作品タイトル不明
第二十八章 最強農民と炎上神の台本
神々のクソ会議と、最強農民の『超絶・収穫祭』
天界セレスティア・第1会議室。
世界の 理(ことわり) を定めるはずのその場所は現在、底辺ブラック企業の朝礼よりも酷い有様となっていた。
「……本日の議題だが。む? フレアは半休で帰った? デュークはラーメンの仕込み? フェンリルはパチンコ……だと? しかもガオガオンは社内恋愛の泥沼化で出社拒否ィ!?」
主神オリンが、頭頂部から後光(物理)を放ちながら胃薬を噛み砕く。
「オリン~。ハゲが眩しいから消してくんない?」
永遠の17歳(自称)こと女神ルチアナが、ジャージ姿のまま机に突っ伏して欠伸をした。
「な、なんだと!? 私は電球ではないぞ!」
「オリン様、ジロジロ見ないでください。セクハラですわ」
月の女神カグヤが、ハイブランドの扇子で口元を隠しつつ冷たい視線を送る。
「話をしただけでセクハラとは!?」
『うわあああん、オリン様が怒鳴ったぁ、怖いよおお(棒読み)』
見習い女神のリリスは、手元の【エンジェルすまーとふぉん】でソシャゲの周回ポチポチ作業をしながら、一切の感情がこもっていない声を上げた。
「オリン様! 声が大きすぎますわ! 規律が乱れます!」
天使長ヴァルキュリアがバンッと机を叩く。
「うう……胃が……私の胃が……」
カチャカチャカチャカチャッ! ターンッ!!
頭を抱えるオリンの横で、場違いなほど軽快なタイピング音が響いた。
「——さーせん。時間が無駄のようなので、切り上げていいすか? 俺、自分の 仕事(タスク) があるんで」
専用のマイタンブラーでカプチーノを啜り、インテリ眼鏡を中指で押し上げた男。
最近神界に中途採用で入ってきた新入りの男神、炎上神ワイズである。
ルチアナは内心で毒づいた。
(調子に乗んなよクソガキ。お前のやってる事なんて、ただの炎上系ヤラセ配信だろうが。月人君のファンクラブ資金を横領してる私よりタチが悪いわ!)
カグヤも裏垢で呟くように内心で吐き捨てる。
(品がありませんわね。台本ありきのヤラセ悲劇など、エンタメの風上にも置けませんわ)
そんな先輩女神たちのヘイトなどどこ吹く風。ワイズはノートPCの画面を閉じ、薄く笑った。
「時代は『悲劇からの圧倒的ざまぁ』なんですよ。……さて、次の舞台(モブの村)は、三大国の緩衝地帯あたりが良いですね。最高にバズる台本を用意しないと」
ワイズは自らの【エンジェルすまーとふぉん・ 無限(インフィニティ) 】を回しながら、眼下の地上へと視線を落とした。
彼はまだ知らない。
その視線の先——ポポロ村に、「神の台本」すら物理的に粉砕する規格外のバカが住んでいることを。
「ギャアアアアアアアアッ!!」
地上。アナステシア世界、ポポロ村・カイト農場。
断末魔のような悲鳴を上げて畑から飛び出したのは、人間の子供ほどのサイズがある【人参マンドラ】だった。
引っこ抜かれると同時に走り出し、農場からの脱走を図る。
「逃がすかよ。てめぇの根っこは今日のおでんの出汁になる運命なんだよ!」
ドゴォォォォォン!!
麦わら帽子にドテラ姿の青年——世界最強の農民カイトが、手に持った【超硬度クワ】を大地に叩きつけた。
その一撃で発生した局地的な直下型地震(震度6強)により、逃げ足の速い人参マンドラが空中にバウンドする。そこをカイトが首根っこを掴んで捕獲した。
「キュイッ!(お見事!)」
カイトの足元で、小型竜のポチ(実態:時間を操る伝説の始祖竜クロノ)が尻尾を振る。
ポチは口から水爆級のプチブレスを極限まで弱めた『適温の熱風』を吹き出し、畑のビニールハウスの温度をミリ単位で調整していた。
「よし、ポチ。今日は『月見大根』と『太陽芋』の収穫も一気にいくぞ。……ん?」
カイトが農具を担ぎ直した時、畑の隅の雑草地帯でモソモソと動く影があった。
ルナミスデパートで買った芋ジャージに、健康サンダル。手には「パンの耳」と「マヨネーズ」を握りしめた美少女。
「……リーザ。お前、仮にもシーラン国の王女(人魚姫)だろうが。なんで俺の畑の雑草にマヨネーズかけて食おうとしてんだよ」
「カイトさん! これは雑草ではありません! 立派な『無農薬・自生サラダ』ですの!」
アイドルを自称する魚人族のリーザは、キリッとした顔でパンの耳を齧った。
「私は絶対無敵のスパチャアイドル! 施しは受けません! でも、カイトさんがどうしても『捨ててある規格外の太陽芋』を私に押し付けたいと言うなら、貰ってあげなくもないですの!」
「……後で龍魔呂の所に行って、おでん食わせてもらえ。ツケでいいから」
「やったぁぁ! カイトさん大好きですのー!!」
ズドォォォォン!!
リーザが歓喜の舞を踊った瞬間、上空20メートルの高さから、凄まじい脚力で着地してきたウサギ耳の美少女がいた。
「カイトさぁぁぁん!! 朝のパトロール終わりましたぁ!」
ポポロ村の村長、月兎族のキャルルである。彼女は愛用の特注安全靴で大地を砕きながら着地すると、満面の笑みでカイトにすり寄った。
「今日は満月が近いから、私の調子も絶好調です! いつでも隣国の駐屯地にカチコミかけて、兵士たちを半殺しにしてから全回復させる準備はできてますよ♡」
「やめろ。外交問題になるし、何よりあいつらが泣きながら持ってくる 貢物(フルーツ) でうちの倉庫が圧迫されんだよ」
カイトはキャルルの頭を軽く叩き、ため息をついた。
平和な村だ。だが、カイトの持つS級農民の勘——「土の匂い」を読む力が、微かな異臭を嗅ぎ取っていた。
「……何か、中身がスッカスカで、人工的で嫌な『風』が吹いてきやがったな」
カイトはドテラの懐から、神すら恐れる【極太の赤ペン】を取り出し、親指でキャップを弾き飛ばした。
「俺の畑に害虫が湧くなら…… 設定(タネ) ごと、完膚なきまでに 添削(ぶっつぶ) してやる」
世界をゲームの盤面としか思っていない「ヤラセ炎上神」と、土と命を何よりも重んじる「世界最強の農民」。
決して交わってはいけない二つの 理(ルール) が、今、ポポロ村で激突しようとしていた——。