軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 8

襲来する絶望の機械蟲と、究極の『海老天丼』

【神界セレスティア —— 炎上神ワイズの配信ルーム】

「……つながりましたか。死蟲軍の指揮官、魔人ギアンくん」

『ククク……我を呼び出すとは、神も堕ちたものだ。 悲劇(トラジェディ) をご所望かな?』

ワイズのモニターに映し出されたのは、道化師の格好に禍々しい仮面をつけた男、魔人ギアンだった。太古にルチアナたちと戦った死蟲王サルバロスの配下であり、感情を持たない機械兵器『死蟲機』を操る指揮官である。

「ええ。ポポロ村という忌々しい農村に、君の操る『死蟲機』を大量に送り込んでほしい。あそこの農民は少々厄介でしてね。言葉も感情も通じない、純粋な破壊の 嵐(メカニック) で全てを蹂躙してください」

『容易いこと。我が死蟲軍は無慈悲な歯車。悲鳴という名の 喜劇(コメディ) を奏でてやろう……』

ワイズがギアンの口座に莫大な資金を振り込む。

ギアンは気取った仕草で一礼し、通信を切った。

「フフフ……機械相手に、農業の理屈など通じるはずがない。今度こそ、あの農民が絶望に顔を歪める様を配信してやりますよ……!」

ワイズは勝利を確信し、カプチーノを優雅に啜った。

【地上 —— ポポロ村・カイト農場】

「……なんや、空が急に暗うなりはりましたな」

ニャングルが算盤の手を止め、空を見上げた。

「ジジジジジジジ……ッ!!」

「カチカチカチカチカチカチッ!!」

上空を覆い尽くしたのは、絶望の羽音だった。

強酸を吐き出す【死蟻型】、空から毒針を放つ【死蜂型】、そして何でも切り裂く鎌を持つ【死蟷螂型】。金属の装甲に身を包んだ、意思を持たない数万の機械蟲の群れが、ポポロ村の畑めがけて急降下してくる。

「ヒィィィィッ!? な、なんだあれは! モンスターの群れ!?」

草むしりをしていたゼロスが、腰を抜かして悲鳴を上げた。

「チッ……クソ神の差し金か。機械兵器の軍団だと!? 厄介な手札を切りやがって……!」

ミラースが【シックル(絶対稲刈りカマ)】を構え、額に冷汗を浮かべる。

絶体絶命の危機。

村人たちが地下シェルターへ避難しようとした、その時。

「……おい、龍魔呂」

「あぁ、分かっている。カイト」

麦わら帽子のカイトと、漆黒のエプロンを着た龍魔呂が、空を覆う機械の群れを見上げて「極めて邪悪な笑み」を浮かべていた。

「あれ、文献で読んだことあるぞ。太古の戦争の遺物『死蟲機』だろ。外装は装甲に見えるが、実は高濃度のカルシウムとキチン質……中身はギッシリと『白身の肉』が詰まってるっていう、伝説の……」

「そうだ。ルナミスのS級冒険者どもが、こぞって乱獲して食ったという幻の高級食材……『空飛ぶマウンテン・シュリンプ(山エビ)』だ」

龍魔呂が、ギラリと【牛刀】を閃かせた。

「油の温度は180℃。天ぷら粉とタローマン製の特大どんぶりの用意もできている」

「……よし。なら、今日は『海老天丼』の大食いパーティーだな!!」

カイトはドテラの懐から【極太の赤ペン】を抜き放ち、眼前に迫る数万の死蟲機たちに向けて、空中に巨大な文字を書き殴った。

キュキュキュキュッ!!!

