軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 5

中身スッカスカの『課金ステータス』と、最強農民の【赤ペン(物理)】

「……おい。誰が俺のダチの飯をバカにして、俺の畑に『ゴミ』を捨てた?」

ポポロ村の中央広場。

麦わら帽子の奥から覗くカイトの瞳は、底知れぬド黒い【農業オーラ】に包まれていた。彼は土に落ちたポポロシガーの吸い殻を拾い上げ、指先で怒りのままに握り潰す。

「ひぃッ……!?」

カイトから放たれる常軌を逸したプレッシャーに、勇者ゼロスの顔が引きつった。だが、上空にはワイズの放った『死蝿型ドローン(カメラ)』が飛んでいる。ここで農民相手に尻尾を巻くわけにはいかない。

「な、なんだ君は! 勇者である僕に向かってその態度は! そもそも、たかが土の上に葉巻のカスを落としたくらいで……」

「『たかが土』……だと?」

ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!

カイトの足元から、大地の怒りそのもののような重低音が響き始めた。

「土を1センチ育てるのに、どれだけの時間と命(微生物)の循環が必要か分かってねぇのか。てめぇの落としたヤニと火種は、その循環を焼き殺す『猛毒』なんだよ」

カイトがジリッと一歩前に出る。

その尋常ではない圧に耐えきれず、ゼロスは叫び声を上げた。

「くそっ、野蛮な農民が! 身の程を教えてやる!」

ゼロスは空中のドローン(カメラ)に向けてウインクを飛ばし、自身のユニークスキル【マネー】を発動させた。

『ワイズ様! もっとスパチャ(資金)を! こいつを公開処刑にしてバズらせます!』

神界からの裏操作と、配信を見ている愚かな信者たちからの課金が、ゼロスのシステムに滝のように流れ込む。

ピロロロロンッ! という安っぽい電子音と共に、ゼロスの頭上に『ATK(攻撃力):99,999』というバグのような数値がホログラムで浮かび上がった。

「ハハハハッ! 見ろ、皆の祈り(金)が僕を最強にする! 攻撃力9万オーバーだ! くたばれ、底辺農民!」

ゼロスは筋肉を不自然に膨張させ、特注のオリハルコンソードを大上段からカイトの脳天へと振り下ろした。

金に物を言わせた、一撃必殺の暴力。

しかし——。

ガキィィィィィィンッ!!!!

「……は?」

ゼロスの間の抜けた声が漏れる。

彼の全力の一撃は、カイトが片手で無造作に掲げた【超硬度クワ】の柄によって、ピタリと止められていた。クワには傷一つついていない。

「お、重い……だと?」

逆に、ゼロスの腕の骨がミシミシと悲鳴を上げていた。

「攻撃力9万? ……ふざけるな。驚くほど軽いぞ。乾燥しきった 藁束(わらたば) の方がまだ手応えがある」

「ば、馬鹿な! 僕のステータスは今、魔王すら凌駕しているはずだぞ!?」

カイトは冷酷な目で、ゼロスの頭上に浮かぶホログラムの数値を睨みつけた。

「数字だけを後から継ぎ足しただけの、中身がスッカスカな『促成栽培のクソ 野菜(モヤシ) 』が。……土作り(基礎)も、間引き(挫折)も、日照り(苦難)も経験してねぇ。そんな見せかけのステータスで、大地の重みに勝てるわけがねぇだろうが!!」

カイトがクワを弾き返すと、ゼロスは体勢を崩して無様に尻餅をついた。

「てめぇの 設定(カンペ) は……俺が添削してやる」

カイトが左手の【極太の赤ペン】のキャップを口で咥えて外す。

そして、尻餅をつくゼロスの頭上のステータス 画面(ホログラム) に向かって、親の仇のように巨大な【バツ印(✖)】を書き殴った。

キュキュキュキュッ!!!

「攻撃力9万? 却下だ! 経験(プロセス) の伴わないステータスは『虚偽申告』として認めねぇ!」

赤ペンでバツ印を書かれた瞬間、ゼロスのステータス画面が『ERROR!』という赤い文字と共にひび割れ、砕け散った。

「あ……? ぁあ……ッ!?」

ゼロスの体から、課金によって無理やりパンプアップされていた力が急速に抜け落ちていく。残ったのは、本来の「鍛錬を一度もしたことがない、ひ弱な肉体」だけだった。重い特注レプリカの鎧すら支えきれず、彼は地面に這いつくばる。

「僕の……僕のお金で買った力が……!!」

「力が欲しけりゃ、まずは『耕せ』。……第一工程、土起こしだ!!」

ドゴォォォォォォォォォンッ!!!!

カイトの【超硬度クワ】が、ゼロスの足元の地面を抉り飛ばした。

凄まじい衝撃波と土煙が巻き起こり、ゼロスの体は空高くカチ上げられ、そのまま頭から「ポポロ村の柔らかな畑の土」へと突き刺さった。

「ひでぶッ!!」

「これで少しは土の匂いが分かるだろう。そのまま土下座して、大地の微生物たちに謝りな」

完全に沈黙する課金勇者。その両足だけが、畑から「犬神家」のように突き出していた。

「やったー! カイトさん最強ですのー!」

「素晴らしい 添削(クワさばき) でした、カイト様。後で彼の口座から、畑の修繕費として違約金をたっぷり引き落としておきますね」

リーザが歓声を上げ、リバロンが優雅に一礼する。

一方、その光景をカメラ越しに見ていた天界では——。

【神界セレスティア —— 炎上神ワイズの配信ルーム】

『……は?』

『勇者ワンパンされたんだけどwww』

『なにあの農民、強すぎワロタ』

『ヤラセ乙。返金しろ!』

「な……ッ! な、なんだあのバカげた農民はァァァァ!?」

ワイズの悲鳴が、専用ルームに響き渡った。

PV数は大暴落し、スパチャの返金要求が画面を埋め尽くす。彼が丹精込めて作り上げた「完璧な悲劇からの英雄登場シナリオ」が、たった一本のクワと赤ペンによって、最悪のギャグ配信へと成り下がってしまったのだ。

「私の……私の美しい台本が……! 課金システム(ルール)を物理で書き換えるなど、神の権限すら超えているぞ!? あいつは何者だ!?」

ワイズがインテリ眼鏡をズレさせながら、キーボードをバンバンと叩きまくる。

「……ッ、まだだ! まだ終わっていません! ミラース! ミラースくんに連絡を! あのチート農民を【ソード】で両断しろと——」

ワイズがミラースへの通信を繋ごうとした、その時だった。

画面の端で、予想外の「黒い影」がポポロ村の広場に接近しているのが映った。

『——くだらん。神の操り人形が壊れる 様(サマ) は、見世物としては三流以下だな』

村の入り口。

漆黒のコートを翻し、顔の半分を仮面で覆った男……魔王軍過激派のミラースが、ゆっくりと歩み出てきたのだ。彼の手には、いかなる概念をも斬り裂く妖刀『哭刀』が妖しく輝いている。

ワイズのヤラセではなく、ミラース自身の「本物の殺意」が、カイトへと向けられていた。