軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 8

【添削】属性過多の魔王と、究極の腐葉土(発酵)職人

創造世界『エターナル』、魔王城の最上階・玉座の間。

そこには、世界の半分を支配するはずのラスボス――魔王ゴウマが、玉座にポツンと座り、膝を抱えてズビズビと鼻をすすっていた。

「……グレンは焼き畑に行き、サンダとドスンはトラクターになり、スアイに至っては勝手に退職してサウナを作ってしまった。ワシ、明日から誰と世界を征服すればいいんじゃ……」

机の上にポツンと置かれたスアイの退職届を握りしめ、ゴウマが涙をこぼした、その時。

バーーーンッ!!!

玉座の間の巨大な扉が、木っ端微塵に吹き飛んだ。

「おいラスボス! てめぇの 設定画面(ステータス) を見て、腹が立って飛んできたぞ!」

土埃の中から現れたのは、麦わら帽子を被り、右手に極太の【赤ペン】を持ったカイト。その後ろには、スマホでカンペを見ているリリスと、なぜかタッパー(中身は自家製ぬか漬け)を持った龍魔呂の姿があった。

「ひぃっ!? き、貴様がワシの部下たちを農奴に洗脳したという狂気の農民か! ええい、ワシは魔王だぞ! 喰らえ、両手剣による絶技、そして闇魔法、さらには魔界からの召喚獣のトリプルアタックじゃー!」

ゴウマが両手剣を振り回し、黒いオーラを放ちながら、魔法陣から凶悪な魔獣を呼び出そうとする。

しかし、カイトは全く動じず、ズンズンと歩み寄ってゴウマの額に『赤ペンで特大のバツ印』を書き込んだ。

「はい、ダウト! 属性盛りすぎ!!」

「ぶふぇっ!?」

カイトの赤ペン(物理)で脳を揺らされ、ゴウマが玉座にひっくり返る。

「いいかゴウマ! お前、グレンと『両手剣使い』ってキャラが完全に被ってるだろ! しかも闇魔法が使えて、さらに召喚獣まで出せる? 要素を詰め込みすぎだ! 自分が何をしたいのか定まってない、中学生の黒歴史ノートみたいな設定になってるぞ!」

「ぐっ……そ、それは……! リリス様が『とりあえずラスボスだから、思いつくスキル全部乗せとけば強そうだよね~』って適当に入力したから……ワシだって、結局どれも中途半端な『器用貧乏』になってて悩んでおったんじゃ!」

ゴウマが涙ながらにメタな本音を叫ぶ。

「ふぇぇ……予算の都合上、専用のスキルを作るより、既存のスキルをコピペして盛った方が安上がりだったんですぅ……」

リリスが目を逸らしながら、龍魔呂の持っていたタッパーからキュウリのぬか漬けをつまみ食いする。

「……チッ。味が落ちる。素手でぬか床に触るな、ポンコツ女神」

龍魔呂が包丁の峰でリリスの手を軽く叩き落とす。

「いいかゴウマ!」

カイトが再び赤ペンを突きつける。

「全部乗せの幕の内弁当は、結局何の味だか分からなくなる! だが、お前のそのバラバラな能力……『農業』という一つの目的に集約させれば、奇跡のシナジーを生むことに気づかないか!?」

「の、農業に……? 両手剣と、闇魔法と、召喚獣が……?」

「そうだ! まず『闇魔法』! 闇という属性は、言い換えれば【暗闇と適度な湿度・温度の維持】だ! 次に『召喚獣』! デカいバケモノを呼ぶな、極小のバクテリアや微生物サイズの魔物を大量に召喚しろ! そして『両手剣』! それで土をかき混ぜるんだ!!」

カイトの言葉に、隣でぬか床を管理していた龍魔呂の目がキラリと光った。

「……なるほど。温度管理された暗所で、微生物に分解させ、定期的に底から 攪拌(かくはん) する。……完璧な【発酵】のプロセスだな。極上のぬか床、あるいは『腐葉土』を作るための」

「その通りだ! やってみろゴウマ! 魔王城の庭の落ち葉と土を集めて、お前の全スキルを『発酵』のためだけに注ぎ込め!」

カイトの熱量に押され、ゴウマは無意識のうちに庭へ飛び出した。

大量の落ち葉の山に、まずは『闇魔法』で日光を遮断し、完璧な湿度と温度のドームを作る。

次に『召喚魔法』で、肉眼では見えない極小サイズの分解スライム(バクテリア)を数億匹召喚し、落ち葉に放つ。

最後に、自慢の『両手剣』を鍬のように使い、下から上へ空気を入れ込むように豪快に攪拌する!

ボワァァァァァン……!!!

数分後。闇のドームが晴れると、そこには。

真っ黒に熟成され、森の生命力を限界まで凝縮したような、むせ返るほどに芳醇な匂いを放つ【究極の超発酵・神級腐葉土】の山が完成していた。

「な、なんじゃこの豊潤な土の香りは……!! ワシの全身の毛穴が、このフカフカの土に顔を埋めたいと叫んでおる……!」

ゴウマは自らが作り出した腐葉土を両手で掬い上げ、恍惚とした表情を浮かべた。

「どうだゴウマ! 属性のデパートだったお前が、すべての能力を一点に絞ったことで生まれた、世界最高峰の土だ! トラクター(ドスンダ)が耕し、お前がこの腐葉土でバフをかける。これでエターナルの大地は無敵になる!!」

カイトが特大の赤ペンで、魔王の分厚い胸板に【ハナマル】を叩き込んだ。

「ワシは……ワシは世界を滅ぼす魔王などではなかった……! 大地を豊かにする【究極の 腐葉土職人(コンポスター) 】だったんじゃぁぁ!!」

涙を流し、腐葉土の山にダイブする魔王。

こうして、世界の半分を支配するはずだったラスボスは、属性過多の黒歴史を乗り越え、カイト農場エターナル支部の「土壌発酵のスペシャリスト」として永遠の生きがいを見つけたのであった。

「ふぇぇ……これで魔王軍、全員カイトさんの農場に就職しちゃいましたねぇ。もうエターナルのメインストーリー、完全に消滅しましたよぅ?」

リリスが呆れたように言うと、カイトはニヤリと笑った。

「バカ言え。これからが本当の『エターナル(大豊作)』の始まりだぜ!」