作品タイトル不明
EP 9
【監査】天界コンプライアンス委員会と、絶望のデリート・イナゴ
創造世界『エターナル』。
かつて中身スッカスカだったテンプレ平原は、今や見渡す限りの「超・巨大オーガニック農園」へと変貌を遂げていた。
魔王ゴウマが発酵させた極上の【神級腐葉土】に、炎魔将軍グレンの【焼き畑の灰】が混ざり合い、それを雷土魔将軍ドスンダが時速150キロの【超絶トラクター(双剣&ハンマー)】で耕していく。
そこへ、元・氷魔将軍スアイの氷魔法による完璧な【温度・水分管理】が施され、勇者ユートが凄まじい大腿四頭筋の躍動と共に【星屑キャベツ】の苗を植え付けていくのだ。
「カイト社長! 今月のエターナル支部の予想収益、天界の国家予算の3%を超えそうです! ゴッドチューブの投げ 銭(スーパーチャット) も止まりませんわ!」
聖女リリナ(最高財務責任者)が、ノートパソコンのキーボードをバチバチと叩きながら叫ぶ。
「おう! もっと行けるぞ! シオン、キャベツに付く害虫の気配はないか!?」
「問題ないぜ、カイトさん! 師匠(龍魔呂)直伝の『瞬殺・微塵切り』で、半径1キロ以内の害虫は一匹残らず肥料に変えた!」
カイトが麦わら帽子を直しながら満足げに頷き、龍魔呂が特製の『採れたて野菜のペペロンチーノ』を大鍋で作っている。世界は、完璧な農業のサイクル(大豊作)によって一つになっていた。
だがその時。
空が突如として、不気味な「真っ 青(ブルースクリーン) 」に染まった。
『WARNING(警告):プロットの重大な逸脱を検知』
『WARNING(警告):勇者と魔王の戦闘行為・発生率0%』
上空の青空グラフィックに、巨大な赤いデジタル文字が浮かび上がる。
「ふぇぇ!? アババババ! カイトさん、私の『エンジェルすまーとふぉん』が異常発熱してますぅ!」
リリスが真っ赤になったスマホを放り投げる。
上空の空間がノイズと共に割れ、そこから純白のスーツに身を包んだ、眉間のシワが深い神々(おっさん)の集団がホログラムとして現れた。
『我々は、天界コンプライアンス委員会である! 見習い女神リリスよ、貴様が管理するこの世界……ファンタジーの 規約(テンプレ) を完全に無視しているではないか!』
「ひぃぃ! 天界のテンプレ保守派(お偉いさん)ですぅ!」
委員会のトップと思われる白髭の神が、怒りに顔を震わせて叫んだ。
『魔王が腐葉土を作り、勇者がクワを振るうなど、ファンタジー世界への冒涜! 読者……いや、神々が求めているのは「剣と魔法の王道バトル」なのだ! こんな異端な世界は、サーバー容量の無駄! ただちに【 強制削除(デリート) プログラム】を遂行する!』
「ま、待ってください! 今この世界、ゴッドチューブでPV率1位を爆走してるんですよぅ!?」
リリスが必死に抗弁するが、保守派の神々は聞く耳を持たない。
『うるさい! 規約は絶対だ! 出でよ、世界を初期化する神の使者……【デリート・イナゴ(害虫)】の群れよ!!』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
空の割れ目から、数億、いや数十億という、赤黒いポリゴンで構成された「デジタルなイナゴの大群」が、エターナルの大地へ向かって津波のように押し寄せてきた。
触れたもの(データ)をすべて初期化し、無に還す恐るべきバグの群れである。
「あ……ああ……。ワシらの、ワシらの畑が……!」
魔王ゴウマが絶望の表情で膝をつく。
「フザケルナ! 俺タチノ耕シタ大志ガ……!」
ドスンダが怒りの咆哮を上げる。
誰もが、世界の終わりを覚悟した、その時。
「……てめぇら」
地を這うような、恐ろしく低い声が響いた。
見れば、畑のど真ん中に立つカイトの全身から、かつてないほどの【ド黒い農業の狂気(殺意)】が噴出していた。
「人の畑に……『害虫』を撒いただと……?」
バキィッ!と、カイトが手にした極太の【赤ペン】の芯が、怒りで折れた。
「俺たちが血と汗と涙(と魔力)を注ぎ込んで、最高のpHバランスに調整したこの土壌に……丹精込めて育てた星屑キャベツに……イナゴの大群を放っただとォォォッ!!?」
『ふん、愚かな農民め。神のデリート・イナゴは、すべてを喰らい尽くす。貴様らも畑も、等しく消去されるのだ!』
「消去されるのはてめぇらだ、クソ神共が!!」
カイトは背中から【超硬度クワ】を引き抜き、大空に向かって天を衝くような怒号を上げた。
「エターナル支部、総員戦闘配置ィィィッ!! 相手は神じゃねえ、ただの『害虫』だ!! 俺たちの 畑(シマ) を、一ミリたりとも荒らさせるな!!」
「「「おおおおおおおおおおっ!!!」」」
カイトの号令に、世界最強の「 農民(パーティー) 」たちが一斉に呼応した。
「一番槍は俺がもらうぜ! 畑の害虫駆除は俺の仕事だ!」
シオンが【ペティナイフ】を構え、龍魔呂の歩法(暗殺術)で跳躍する。
「世界を救うより、キャベツを守る方が燃えるぜ! 行くぞ魔王ゴウマ!」
「おうよ勇者ユート! ワシの【極・腐葉土バフ】でお主の筋肉を限界突破させてやるわい!」
勇者と魔王が背中合わせになり、クワと両手剣を構える。
そして、コタツ代わりの切り株からゆっくりと立ち上がった鬼神 龍魔呂が、エプロンのポケットから真鍮製のライターを取り出した。
カチッ。
「……カイト。今日の賄いは、『イナゴの佃煮』でいいか?」
【赤黒い闘気】を纏った死神が、不敵な笑みを浮かべて【牛刀 210mm】を構える。
「ああ、極上の甘辛ダレで煮込んでやれ!!」
天界の保守派が放った絶望のデリートプログラムに対し、最強の農民と死神、そして農業に脳を焼かれたエターナルの住人たちによる、反逆の「害虫駆除(防衛戦)」が今、幕を開けた!