軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 6

絶対両断の『 中二病(エッジ) 』と、最強農民の【物理的耕作】

「——くだらん。神の操り人形が壊れる 様(サマ) は、見世物としては三流以下だな」

ポポロ村の広場。

畑に突き刺さったままピクピクと痙攣する勇者ゼロスを一瞥し、漆黒のコートを纏ったネフィリム・ミラースが冷酷に吐き捨てた。

彼の周囲には、天使の白と魔族の黒、相反する二つの魔力が禍々しく渦巻いている。

「おい、聞いてるかクソ 神(ワイズ) 」

ミラースは上空を飛んでいた死蝿型ドローン(カメラ)の一つを睨みつけ、妖刀『哭刀』を無造作に振るった。

斬撃は空気を越え、空間そのものを『ズレ』させてドローンを真っ二つに両断する。

【神界セレスティア —— 炎上神ワイズの配信ルーム】

『カメラ3カメ、ロストしました!』

『ミラースの奴、何をやってる!?』

「チッ……! 馬鹿なネフィリムめ、 台本(シナリオ) を逸脱する気か!」

ワイズがインテリ眼鏡を乱暴に押し上げながら、別アングルのカメラを起動する。

画面の中のミラースは、残ったドローンに向かって不敵に笑っていた。

「底の浅いヤラセ劇は今日で終わりだ。俺はこの妖刀で、ゼロスも、魔王ラスティアも、そしてお前のその薄っぺらい『台本』ごと、この世界の全てを真っ二つに斬り裂く。最後に玉座に座るのは、迫害され続けたこの俺だ」

『おおお!?』

『悪役の裏切りキター!』

『ヤラセよりこっちの方がおもしれぇww』

ワイズの意図とは裏腹に、ミラースのガチの 中二病(ダークヒーロー) ムーブに、ゴッドチューブの視聴者たちが再び沸き立ち、スパチャが乱れ飛ぶ。

「……ッ、結果オーライです! 良いでしょうミラースくん、ならばその絶望の刃で、私の顔に泥を塗ったその忌々しい農民を真っ二つにしなさい!!」

ワイズが画面越しに叫んだ。

「……全てを斬り裂く、だと?」

ミラースの凄まじい魔力と殺意を前にしても、カイトは全く動じていなかった。

それどころか、彼は麦わら帽子を深く被り直し、深いため息をついた。

「てめぇ、さっきからペラペラとポエムを垂れ流してるが……そこ、俺が昨日タネを撒いた『 米麦草(まいばくそう) 』の 畝(うね) だぞ。一歩でも踏み荒らしてみろ、てめぇを 肥料(コンポスト) 行きにする」

「……農民風情が、俺の【ソード】の前に立てると思うなよ」

ミラースの顔半分を覆う仮面の奥で、瞳が赤く発光する。

「消えろ——『絶望の 断罪(ディスペア・セヴェランス) 』!!」

ミラースが妖刀を上段から振り下ろした。

彼のユニークスキル【ソード(絶対両断の理)】。それは物理的な硬度を無視し、対象の「存在」そのものを真っ二つに分断する概念兵器だ。

放たれた漆黒の斬撃が、地面を抉り、空間を歪ませながらカイトへと一直線に迫る。

「危ないっ、カイトさん!」

キャルルが叫び、龍魔呂が手元の包丁を構えようとした、その瞬間。

「……何が絶対両断だ。んなもん、ただの『デカい 剪定(せんてい) バサミ』だろうが」

カイトは一歩も引かず、右手に持った【超硬度クワ】を無造作に振り上げた。

「土を耕すってのはな……固まった土の塊を『砕き(両断し)』、空気を入れて『混ぜ合わせる(統合する)』ことだ!!」

ガキィィィィィィィィィィンッ!!!!

