軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 2

【添削】欲望なき勇者、クワを握る

創造世界『エターナル』、始まりの村「テンプレッタ」。

そこは、どこかで見たようなレンガ造りの家が並び、どこかで見たような村人が「魔王軍が怖くて外に出られないドス」とバグった語尾で怯える、極めてお約束な場所だった。

村の広場では、全身を安っぽいグレーの金属で固めた男が、鉄の剣を天に掲げて叫んでいた。

「俺の名はユート! 天に選ばれし勇者だ! 待っていろ魔王ゴウマ、この俺の『鉄の剣』で、世界に平和を取り戻してやるぜ!」

「はい、セリフが10年前のガラケー小説並みにベタ! 読者が3文字目でブラウザバックするやつ!」

「ぶふぇっ!?」

キザにポーズを決めていたユートの脳天に、凄まじい速度で『極太の赤ペン』が振り下ろされた。

脳を揺らされた勇者がよろめくと、目の前に麦わら帽子を被り、背中に禍々しいオーラを放つクワを背負った男――カイトが立っていた。

「だ、誰だお前は!? どこから現れた!」

「通りすがりの農民兼、今日からお前らの世界の『赤ペン先生』になったカイトだ。おい、そこの鉄クズ(勇者)」

カイトはユートの胸ぐらを掴み、至近距離からドス黒い農業のプレッシャーを浴びせる。

「君にはなぁ……『欲望』が致命的に足りないんだよ!!」

「よ、欲望……!? 俺は世界を救うという大いなる正義の志を――」

「それがスカスカだって言ってんだよ! 『世界を救う』なんてのはなぁ、承認欲求の塊か、他にやりたいことがない奴の逃げ文句だ! お前、魔王を倒した後、具体的に何がしたいんだ!? キャバクラで豪遊したいのか? 高級ステーキを毎日食いたいのか? それとも老後に向けて不労所得が欲しいのか!?」

「な、何もない……。俺はただ、テンプレ通りに旅をして、テンプレ通りに魔王を倒すだけだ! 俺の物語は俺が決めるんだ!」

ユートが必死に反発する。

その横で、ピンクの初心者ジャージを着たリリスが、どこからか取り出した『みたらし団子』をモグモグと食べながら、手元のカンペを棒読みした。

「ふぇぇ……ユート君、諦めてくださいですぅ。カイトさんの農業ハラスメント……じゃなくて、熱血指導からは誰も逃げられないドス。あ、語尾がドスンさんと混ざっちゃいましたぁ」

「うるさいぞリリス! おいユート、お前のその『鉄の鎧』もダメだ! 重いだけで防御力のコスパが最悪だし、何より農作業の時に肩の可動域が狭くなるだろ!!」

「知るか! そもそも何で俺が農作業をする前提なんだ! 俺は勇者――」

「つべこべ言わずにこれを持て!!」

カイトが背中から引き抜いた【超硬度クワ】を、ユートの手に無理やり握らせた。

その瞬間、カイトのS級農業スキル【 強制就農(ワーク・ホリック) 】が発動し、ユートの肉体が自分の意志とは無関係に、強制的に「クワを構えるポーズ」へと固定された。

「な、なんだこれは!? 身体が勝手に……!?」

「目の前を見ろ! リリスがポリゴンを手抜きしたせいで、カチカチに干からびたこのクソみたいな荒れ地を! 勇者なら、魔王の前にこの『土』を救ってみせろ! 行けぇぇぇ!!」

「う、うおおおおおおおおっ!?」

ユートの意志を無視して、肉体が神速でクワを振り下ろした。

ズドォォォォンッ!!!

鉄の剣では傷一つつけられなかったエターナルの強固な岩盤が、クワの一撃によって一瞬で粉砕され、中から信じられないほど生命力に満ちた「黒い土」が爆発するように跳ね上がった。

「な……っ!? 土が、こんなに簡単に……!?」

「手を止めるな! 大地の呼吸を感じろ! 剣で人を斬っても何も生まれねえが、クワで土を叩けば、そこから無限の命が生まれるんだよ! ほら、右足を踏み込んで、広背筋で引くッ!!」

「く、クソ……! 俺は世界を……世界を救う……クワを……振るう……あれ?」

10回、20回とクワを振るううちに、ユートの目に奇妙な光が宿り始めた。

カイトの魔力バフによって、クワを通じて大地のエネルギーがユートの脳内に直接流れ込み、「土を耕すことによる 脳汁(ドーパミン) 」が過剰に分泌され始めたのだ。

「は、速い……! 剣を振るより、クワを振る方が、背筋の連動がスムーズにいく……! ガチガチの鉄の鎧が、クワの遠心力を利用するための『完璧なウエイト』として機能している……だと!?」

「そうだ! その感覚だ! 鉄の鎧は防御のためじゃない、効率的に耕すための大リーグ養成ギプスだ!!」

カイトが赤ペンを掲げて爆笑する。

「うおおおおおお! 楽しいいぃぃぃ! 耕すのめちゃくちゃ気持ちいいいぃぃぃ!!」

ついに勇者ユートの脳が完全に焼け落ちた。

彼は涙を流し、ヨダレを垂らしながら、時速100キロメートルを超える速度でテンプレッタの村の広場を耕し尽くしていく。ものの数分で、中身スカスカだった平原は、ラグジュアリーな高級オーガニック菜園へと生まれ変わった。

「ハァ……ハァ……。俺は一体、何を……」

正気に戻ったユートが、その場に膝をついた。

両腕の筋肉はパンパンに膨れ上がり、人生で経験したことのないレベルの「凄まじい筋肉痛」が彼を襲っていた。だが、その表情は、かつてないほどの充実感に満ちていた。

「どうだユート。これが『自分の手で世界(土)を変える』という、人間の根源的な欲望だ」

カイトが、満足げにユートの頭に「ハナマル」の赤ペンを入れる。

「……ああ。俺、今まで何のために旅をしてたんだろう。魔王の首なんて、このクワの破壊力に比べたら、どうでもいい気がしてきた……」

ユートはそっと鉄の剣を地面に捨て、泥だらけになったクワを愛おしそうに抱きしめた。

「よし、ジョブチェンジ完了だな。今日からお前は『クワの勇者』だ。明日は種まきをするから、一晩中スクワットして筋肉を追い込んでおけ!」

「はい! カイト先生!!」

こうして、エターナル世界の主人公である勇者は、旅を始める前に「農業の悦び」に脳を焼かれ、世界を救う目的を完全に忘れてしまったのである。