軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 4

課金勇者のポポロ村来訪と、究極おでん(B級グルメ)への冒涜

「……おい、ポチ。そっちの 畝(うね) の時間を半日ほど巻き戻せ。土のペーハー(pH)が狂ってやがる」

「キュイッ!(了解!)」

ポポロ村・カイト農場。

カイトは指先で土を少しすくい、舌に乗せて顔をしかめた。隣の開拓村から風に乗って飛んできた灰が、カイトの愛する畑にうっすらと降り注いでいたのだ。

「木材や藁を燃やした自然な灰じゃねぇ。魔法の残留魔力と、質の悪い油……それに、なんつーか『見栄えだけを気にして中身がスッカスカな奴』の嫌な匂いが混ざってやがる」

カイトは不機嫌極まりない顔で、ドテラの懐から【極太の赤ペン】を取り出し、虚空に『土壌中和・即時発酵』と書き込んだ。

赤ペンの理不尽な強制力により、飛来した悪性の灰は一瞬にして無害な堆肥へと魔改造され、土に溶けていく。

「どこのどいつか知らねぇが、 畑(ここ) に無断でゴミを撒き散らすなら……次はその落とし主を直接コンポスト(堆肥箱)にぶち込んで発酵させてやる」

ド黒いオーラを放つ最強農民の怒りに、畑の害虫たちが恐怖で自ら土に還っていく中——ポポロ村の中央広場は、異様な空気に包まれていた。

「さぁ、恐れることはありませんよ、ポポロ村の皆さん! 悲劇は終わりました。この僕、勇者ゼロス・ディバインが来たからにはもう安心です!」

広場の中央で、太陽の光を反射してキラキラと輝く聖なる鎧(特注レプリカ)と、ドワーフ製セラミックの白い歯。

ワイズの死蝿型ドローン(カメラ)を常に斜め45度で意識しながら、ゼロスはマントを翻して壮大なポーズを決めた。

……しかし。

三大国の緩衝地帯として、日夜ヤバい連中(魔族の将軍や獣人の騎士団)が出入りするポポロ村の住人たちの反応は、すこぶる薄かった。

「……なんやあのピカピカした兄ちゃん。新手のチンドン屋か?」

算盤を弾きながら、猫耳族のニャングルが煙管を吹かす。

「さぁ? それより龍魔呂さん、この太陽芋の餅巾着、もう一つおかわりですの!」

ルナミスデパートの芋ジャージを着たリーザは、勇者などガン無視で【PRO型・ポポロ煮込みおでん】に夢中である。

(な、なんだこいつら!? 俺は隣村を救った話題沸騰中のトレンド勇者だぞ!? なぜ土下座して縋り付いてこない!?)

ゼロスは内心で舌打ちをしながら、カメラに向けて引きつった笑顔を維持した。

そこへ、完璧な所作で歩み寄る影があった。

人狼族の天才宰相・リバロンである。彼は胸元に手当てて、優雅に一礼した。

「ようこそおいでくださいました、勇者様。当村は歓迎いたします。して、ご用件は? 討伐のポーズ撮影でしたら、あちらの立て看板の前が映えますが」

「ッ……! 撮影だなんて人聞きの悪い! 僕は皆さんの平和を——」

ゼロスが言いかけたその時、彼の視界に、広場の巨大な魔導鍋……龍魔呂が仕切る『おでん屋台』が飛び込んできた。

グツグツと煮込まれる大根や練り物。そして、それを嬉しそうに食べるリーザたち。

ゼロスの脳内で、ワイズから叩き込まれた『 炎上(バズ) のセオリー』が閃いた。

(……そうだ。ここでこの底辺の村人たちを哀れみ、救済する慈悲深い姿を見せれば、好感度はさらに爆上がりする……!)

ゼロスはカメラを意識し、わざとらしく悲痛な顔を作って屋台へと歩み寄った。

「ああ……なんという事だ。あなた達は、こんな『残飯を煮込んだようなもの』を食べて飢えを凌いでいるのですね……!」

ピタッ。

その言葉が出た瞬間、広場の空気が凍りついた。

「大根に、芋に、怪しげな練り物……出汁も濁っている。こんな貧乏くさい草食動物の餌のようなものを……可哀想に。安心してください! 僕の資金(お金)で、もっとマシなものを——」

「……あぁん?」

ゼロスの言葉を遮ったのは、包丁を手入れしていた龍魔呂から漏れ出た、世界を滅ぼすレベルの【赤黒い闘気】だった。

「残飯だと? タローソンとルナキンが共同開発し、俺がミリ単位で温度調整したこの『黄金のコンビニ出汁』を……もう一度言ってみろ、金髪の小僧」

「ひぃッ!?」

圧倒的な殺気に、ゼロスの足がガクンと震える。しかしカメラが回っている手前、引くわけにはいかない。

「な、なんだ君は! 僕を誰だと……!」

「ちょっと待ってくださいの!!」

龍魔呂とゼロスの間に割って入ったのは、Myタッパーを抱え、口の周りにマヨネーズをつけたリーザだった。

「このおでんは、ポポロ村の皆が一生懸命育てた野菜と、龍魔呂さんの愛が詰まった最強のB級グルメですの! パンの耳と一緒に食べれば高級フレンチをも凌駕するんですの! それを残飯呼ばわりするなんて、絶対無敵のスパチャアイドルが許しませんの!」

「ス、スパチャアイドル……? なんだその痛々しい肩書きは。そんな小汚いジャージを着た物乞い風情が、僕に口答えするな!」

ゼロスがカメラに背を向け、村人たちにしか見えない角度で、極めて醜悪な「本性(クズの顔)」を晒して舌打ちをした。

そしてイライラを抑えるように、懐から高級ポポロシガーを取り出し、火をつける。

「チッ……どいつもこいつも、貧乏人のくせにプライドだけは……。おい、早く絵になる『悲惨な村人』の顔をしろよ」

ゼロスは深く紫煙を吸い込み、吐き出すと——あろうことか、まだ火がついている吸い殻を、リーザの足元……広場のすぐ横にある『共有の畑』の土に向かって、ポイッと弾き飛ばした。

「あ」

キャルルが、血の気の引いた顔でその吸い殻を見た。

リバロンが、哀れなモノを見る目でそっと目を伏せた。

「……おい。誰が俺のダチの飯をバカにして、俺の畑に『ゴミ』を捨てた?」

地響きのような低い声。

広場の入り口に立っていたのは、麦わら帽子を目深に被り、右手に【超硬度クワ】、左手に【極太の赤ペン】を握りしめたカイトだった。

「なんだ君は? 薄汚い農民が、勇者である僕に——」

「勇者? 知るかよ。俺の目には今、てめぇが……『畑の土を汚す、最悪の害虫』にしか見えねぇんだわ」

カイトの足元から、ド黒い農業オーラが立ち昇る。

炎上神の緻密な台本が、最強農民の理不尽なまでの「土への愛」によって、今まさに根底から粉砕されようとしていた。