作品タイトル不明
EP 4
【添削】泥臭いスリの少年と、最強の弁当屋(死神)
創造世界『エターナル』、始まりの村テンプレッタの裏路地。
勇者ユートが狂ったように畑を耕し、聖女リリナが電卓を叩きながら檄を飛ばす広場の喧騒から離れた、薄暗く湿ったスラム街。
そこに、一人の少年が息を潜めていた。
シオン(15歳)。母親を病で亡くし、血の繋がらない弟や妹たちを食わせるために「スリ」として生きる、この中身スッカスカのテンプレ世界において唯一「重すぎるドシリアス」を背負った少年である。
(……今日の獲物はアイツだ。変な麦わら帽子を被った、隙だらけの男……!)
シオンは音もなく背後から忍び寄り、カイトの腰にある財布へとしなやかな指を伸ばした。
だが、その指先が財布に触れる直前。
「甘いな。重心が左に寄ってるから、気配がダダ漏れだぞ」
「なっ!?」
振り返りもせず、カイトがシオンの手首をガシッと掴んだ。
「くそっ、離せ! 捕まるわけにはいかないんだ! 俺が捕まったら、あいつら(弟妹)が飢え死にしちまう!!」
シオンはナイフを取り出し、必死の形相でカイトを睨みつける。その目には、テンプレ勇者には決して出せない「生きるための泥臭い殺意」が宿っていた。
しかし、カイトはナイフを取り上げることもせず、ただ静かにシオンの瞳を見つめた。
そして――おもむろに懐から『極太の赤ペン』を取り出し、シオンの額にババンッ! と特大の【ハナマル】を書き込んだ。
「え……?」
「素晴らしい!! 最高だお前!!」
カイトが突然、シオンの肩をガシガシと揺らして絶賛し始めた。
「このペラッペラのファンタジー世界で、唯一『自分の欲望(家族を生かす)』のためにイレギュラーな行動を起こしている! その泥臭さ! 切実さ! お前こそが、このクソゲー世界で一番人間らしい『真の主人公』だ!!」
「は、はぁ……?」
いきなり褒めちぎられ、シオンは完全に毒気を抜かれてしまった。
そこに、背後の空間が「バリバリッ!」と音を立てて引き裂かれた。
「ふぇぇ……設定上、シオン君は私が『龍魔呂さん』をちょっとリスペクトして作ったキャラなんですよねぇ……」
お菓子をかじるリリスの声と共に、次元の裂け目から一人の男がヌッと現れた。
ワインレッドのタートルネックに、闇より深い漆黒のエプロン。
鬼神 龍魔呂である。彼の手には、可愛らしいピンク色のタッパーが握られていた。
「……カイト。約束通り、弁当(特製・生姜焼きドカ盛り弁当)を持ってきたぞ。……ん?」
龍魔呂の鋭い眼光が、シオンを捉える。
シオンもまた、龍魔呂から放たれる【赤黒い闘気】に当てられ、本能的にナイフを構え直した。
「……良い目をしているな、小僧。ただのチンピラじゃない、『奪ってでも生きる』という覚悟の目だ」
龍魔呂が真鍮製のオイルライターを取り出し、カチッと鳴らす。
「あんた……何者だ。ただの料理人じゃない……裏の世界の、血の匂いがする」
シオンが震える声で言う。リリスが設定をパクった(リスペクトした)だけあり、二人の波長は奇妙なほどに噛み合っていた。
「たつまろ、ちょうどいい所に来た! こいつはシオン。この世界で一番見込みのある奴だ。お前の『技術』を少し教えてやってくれないか?」
カイトが弁当を受け取りながら言う。
「……俺の暗殺術(技術)は、安くないぞ」
龍魔呂はタバコをふかしながらシオンを見下ろした。
「小僧。お前、大切なものを守るために、どこまで手を汚せる?」
「……なんだってやる。あいつらを飢えさせないためなら、魔王だって殺してやる」
その答えに、龍魔呂はフッと口角を上げた。
「合格だ。……俺の『包丁術』を叩き込んでやる。ついてこい」
数時間後。
テンプレッタ村の広場では、信じられない光景が広がっていた。
「鬼神流 絶花・包丁術――『瞬殺・微塵切り』ッ!!」
シャシャシャシャシャッ!!
シオンが【ペティナイフ】を神速で振るい、畑を荒らしに来た 魔物(ゴブリンやスライム) を一瞬にして「極小のミンチ(オーガニック肥料)」へと変えていく。
その動きは、無駄な殺気を完全に消し去った、龍魔呂直伝の完璧な暗殺術の歩法だった。
「す、すげぇ……! シオンのやつ、たった数時間でたつまろの動きをコピーしやがった!」
カイトが弁当の生姜焼きを食いながら感嘆の声を上げる。
「……筋が良い。それに、あいつの目的は明確だからな。迷いがない分、上達も速い」
龍魔呂が角砂糖を噛み砕きながら頷く。
「ふぇぇ……スリの少年が、完全に裏社会の『暗殺者兼・最強の調理補助』にクラスチェンジしちゃいましたぁ……。勇者より確実に強いですぅ……」
リリスがドン引きしている。
「よし! シオン、今日からお前は『カイト農場・裏の護衛隊長』だ! 畑に近づく害虫や魔物をすべて肥料に変えろ! 弟と妹には、俺の育てた最高級のトマトと、たつまろの極上弁当を毎日腹いっぱい食わせてやる!」
「本当か!? ありがとう、カイトさん、師匠(龍魔呂)! 俺、この命に代えても 畑(シマ) は守り抜くぜ!」
シオンの瞳からは暗い影が消え、代わりに「絶対に 雇用主(カイト) の利益を守る」という、プロの暗殺者としての冷徹な忠誠心が宿っていた。
こうして、エターナル世界で唯一のシリアス枠だった少年は、死神の英才教育により、勇者を凌駕する最強の戦力として覚醒したのである。