作品タイトル不明
EP 2
【開拓】S級ダンジョンは、極上の「腐葉土」である
「土が……足りねぇ」
ポポロ村のはずれ、カイト農場。
カイトは、広大な畑の土を一つかみして舌打ちをした。
「ふぇ? カイトさん、土ならそこら中にあるじゃないですかぁ」
リリスが呑気に麦茶を飲んでいる。
「ルチアナの野郎が借金を爆増させやがったせいで、普通の作物じゃ利息すら払えなくなったんだよ。市場で億単位の値がつく『神級』の野菜を育てるには、今の土じゃ養分が足りねぇ。……極上の『腐葉土』と『骨粉』が必要だ」
カイトは立ち上がると、愛用のクワ(鋼鉄製)を肩に担いだ。
「行くぞリリス。肥料の買い出しだ」
「わーい! お出かけですね! ついでにクレープ食べたいですぅ!」
リリスがウキウキでついて行った先は――。
『警告:これより先、S級危険地帯【絶望の深淵】。生還率0%』
禍々しい瘴気を放つ、漆黒の洞窟の前だった。
「アババババババ!! カイトさん!? ここ、ポポロ村の裏山にある絶対に入っちゃダメなダンジョンですよ!? 入り口に冒険者の白骨死体がゴロゴロしてますぅぅ!」
「おお、天然のカルシウム(骨粉)が豊富そうじゃねえか。最高の土壌だ」
「そういう問題じゃないですぅ!!」
リリスの悲鳴を無視して、カイトはズカズカとダンジョンに足を踏み入れた。
ギャルルルルッ!!
闇の中から飛び出してきたのは、A級魔獣【キラー・トレント(人喰い樹)】の群れだった。鋭い枝の槍が、容赦なく二人に襲いかかる。
「ひぃぃ! 食べられますぅ! 神の肉は美味しくないですよぉ!」
しかし、カイトは全く動じない。むしろ、その目が「農民特有の歓喜」にギラリと光った。
「素晴らしい……! 魔力と養分をたっぷり吸い込んだ、極上の『木くず(腐葉土の素)』だ!」
カイトがクワを振り被る。
「S級農業スキル:【天地返し(フルスイング)】!!」
ドゴォォォォォォンッ!!!
凄まじい衝撃波と共に、鋼のクワがA級魔獣たちを粉砕。キラー・トレントたちは悲鳴を上げる間もなく、綺麗に粉砕された園芸用の『高級ウッドチップ』へと姿を変えた。
「よぉし、袋に詰めろリリス! 次はリン酸と窒素(魔物の死骸)の調達だ!」
「ふぇぇ……魔物がただの肥料(ホームセンターの袋詰め)にされていくぅぅ……」
その後もカイトの農業無双は止まらない。
B級魔獣ヘルハウンドは「極上の骨粉」になり、猛毒のスライムは「無農薬の防虫剤」として樽に詰められた。
そして、ダンジョンの最下層。
マグマが煮えたぎる空間で、その『主』は目を覚ました。
『ゴルルルル……! 我が眠りを妨げる下等な人間どもよ……! 我はエンシェント・ヘル・ドラゴン! 貴様らを消し炭にしてくれるわ!!』
全長50メートル。国を一つ滅ぼす力を持つ災厄の化身、古代地獄竜である。
その圧倒的な魔力と咆哮に、リリスは泡を吹いて気絶しかけた。
「終わりましたぁ……。カイトさん、今度こそ全滅ですぅ……」
だが、カイトはドラゴンを見上げて、プルプルと震えていた。
恐怖ではない。圧倒的な感動によって。
「す、すげぇ……!!」
「ふぇ?」
カイトの目には、ドラゴンの姿がこう変換されていた。
強靭な四肢と巨大な爪: どんな硬い岩盤も粉砕する【最強のプラウ(鋤)】
圧倒的な巨体と馬力: 100ヘクタールを一瞬で耕す【超大型トラクター】
口から吐く地獄の業火: 雑草や害虫を一網打尽にする【完璧な焼き畑機能】
「見つけたぜ……俺がずっと求めていた、究極の『農機具(耕運機)』を!!」
『……ハァ? 農機具だと? 舐めるな人間!! くらえ、地獄の業火――』
ドラゴンが息を吸い込んだ瞬間、カイトは「縮地」並みの神速でドラゴンの頭上に跳躍した。
「おとなしく俺の畑を耕せ!! S級農業スキル:【品種改良(物理テイム)】!!」
カイトの渾身のクワの一撃(物理)が、ドラゴンの脳天にクリーンヒットした。
ガゴォォォォォォォンッ!!!
『グ、ゲブッ……!?(白目)』
――数時間後。
ポポロ村の広大なカイト農場。
そこには、巨大な「麦わら帽子」を被らされ、首に牽引用のロープを巻かれて、涙目で畑を耕すエンシェント・ヘル・ドラゴンの姿があった。
「キュゥゥ……(なんで我、炎のブレスで雑草焼いてるの……)」
「よしよし、いい馬力だ『ポチ』! その調子であと50ヘクタール頼むぞ!」
トラクター代わりにドラゴンの背中に乗ったカイトが、上機嫌で指示を出す。
「ふぇぇ……S級ダンジョンのボスが、完全に農家のオッサンに飼い慣らされてますぅ……」
リリスが遠い目をしながら、ドラゴンが耕したフカフカの土に種を撒いていた。
こうして、極上の腐葉土と最強の全自動トラクター(竜)を手に入れたカイト農場は、さらなる生産性の爆発的向上を果たすのであった。