作品タイトル不明
EP 10
【収穫祭】そして借金は宇宙へ
「カンパーーーイッ!!!」
ポポロ村の中央広場。
割れんばかりの歓声と、無数のジョッキがぶつかり合う音が夜空に響き渡っていた。
今日は、カイト農場が誇る驚異の作物を祝う『大収穫祭』。前日に天界の邪神をまるごと「有機肥料」として土に還した甲斐もあり、畑の野菜たちは神々しいまでの黄金の輝きを放ち、過去最高の豊作を迎えていた。
広場に設置された特設の巨大厨房では、鬼神 龍魔呂が腕を振るっていた。
【牛刀 210mm】が月光を反射して煌めき、カイトが育てた『星屑キャベツ』や『爆裂大根』、そして 魔王(コッコちゃん) が産み落とした黄金の卵が、神速の包丁捌きで次々と芸術的な料理へと変貌していく。
「マスター! この『邪神の魔力漬けキャベツ』おかわりぃ!」
「こっちにも『魔王卵の巨大オムレツ』頼むぞ!」
すっかり物理ステータスがカンストした村の老人たちが、素手で仕留めたA級魔獣の肉を掲げて笑っている。その横では、すっかり農奴として馴染んだ元王都騎士団たちが涙を流しながら『デス・ハバネロ入り焼きそば』を貪り、緑ジャージ姿の元大天使ザドキエルが「これぞ神の領域……」と皿を舐めていた。
「いやあ、たつまろ。お前の料理のおかげで、今年の収穫物は通常の100倍の値で王都の商人に売れたぜ」
カウンターに腰掛けたカイトが、上機嫌でジョッキのビールを煽る。
その傍らには、ここ数日間の怒濤の売り上げがギッシリと詰まった、黄金色の麻袋が積まれていた。
「これで、リリスとルチアナの野郎が作った数百万ゴールドの借金は……完璧に全額完済だ。長かった借金生活も、ようやく終わるな」
カイトがしみじみと呟くと、隣でローストチキンを両手に持っていたリリスが、口の周りを油だらけにしながら満面の笑みを浮かべた。
「ふぇぇ……! 終わりましたかぁ! 私、カイトさんの奴隷農家(?)から解放されるんですね! 自由って素晴らしいですぅ!」
「誰が奴隷農家だ。……まあ、お前がこれ以上アホな買い物をしなけりゃ、明日からは普通の黒字農家(大富豪)として暮らせるさ」
カイトが安堵の溜息をつき、麦わら帽子を深く被り直したその時。厨房の奥で角砂糖をガリリと噛み砕いた龍魔呂が、ふと手を止めて真鍮製のライターを鳴らした。
カチッ。
「……おい、カイト。フラグを立てるな。嫌な予感がする」
龍魔呂の鋭い眼光が、リリスの手に握られた『エンジェルすまーとふぉん』へと向けられる。
「ふぇ? 何ですかぁ? 私はただ、明日からの黒字化を記念して、カイトさんの大好きな農業がもっと捗るように、天界ネットスーパーで便利そうなアイテムを調べてあげていただけですよぅ?」
リリスが自慢げにスマホの画面をカイトに見せる。そこには『おすすめの農業用日照プラン』という検索履歴があった。
「お前……まさか、何か押したんじゃねえだろうな?」
カイトの顔から一瞬で血の気が引く。
「大丈夫ですぅ! 畑には太陽の光が必要不可欠ですからね! 季節に関係なくいつでもカンカン照りにできる、一番スケールの大きいやつをポチっと――」
その瞬間、リリスのスマホから、天界ネットスーパーの無慈悲な電子音声が、広場全体に響き渡った。
『ピピッ。決済完了。――【恒星太陽の全所有権(宇宙概念規模)】1000億ゴールドを購入しました。お支払いはリリス様の借金に加算されます』
「「「…………は?」」」
カイト、龍魔呂、そして宴会をしていたザドキエルたちの動きが完全に凍りついた。
一千億ゴールド。
それは天界はおろか、この世界の数万年分の国家予算に匹敵する、天文学的な数字だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴガガガガガッ!!!!!
突如として、ポポロ村の夜空が真っ暗になった。雲のせいではない。上空に、あまりにも巨大すぎる「影」が出現したのだ。
見上げれば、大気圏を突き破り、宇宙空間から垂直に自由落下してくる、直径数十キロメートルにおよぶ【超・超・超巨大鉄製コンテナ】。
その表面には、天界の文字で『配達物:太陽の権利』とデカデカと書かれていた。
「アババババババババ!!! 宇宙からコンテナが降ってきましたぁぁぁ!! ポポロ村どころか世界が滅亡しますぅぅぅ!!!?」
リリスが泡を吹いてひっくり返る。
「て、め、ぇ、は、リ、リ、ス、ゥゥゥゥウウウアアアアッッッ!!!!」
カイトの怒号が響き渡る。
しかし、激怒している暇すら生ぬるい。あと数秒で、一千億ゴールドの 絶望(コンテナ) が村を圧殺する。
「チッ……! ガジェット、ラビークを起動しろ! 村人全員、対ショック防御!!」
龍魔呂がワインレッドのレザージャケットを翻し、包丁を構えて【赤黒い地獄の闘気】を宇宙へと解き放つ。
「ヒャハハハハ! 最高の破壊対象です、DEATH4様ァァ!」
ガジェットが狂喜乱舞しながらロボットの起動スイッチを押した。
「宇宙規模の借金……! これぞ我が主、ルチアナ先輩を超える真のクズ 神(リリス) の誕生ですわね!」
隅っこで限定ガチャに爆死していたルチアナが、謎の感動で涙を流している。
こうして、連帯保証人であるカイトの「借金完済」の夢は、文字通り宇宙の彼方へと消し飛んだ。
ポポロ村の最強農民と最強料理人は、世界(と1000億の借金)を守るため、降ってくる超巨大コンテナを迎え撃つべく、再び不敵な笑みを交わして武器(クワと包丁)を握り締めるのであった。