世界を切り裂くはずの漆黒の斬撃が、使い込まれた 農具(クワ) と激突し、火花ならぬ『概念の火花』を散らして硬直した。

「な……ッ!? 馬鹿な、俺の【ソード】が止められただと!?」

ミラースが驚愕に目を見開く。

「当たり前だ。てめぇの刃は『表面を切り離す』だけの破壊。だが、このクワは『切り離した上で、より豊かな土壌へと混ぜ合わせる』ための生産の道具だ。……破壊(分断)だけの薄っぺらい刃で、 大地(すべて) を受け入れるクワの度量に勝てるわけがねぇんだよ!」

カイトがクワに込めたド黒い【農業オーラ】が、ミラースの斬撃を強引に弾き返し、そのまま妖刀『哭刀』の刀身をカチ上げた。

「くそッ……ならば、何度でも斬るまでだ!」

ミラースが再び体勢を立て直そうとした、その時。

「スキだらけだぜ、中二病の害虫さんよ」

いつの間にか、カイトの左手がミラースの胸元に迫っていた。

その指には、神すら震え上がる【極太の赤ペン】が握られている。

「てめぇの『何でも切り裂く』って設定……農業的に見れば、最高に便利なツールだな。添削してやる」

キュキュキュキュッ!!!

カイトはミラースの胸元(概念のコア)に、迷いなく赤ペンで巨大なバツ印(✖)を書き込み、新たな設定を上書きした。

「ユニークスキル【ソード(絶対両断)】? 却下だ! 今日からてめぇのスキルは【シックル(絶対稲刈りカマ)】だ!!」

「……は?」

ミラースの頭上に浮かんでいた漆黒の魔力が、ポンッ!という気の抜けた音と共に、爽やかな黄金色の光へと変化した。

そして、彼が握りしめていた禍々しい妖刀『哭刀』が、シュルシュルと形を変え……気がつけば、極めて使い勝手の良さそうな『農作業用の三日月カマ』に変わっていた。

「俺の……俺の妖刀が……!? なんだこの、手にしっくりと馴染むグリップは!? 刃のカーブが、絶妙に稲の根元を刈り取りやすい角度に計算されているだと!?」

ミラースが、自分の手にあるカマを見てパニックに陥る。

「よし、 魔力(エンジン) の出力も申し分ねぇ」

カイトはニヤリと笑い、ミラースの肩をポンと叩いた。

「お前のその『何でもスパッと切り裂く』能力、米麦草の収穫にピッタリだ。おら、中二病ポエム読んでる暇があったら、そこの3ヘクタールの畑、夕方までに全部刈り取れ。終わるまで水はやらねぇぞ」

「ふざけるな! 俺は魔王になる男だぞ! なぜ俺が稲刈りを……」

「や・れ・よ」

カイトの目が、完全なド黒い狂気に染まる。

「……ッ、はい。直ちに刈り取らせていただきます」

ミラース(元・反逆のダークヒーロー)は、生存本能からの恐怖に涙目になりながら、圧倒的なスピードで米麦草の稲刈りを開始した。

ザクッ! ザクッ! ザクッ! と、絶対両断の理を応用した、世界一美しい稲刈りの光景が広がる。

「素晴らしい! カイト様、彼には後でタローマン製の『麦わら帽子』と『首掛けタオル』を支給しておきましょう!」

リバロンが優雅にメモを取る。

「ほな、あの子の刈り取った米麦草、早速ルナミス帝国に高値で出荷する手配しまっせ!」

ニャングルが算盤を弾いて笑い声を上げた。

【神界セレスティア —— 炎上神ワイズの配信ルーム】

『悪役が稲刈り始めたwwww』

『スゲェ! 刈り取るスピードがマッハだ!ww』

『農業配信最高だな! スパチャ1万G投げます!』

「あ……ああ……あぁぁぁ……ッ!!」

天界の配信ルームでは、炎上神ワイズが自身の金髪をかきむしりながら、絶望の叫びを上げていた。

彼の用意した「悲劇のヤラセ台本」も「裏切りのダークヒーロー路線」も、全てが『カイト農場の優秀な 労働力(ギャグ) 』へと魔改造されてしまったのだ。

「認めない……こんな農業の理不尽、私は絶対に認めないぞォォォ!!」

ワイズの悲鳴が神界に響き渡る中、地上では最強農民カイトが、畑に突き刺さったままの勇者ゼロスを引っこ抜き、「おい、お前は草むしり担当だ」と容赦なく労働のノルマを課していたのだった。