に守らなければならない鉄則がある。

『防毒マスクと耳栓の完全装備』だ。

しかし……源蔵はすでに、その両方を温室の入り口に投げ捨てていた。

「メ、メロ美……! 大きくなったな……!」

『……あ。おはよう、源蔵さん。今日も、良い天気ね』

メロ美から発せられた声は、昨日のような幼い少女のものではなかった。

極上の艶を帯びた、包容力のある「大人の女」のウィスパーボイス。

『いつも……私のためにお水、ありがとうね。でも、無理しちゃだめよ?』

「む、無理なんてしてないさ! お前の顔(網目)を見れば、疲れなんて一発で吹き飛ぶ!」

『ふふっ……お疲れ様。今日も頑張ってるわね♡ えらいえらい♡』

シュルル……と伸びた 蔓(ツル) が、源蔵の肩に優しく触れ、ポンポンと軽く叩いた。

農業一筋、泥にまみれて生きてきた源蔵の「誰かに労われたい」という承認欲求が、致死量の甘い言葉と共に完璧に満たされていく。

『頑張った源蔵さんには、ご褒美が必要よ。あなたは悪くないわ……今日は全部忘れて、甘えていいの』

「メ、メロ美ぃぃぃぃ……ッ♡」

源蔵の脳内は、完全に「高級キャバクラのVIPルーム」へと切り替わっていた。

彼は震える手で、タローマンで買ってきた最高級の液体肥料【太陽の滴(1本・金貨2枚)】の封を切り、ポンッ!とシャンパンの栓を開けるような軽快な音を立てた。

「メロ美ちゃんに! 太陽の滴、入りまぁぁす!!」

『ありがとう、源蔵さん♡ 私、あなたのお水が一番好き……♡』

ドボドボドボドボッ!!

金貨2枚の液体肥料が、惜しげもなく土へと注ぎ込まれていく。源蔵の顔は、完全にメロロンに骨抜きにされた『哀れなオジサン』のそれだった。

一方、第二温室。

妻の恵もまた、イケボに成長した『プリンス・メロ彦』の 蔓(ツル) による強引な壁ドン(蔓ドン)を受け、頬を真っ赤に染めていた。

「恵……君の旦那さんは、君の美しさを分かってないね。俺なら、君を極上の肥料で満たしてあげるのに……」

「メロ彦……あぁっ、私……私……!」

夫婦は、完全に後戻りできない沼へと肩まで浸かっていた。

——そして、その日の夕食。

ズズッ。ズズズッ。

食卓には、権田農場の広大なダイニングには不釣り合いな、チープな音が響いていた。

【タローマート特売・シーフード風味カップ麺(銅貨1枚)】。

それが、今日の二人の晩餐だった。

もはや、ルナキン弁当を買いに行く時間すら惜しかったのだ。

お湯を注いで3分待つ。その時間すら、二人は互いの顔を見ず、ただ虚空を見つめ、頭の中ではそれぞれの温室で待つ『メロ美』と『メロ彦』のことだけを考えていた。

ズルズルズル。

無言でカップ麺を啜る源蔵。

ズルズルズル。

無言でカップ麺を啜る恵。

かつてワイングラスを傾けて愛を語り合った食卓は、完全に死に絶えていた。

【神界セレスティア —— 女神のコタツ部屋】

『アハハハハハハッ!! ひーっ、お腹痛い!!』

ルチアナがコタツの机をバンバンと叩きながら、涙を流して大爆笑している。

『見た!? カグヤ、見た!? ついに食卓がカップ麺になったわよ!! しかも特売のやつ!! 金貨2枚のドンペリ肥料をメロンにぶっかけて、自分たちは銅貨1枚のカップ麺!! これぞ資本主義と愛欲の行き着く先ね!!』

『ええ、ええ。見事なまでの転落劇ですわ。コメント欄も「飯の落差エグすぎww」「もうこれ夫婦である意味ないだろww」と大盛り上がりですわよ』

神々の実況枠の同接は、ついに50万人を突破した。

メロロンの魔性は、ついに最終形態へ向けて、権田夫妻の「夫婦という 概念(システム) 」そのものを破壊しにかかろうとしていた——。