軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 3

【誤発注】魔王の卵でオムライスを作ろう

「あー……よく働いた。ポチ(古代地獄竜)のおかげで、100ヘクタールの 耕耘(こううん) が午前中で終わっちまったぜ」

カイト農場の縁側。

麦わら帽子を被ったカイトが、冷たい井戸水で顔を洗いながら満足げに息をついた。畑の奥では、古代地獄竜のポチが「もうお腹いっぱいです……」とばかりに白目を剥いて雑草を咀嚼している。

「カイトさぁん! お昼ごはんにしましょうよぅ! 私、今日はふわとろのオムライスが食べたいですぅ!」

縁側でゴロゴロしていた桃色ジャージの女神リリスが、エンジェルすまーとふぉんを弄りながら要求してきた。

「オムライスか、悪くねえな。だがウチには今、卵の在庫がない。リリス、そのスマホの天界ネットスーパーで、適当に鶏の卵をポチっといてくれ」

「任せてくださいぃ! ふふん、せっかくなら一番美味しい卵がいいですよねぇ。『価格の高い順』でソートして……あ、これなんか黒くてツヤツヤしてて高級感ありますぅ! ポチッとな!」

『ピピッ。決済完了。――【魔王の卵(特級呪物)】1,000,000ゴールドを購入しました。お支払いはリリス様の借金に加算されます』

「…………は?」

カイトの動きがピタリと止まる。

「ふぇ? 今、なんか100万って聞こえましたけど……」

その直後だった。

カイト農場の上空が突如としてドス黒い暗雲に覆われ、バリバリと赤い稲妻が落ちた。

ドゴォォォォォォンッ!!!

庭先に突き刺さったのは、禍々しい瘴気を放つ、大岩ほどもある巨大な漆黒の卵。

表面には呪いの紋様が蠢き、周囲の草木が一瞬にして枯れ果てる。

「アバババババ!! なんかヤバいのが届きましたぁぁ!!」

「てめぇリリス! 100万Gってなんだ! またルチアナの野郎みたいに借金を――」

カイトが怒鳴りかけた瞬間、漆黒の卵にピキピキと亀裂が走った。

溢れ出すのは、世界を滅ぼすほどの圧倒的な闇の魔力。

『ククク……ハハハハハ!! 我が封印を解いたのは何奴だ!? 我は三千世界を統べる深淵の主、大魔王ゾルゲ――』

卵の殻を吹き飛ばし、禍々しい角とコウモリの羽を生やした「魔王の 幼体(ヒヨコサイズ) 」が、高らかに邪悪な産声を上げた。

「……」

カイトは、その魔王の幼体をじっと見下ろした。

そして、手にした鋼のクワを軽く肩で叩きながら呟いた。

「なんだ、ただの 烏骨鶏(うこっけい) の変異種か。ちょっと色が黒すぎるが……まあ、いい卵は産みそうだな」

『は? 烏骨鶏? 貴様、我が圧倒的な闇のオーラが見えぬのか!? 我は魔王――』

「魔王だかマカオだか知らねえが、ウチの農場でタダ飯は食わせねえぞ」

カイトの目が、農民特有の「効率重視」の光を宿してギラリと輝いた。

「S級農業スキル:【強制・品種改良(畜産無双)】!!」

カイトの手から放たれた強烈な『農業の波動』が、魔王の幼体を包み込んだ。

『ギャアアアアアア!? な、なんだこのふざけた力は!? 我が魔力が、我が邪悪なる意志が……『産卵効率』と『肉質向上』のステータスに強制変換されていくぅぅぅ!?』

光が収まった後。

そこには、世界を滅ぼす大魔王の姿はなかった。

代わりにいたのは、漆黒のツヤツヤした羽毛を持ち、頭に小さな角(トサカの代わり)を生やした、なんとも愛嬌のある一羽の『ニワトリ』だった。

「コ、コッコォォ……(屈辱……我、産卵マシーンニ堕チタ……)」

「よし、お前の名前は今日から『コッコちゃん』だ。さあ、オムライスにするから早速産んでみろ。極上のやつをな」

カイトがクワを構えて睨みつけると、 魔王(コッコちゃん) はヒィッと短い悲鳴を上げ、ポンッ!と音を立てて卵を産み落とした。

それは、黄金のオーラを放つ、通常の卵の3倍はあろうかという巨大な卵だった。

「おお……! 殻からすでにとんでもない旨味と魔力を感じる。最高の有精卵(?)だ」

カイトは黄金の卵を掲げ、満足げに頷いた。

「ふぇぇぇ……。世界の危機が、一瞬で養鶏場の鶏にされちゃいましたぁ……。カイトさん、魔王に対する扱いが雑すぎませんぅ?」

「うるせえ。それよりリリス、お前の借金がまた100万G増えたからな。今日のオムライスは、お前だけ卵の 殻(カルシウム) だ」

「そんなぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

農場に響き渡る女神の絶叫。

こうして、カイト農場には『 古代地獄竜(トラクター) 』に続き、『大魔王(採卵用ニワトリ)』という、世界最強の布陣(農業用)がまた一つ加わったのである。