軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 7

【防衛】キャベツ畑の死神(DEATH4)

深夜のポポロ村、カイト農場。

月明かりに照らされた広大な畑では、カイトが品種改良の末に生み出した新種の野菜――【 星屑(スターダスト) キャベツ】が、自ら淡い光を放ちながらすくすくと育っていた。市場に出せば一つ10万ゴールドは下らない、超S級の高級食材である。

その畑の 畝(うね) の影を、ゴキブリのような這いつくばり方で進む怪しい人影があった。

「ぐふふ……カイトのやつ、こんな無防備に高級キャベツを放置しているなんて、防犯意識が低すぎるわぁ……。これを市場に流せば、月人くんの『夏の水着ガチャ』が天井まで回せる……!」

ヨダレを垂らしながら麻袋を握りしめているのは、天界の上級女神(現在はただの借金まみれのオタク)、ルチアナだった。

彼女が、ひときわ大きく光るキャベツに手を伸ばした、その時。

カチッ。

静寂の畑に、冷たく重い金属音が響いた。

「……何の真似だ、コソ泥」

ルチアナがビクッと肩を震わせて顔を上げると、そこにはキャベツ畑のド真ん中にパイプ椅子を置き、足を組んで座る男の姿があった。

ワインレッドのタートルネックに、闇より深い漆黒のエプロン。

鬼神 龍魔呂である。

「な、なんで小料理屋のマスターがこんな夜更けにキャベツ畑にいるのよ!?」

「……カイトに頼まれた。新種のキャベツを狙う『害虫』がいるから、番犬をしてくれとな」

龍魔呂は真鍮製のライターをポケットにしまうと、口にくわえたマルボロの煙を細く吐き出した。

そして、無造作に立ち上がると、彼の全身から**【赤黒い闘気】**が爆発的に噴出した。

「チッ……俺の貴重な睡眠時間を削らせやがって。五体バラバラの『肥料』にして、この畑に撒いてやる」

龍魔呂の手に、妖しい光を放つ【牛刀 210mm】が握られる。

かつて裏社会を震え上がらせた死神『DEATH4』の、本気の殺意だった。

「ひぃぃぃっ! 出たわね、過剰演出の4Dホログラム! でも今日の私は、ガチャのために命を懸けてるのよ! 天界の神聖魔法、舐めないで!」

ルチアナはスマホを掲げ、残された僅かな 神力(ポイント) を全て解放した。

「 神聖結界(ホーリー・イージス) 展開! さらに、天界流・光速ステップ!」

なんとルチアナ、キャベツ(金)への執念だけで、神の光を纏った絶対防御の結界を張り、龍魔呂の視界から一瞬で消えた。

「……フッ。小賢しい羽虫め」

龍魔呂は一切焦ることなく、目を閉じた。

風の音、土の匂い、そしてルチアナの卑しい欲望の気配。すべてを感知する。

「もらったぁぁ!! 星屑キャベツ、ゲットォォ!」

龍魔呂の背後から現れたルチアナが、歓喜の表情でキャベツをもぎ取ろうとした。

その瞬間。

「鬼神流 絶花・包丁術――『千切り(サウザンド・スライス)』」

龍魔呂が振り返ることもなく、背後へ向けて牛刀を一閃させた。

いや、一閃ではない。神速の連続斬撃。その速度は音を置き去りにし、真空の刃となってルチアナの神聖結界を紙切れのように切り裂いた。

「ふぎゃぁぁぁっ!?」

ルチアナの悲鳴と共に、強烈な剣圧(包丁圧)が畑を吹き抜ける。

数秒の静寂。

ルチアナは恐る恐る目を開けた。彼女の身体は無傷だった。

「……へ? 結界は破られたのに、私、生きてる……?」

しかし、彼女の目の前で宙に浮いていた「星屑キャベツ」が、次の瞬間、サラサラサラ……と、まるで淡雪のように崩れ落ちた。

龍魔呂の放った神速の斬撃は、ルチアナを傷つけることなく、彼女が狙っていたキャベツだけを「0.1ミリ単位の完璧な千切り」へと加工していたのだ。

ふわりと、極上の千切りキャベツがルチアナの口元に舞い落ちる。

「あ……」

口に入った瞬間、星屑キャベツの圧倒的な甘みと、龍魔呂の包丁術によって極限まで引き出されたみずみずしい食感が、ルチアナの脳髄を直撃した。

「あまあぁぁぁい! なにこれ、シャキシャキなのに口の中で溶けるぅぅ! ドレッシングなんていらない、この千切りだけで一生食べていけるわぁぁ!」

ルチアナは地面に崩れ落ち、一心不乱に千切りキャベツを頬張り始めた。泥だらけになりながらも、その手は止まらない。

「……俺のキャベツに手を出そうなんて、100年早い」

龍魔呂がタバコをふかしながら見下ろしていると、母屋からパジャマ姿のカイトがあくびをしながら出てきた。

「ふわぁ……。おうたつまろ、害虫は駆除できたか?」

「ああ。……だが、少し切りすぎた。残りは回収して、明日の店の『お通し』にする」

「へへっ、違いねぇ」

地面では、上級女神が「もっと……千切りもっとくださいぃ……」と完全に餌付けされたハムスターのように鳴いていた。

こうして、ポポロ村の夜の平和(と高級キャベツ)は、死神の圧倒的な包丁捌きによって無事に守り抜かれたのである。