軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 3

炎上神の『完璧な 悲劇(ヤラセ) 』と、課金勇者のグランド・デビュー

ポポロ村から数キロ離れた場所に位置する、ルナミス帝国領の小さな開拓村。

豊かな緑に囲まれ、人々がささやかな畑を耕して暮らすその平和な村は今、業火と悲鳴に包まれていた。

「ヒャッハー! 燃やせ燃やせェ! ルナミス帝国の豚どもを皆殺しにしろ!」

「魔皇国に逆らうからこうなるんだよォ!」

たいまつと凶器を掲げた魔王軍の過激派たちが、家屋に次々と火を放っていく。

村の自警団がルナミス帝国製の魔導ライフルで応戦するものの、多勢に無勢。何より、敵の指揮官の力が次元違いだった。

「……防御結界、展開! 魔法障壁を最大出力にしろ!」

自警団長が叫び、村を覆う半透明のドーム状の結界が輝きを増す。

だが、その結界の前に歩み出た漆黒のロングコートの男——禁忌の混血ネフィリムであるミラースは、顔の半分を覆う禍々しい仮面の奥で、冷たく鼻で笑った。

「無駄だ。俺の前で『壁』など存在しない」

ミラースは腰に帯びた妖刀『 哭刀(こくとう) 』を静かに抜く。

彼が持つユニークスキル【ソード】。自身が『武器』と認識したものを、いかなる物質をも両断する概念兵器へと昇華させる絶対の理。

ミラースが刀を無造作に一閃した瞬間——。

ルナミス帝国が誇る魔導結界は、まるで薄い紙切れのように音もなく『真っ二つ』にズレて崩壊した。

「な、なんだと……!? 結界が、一撃で……!」

「さぁ、蹂躙の時間だ。存分に絶望しろ」

ミラースが冷酷に言い放つと、魔族たちが歓声を上げて村へとなだれ込む。

(……反吐が出る三文芝居だ。だが、この圧倒的な『悪役』の演技こそが、あのクソ神との契約。今はせいぜい、ピエロの引き立て役を演じてやる)

内心で舌打ちをしながら、ミラースは妖刀の血を振り払った。

【神界セレスティア —— 炎上神ワイズの配信ルーム】

『ああっ! 子供が!』

『なんてひどい……! 誰か助けて!』

『神様、どうかあの村に奇跡を!』

「素晴らしい……! 皆さんの美しい悲しみ(トラフィック)が、ガンガン数字に変換されていきますよ!」

空中に展開された巨大なホログラムモニターの前で、炎上神ワイズはカプチーノのタンブラーを片手に歓喜の声を上げていた。

画面には、ミラースたちの襲撃によって燃え盛る開拓村の惨状が、ドローン(死蝿型の死蟲機を魔改造したカメラ)によってマルチアングルで生配信されている。

ワイズの手元にある【エンジェルすまーとふぉん・ 無限(インフィニティ) 】の画面では、天界や他世界の視聴者から投げ 銭(スパチャ) が滝のように流れ込み、PV数が天文学的な数字を叩き出していた。

「最高にヘイトが溜まりましたね。さぁ、ここで視聴者のカタルシスを爆発させる『ヒーロー』の出番だ。……アクション」

ワイズが指先でキーボードの『Enter』をターンッ!と叩いた。

絶望の淵に立たされる開拓村の広場。

魔族の刃が、逃げ遅れた村人の子供に振り下ろされようとした、まさにその時——。

「——そこまでだ、悪党ども!!」

天空から眩いほどのスポットライト(※ワイズの演出魔法)が降り注ぎ、ひとりの男が颯爽と舞い降りた。

輝く金髪、ドワーフ製セラミックの不自然なほど白い歯。特注レプリカの聖なる鎧を身に纏ったイケメン勇者、ゼロス・ディバインである。

「ゆ、勇者様だぁぁぁ!」

「神は我らを見捨てていなかった!」

村人たちが涙を流して歓喜する中、ゼロスはカメラ(死蝿型ドローン)の位置をチラリと確認し、最も自分が格好良く映る角度(斜め45度)でポーズを決めた。

(よし、カメラ回ってるな。……ふんっ!)

ゼロスは内心でほくそ笑むと、自身のユニークスキル【マネー】を発動させた。

ピロロロロンッ!

ワイズの裏操作と、視聴者からのスパチャによって莫大な「資金」がゼロスのシステムにチャージされる。その瞬間、ゼロスの全ステータス(筋力・俊敏・魔力)が、課金の暴力によって青天井に跳ね上がった。

「皆さんの祈り(スパチャ)が、僕に力を与えてくれる! いくぞ、必殺——『ディバイン・ジャスティス・スラッシュ』!!」

中身が空洞の軽いオリハルコンソードに、強引に底上げされた莫大な魔力が宿る。

ゼロスが剣を振るうと、目くらましの閃光と共に、過激派の魔族たちが(あらかじめワイズから「ここでやられろ」と指示されていた通りに)大袈裟に吹き飛んでいった。

「ぐ、ぐわぁぁぁッ! ば、馬鹿な、この俺が押されているだと……!?」

ミラースもまた、妖刀を盾にしてワザとらしく後ずさる。

(……クソ。なんだこの中身のないフワフワした剣撃は。本気で斬り捨てたくなる衝動を抑えるのが一番疲れるぜ……)

「今日はこのくらいにしておいてやる! 撤退だ!」

ミラースが合図を出すと、魔族たちは一斉に煙玉を投げて撤退していった。

「やった! 勇者様が村を救ってくれたぞ!」

「ありがとう、勇者様! あなたは真の英雄だ!」

歓喜に沸く村人たち。

天界の配信ルームでは、PVとスパチャがストップ高を記録し、ワイズが狂喜乱舞していた。

「皆の者、怪我はないか? 悪は去った。もう安心だよ」

ゼロスは白い歯を見せて爽やかに笑い、村の子供の頭を撫でる。

(ふん。どいつもこいつも小汚いモブどもめ。俺の鎧に触るなよ)

カメラの死角に入った瞬間、ゼロスは懐から高級口臭スプレーを取り出して口内に乱れ撃ちし、さらに隠し持っていた高級ポポロシガーに火をつけた。

そして、プハーッと紫煙を吐き出しながら、まだ火がついている吸い殻を、村の焼け焦げた畑の土へと無造作に弾き飛ばした。

「さーて、次のバズりスポットは……隣の『ポポロ村』って所だったな。あそこならもっとデカい絵が撮れそうだ」

——しかし、彼らは大きなミスを犯していた。

開拓村から風に乗って流れてきた「不純物だらけの灰」と、ポイ捨てされた「シガーの吸い殻」。

それが、隣村で農作業をしていた「大自然(農業)の代行者」の逆鱗に触れたことを、この時のヤラセ主従はまだ知る由もなかった。

「……おい。なんだこの風に乗ってくる、ろくに発酵もさせてねぇ焦げ臭い灰は。土がアルカリ性に傾いちまうだろうが……」

ポポロ村。

手元の【超硬度クワ】を握るカイトの目が、ド黒い狂気に染まり始めていた。