「てめぇらの設定『無慈悲な機械兵器』? 却下だ! 今日からてめぇらのジャンルは『鮮度抜群・無農薬の天然モノ(エビ)』だ!!」

カイトの理不尽な添削(バツ印)が空中の機械蟲たちに直撃する。

その瞬間、死蟲機たちの金属装甲が、まるで茹で上がったカニやエビのように鮮やかなオレンジ色へと変色した。

「ジ、ジジ……!?(※システムエラー:自身がエビであると誤認)」

「さぁ、収穫(殻むき)の時間だ。ミラース! ゼロス! ボケッと突っ立ってねぇで手伝え!」

「は、はいぃぃっ!」

「チッ、人使いの荒い……!」

ミラースがマッハの速度で【シックル】を振るい、死蟲機たちの硬い装甲(エビの殻)だけを芸術的なまでに綺麗に剥ぎ取っていく。

剥き身となったプリップリの巨大な身を、ゼロスが泣きながらカゴで受け止め、龍魔呂の待つ野外炊事場へと運ぶ。

「フッ……最高の鮮度だ。秘剣・三枚おろし!!」

龍魔呂の【赤黒い闘気】を纏った包丁が閃き、剥き身にされた死蟲機が次々と180℃の油の中へダイブしていく。

ジュワァァァァァァァァッ!!

広場いっぱいに、ごま油とエビの天ぷらが揚がる、暴力的なまでに香ばしい匂いが充満した。

「揚がったぞ! 米麦草の新米の上に、ポポロ特製の甘辛いタレをぶっかけろ!」

巨大なタローマン製のどんぶりに、はみ出さんばかりの巨大なエビ天(※元・死蟷螂型)が3本も乗せられた、究極の【特大・海老天丼】が完成した。

「いっただっきまーすの!!」

リーザが誰よりも早く天丼に飛びつき、サクッ! と豪快な音を立ててエビ天を噛みちぎる。

「んふぅぅぅッ! 外はサクサク! 中はプリップリで、エビの旨味とタレの甘みが最高ですのー!!」

「本当に美味しい! これなら無限に食べられますね!」

キャルルもウサギ耳をピコピコと揺らしながら、天丼をかき込んでいる。

「な、なんだこれ……! 悔しいけど、箸が止まらない……ッ!」

ゼロスもまた、自分の顔よりデカい天丼を涙とタレで顔をぐちゃぐちゃにしながら平らげていた。

【天魔窟 —— 死蟲軍・作戦司令室】

「……な、なんだこれはぁぁぁ!?」

薄暗いモニター群の前。

先ほどまでの気取った道化師の仮面をかなぐり捨てた魔人ギアンが、床を転げ回って発狂していた。

「我が……我が無敵の死蟲軍が、次々と『天ぷら』にされて食われているだとォ!? コンテニューだ! コンテニューさせろ!!」

仮面の下の素顔は、完全に引きこもりのオタク(NEET)だった。

彼の足元には、空になったピザの箱やコーラのペットボトルが散乱している。

「ああっ! 死王蟻型(マザー) までが、タルタルソースをかけられて『エビフライ』に……! 許さん、許さんぞルチアナの息のかかった人間どもめ! ママァァァ(サルバロス様)! 銅貨1枚ちょうだい! ガチャ(増援)回すからぁぁぁ!!」

ギアンはコンソールパネルを台パンしながら、幼児のように泣き喚いていた。

【神界セレスティア —— 炎上神ワイズの配信ルーム】

『深夜に天丼の映像テロやめろwww』

『美味そうすぎる。タレの照りがヤバい』

『エビ天ASMR最高! 10万Gスパチャします!』

『もはや神のチャンネルじゃなくて、カイト農場のご飯チャンネルだなww』

「…………………………」

ワイズは、完全に虚無の表情でモニターを見つめていた。

彼が全財産を投じて用意した「絶望の機械兵器」すらも、カイトの手にかかればただの「豪華な 昼飯(シーフード) 」へと変換されてしまったのだ。

「……私の、私の悲劇が……また、飯テロ動画に……」

パリンッ。

ワイズの手からマイタンブラーが滑り落ち、神界の大理石の床にカプチーノが虚しくぶちまけられた。

炎上神の威厳は、もう完全に地に堕ちていた。