軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 3

【添削】聖女の本性、NISAと積立貯金

創造世界『エターナル』、始まりの村テンプレッタ。

昨晩、カイトの指導によって「クワの勇者」として覚醒したユートは、朝日が昇る前から広場の畑で「フンッ! ハッ!」と凄まじい気迫でスクワットを行い、大腿四頭筋を徹底的に追い込んでいた。

その立派な姿を、少し離れた木陰から熱い視線で見つめる少女がいた。

純白のローブに身を包み、胸の前で両手を組んで祈るようなポーズをとる薄幸系の美少女――パーティーのヒロインである聖女リリナだ。

「ああ、ユート様……。今日も世界のために汗を流していらっしゃるのですね。そのお姿、とても素敵です……!」

いかにも「テンプレ的ヒロイン」の模範解答のような独り言を呟くリリナ。

しかし次の瞬間、彼女の背後にヌッと現れた男が、純白のローブに『極太の赤ペン』でバツ印を書き込んだ。

「はい、嘘くさい! 薄っぺらい! 大根役者!!」

「ひゃああっ!?」

悲鳴を上げて振り向いたリリナの前に立っていたのは、麦わら帽子を深く被ったカイトだった。

少し離れたベンチでは、ピンクのジャージを着たリリスが「あ、聖女ちゃんの出番ですねぇ」とポテトチップスをかじりながらカンペをめくっている。

「な、なんなんですかあなた! 突然現れて、神聖なローブに落書きなんて!」

「おい聖女。お前、さっきから『ユート様素敵』とか言ってるが、そもそもアイツのどこが、なぜ好きなんだ?」

カイトの容赦ない問い詰めが始まる。

「えっ? そ、それは……ユート様は勇者で、かっこよくて、優しくて……」

「エピソードがない! 幼馴染なのか? 過去に命を救われたのか? そういう具体的な『好きになった理由』が一切描写されてないんだよ! リリスが予算をケチって設定をすっ飛ばしたせいだな!」

「ふぇぇ……痛いところを突かれましたぁ……」とリリスが目を逸らす。

カイトはリリナに顔を近づけ、さらに圧をかけた。

「正直になってみろ。設定がスカスカなお前が、何の理由もなく男に尽くすわけがない。お前はただ……『勇者が将来稼ぐであろう莫大な魔王討伐の賞金(退職金)』で、安全な余生を過ごしたいだけだろ!!」

「なっ……!?」

図星を突かれたリリナの顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。

「違うか!? 魔王と戦うなんて危険な真似はしたくない! でも勇者の妻という『絶対的なステータス』を手に入れれば、国から年金が降りる! 老後のために今からNISAとか積立貯金をしてるタイプだろお前は! さっさと本性を出せぇっ!」

カイトの【赤ペン】から放たれる『真実を暴くメタの波動』に当てられ、リリナの純白の仮面が、ついにピキピキと音を立てて砕け散った。

「……あーもう! うるさいわねっ!!」

リリナは突如として持っていた神聖な杖をへし折り、地面に叩きつけた。

その顔には、先ほどまでの可憐な面影など微塵もなく、修羅場をくぐり抜けてきた凄腕のトレーダーのような「どス黒い野心」が浮かび上がっていた。

「そうよ! 悪い!? こんな中身スッカスカの低予算世界で生きていくには、金と安定がすべてなのよ! 魔王討伐なんて命の危険しかないわ! だから私は、一番生存率が高くて、討伐後の『国家公務員並みの年金』と『手厚い福利厚生』が保証されてるユートに唾をつけておいただけよ!!」

ヒロインの口から、ファンタジー世界にあるまじき生々しい金融用語が次々と飛び出す。

「私はね、リスクを取りたくないの! 堅実にインデックスファンドに投資して、老後は働かずに南の島で優雅に暮らすのよ! そのためのATMがユートなの! 文句ある!?」

息を切らして吠えるリリナ。

「あーあ、言っちゃった……勇者に嫌われてパーティー追放ね」と、彼女が自嘲気味に笑った、その時。

「……素晴らしいッ!!!」

カイトが特大の赤ペンを振り回し、リリナの顔面に勢いよく「花丸」を描き込んだ。

「えっ……?」

「その泥臭い欲望! 安定した老後を求める冷徹な計算高さ! それこそが人間の本質だ! いいか、お前の求めている『圧倒的な安定と不労所得』……それは魔王討伐なんかじゃ手に入らない。【農業】にこそあるんだよ!!」

「の、農業……?」

「あそこでスクワットしている勇者を見ろ! 俺の指導によって、アイツは今後、市場価値1個10万ゴールドの『星屑キャベツ』を1日で1万個量産するマシーンになる! 魔王の賞金なんか目じゃない、国家予算レベルの継続的利益だ! お前の計算高さがあれば、その利益を完璧に運用できるはずだ!」

カイトの言葉に、リリナの脳内で凄まじい速度の 計算(そろばん) が弾かれた。

(1個10万……それが1日1万個……10億ゴールド!? それが毎日継続して……ローリスク、ハイリターンどころの騒ぎじゃないわ……!!)

リリナの瞳の奥に、ゴールドのマーク($)がギラギラと輝き始めた。

「よし! リリナ、今日からお前は『カイト農場エターナル支部』の悪徳経理兼、最高財務責任者(CFO)だ! ユートの稼ぎを徹底的に管理して、世界一の資産家になれ!」

「はいっ! カイト社長!!」

完全にビジネスの顔になったリリナは、猛然とユートの元へ走り出した。

「ちょっとユート! スクワットのペースが落ちてるわよ! 早く畑を耕しなさい、Time is Moneyよ! 鍬の振り幅が1ミリずれたら減給だからね!!」

「ひぃぃぃっ! り、リリナの性格が急にブラック企業の社長みたいに……! はいぃぃぃ!!(ザクッ!ザクッ!)」

こうして、エターナル世界のテンプレヒロインは、カイトの赤ペンによって「清純派」から「冷徹なド黒字経理担当」へとジョブチェンジを果たし、パーティーの力関係は完全に資本主義へと塗り替えられたのであった。