軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十六章 農業×殺し屋グルメ大爆発!借金地獄コメディ編

【勘違い】推し 活女神(ルチアナ) 、死神(DEATH4)のBARへ行く

ポポロ村の夜。

小料理屋『鬼龍』は、静謐な『BARの刻』へと姿を変えていた。

店内に流れるのは、儚くも美しいピアノの旋律。

(ショパン:『夜想曲 第20番 嬰ハ短調 遺作』)

カウンターの奥では、鬼神 龍魔呂が真鍮製のオイルライターを「カチッ」と鳴らし、マルボロ赤をくゆらせていた。傍らには、チェイサー代わりの角砂糖が山盛りにされている。

そこへ、店外から「うわぁぁぁん!」という、神聖さのカケラもない絶叫が近づいてきた。

「もう嫌ぁぁぁ! 確変に入ったのに1回転も回さずにパンクさせるなんて、店長の陰謀よ! 月人くんの限定ボイス集、あと5万ゴールド足りないのにぃぃ!」

バシャーン! と景気よく引き戸を開けて入ってきたのは、女神ルチアナ。

背後には、彼女の借金の保証人にされているカイトと、お供え物の団子を頬張るリリスが、死んだ魚のような目で続いていた。

「たつまろ、悪いな。こいつが『酒を飲まなきゃやってられない』って暴れるもんで……」

カイトが肩をすくめる。

龍魔呂の眼光が、鋭くルチアナを射抜いた。

(……こいつか。地獄のゲートを管理する、天界の腐れ女神は)

龍魔呂は静かにタバコを置くと、右手の**『鬼王の指輪』**に意識を集中させた。

彼の目的はただ一つ。ユウを救うため、ルチアナに「地獄のゲート」を開けさせること。

「……おい、女神。一つ、聞きたいことがある」

龍魔呂の声が、地獄の底から響くような重低音に変わる。

次の瞬間、彼の全身から、世界の色を塗り替えるほどの【赤黒い闘気】が溢れ出した!

店内のグラスがガタガタと震え、バッハの旋律すら恐怖で歪む。

「……ッ!? たつまろ、いきなりDEATH4のオーラ出すんじゃねえ! 客が死ぬぞ!」

カイトが叫ぶが、龍魔呂は止まらない。

溢れ出す闘気は、ルチアナの首元に死の宣告を突きつけるかのように、重圧となって彼女を包み込んだ。

「……俺に、地獄の 門(ゲート) を開けろ。さもなくば――」

龍魔呂が冷酷な「処刑の合図」としてライターを鳴らそうとした、その時。

「………………はっ!!!」

ルチアナが、カッと目を見開いて立ち上がった。

恐怖で腰を抜かすかと思いきや、彼女の瞳はキラキラと、いや、ギラギラとしたオタク特有の輝きを放っていた。

「な、ななな……何これぇぇぇ!? この圧倒的な『闇』のオーラ! 指先から漂うバッドエンドの予感! そしてこの、赤と黒の退廃的なビジュアル・エフェクト!!」

「……あ?」

龍魔呂の動きが止まる。

「これ、月人くんの最新舞台『漆黒の反逆者・ダークリベンジャー』の、S席限定・4D臨場感演出じゃない!? 凄いわ! 異世界の小料理屋で、ここまで完璧なファンサービスを受けられるなんて!!」

ルチアナは、死を招くはずの赤黒い闘気に自ら飛び込むと、龍魔呂の顔の前にスマホ(エンジェルすまーとふぉん・ゴールド版)を突きつけた。

「ねえマスター! 今のオーラ、もう一回出して! 月人くんのアクリルスタンドと一緒に自撮りしたいの! はい、ポーズ! オブ・デス!!」

「……誰がポーズだ。俺はゲートを――」

「もう! シャイなんだから! ゲート? ああ、イベント会場の入場ゲートのことね! 大丈夫、私が『プラチナ・デッドマスター』の家族カードで全解放してあげるから! さあ、もっと赤黒いの出して!!」

「…………」

龍魔呂の額に青筋が浮かぶ。

かつて軍隊一つを壊滅させた「DEATH4」の殺気が、一人の重度なオタク女神の「推し活パワー」の前に、完全に無力化されていた。

「たつまろ、諦めろ……。こいつ、脳みそがガチャの確率で構成されてるんだ。言葉は通じねえ……」

カイトが龍魔呂の肩を叩く。

「ふぇぇぇ……。龍魔呂さんのオーラ、なんだかイチゴチョコの匂いがしますぅ……」

リリスは横で、闘気の熱を利用して団子を炙っていた。

「……チッ。角砂糖が足りないな」

龍魔呂は闘気を収めると、山盛りの角砂糖を一気に口に放り込んだ。

(ゲートを開けさせるには、まずこいつの『推し』とやらを物理的に叩き潰すしか……いや、ダメだ。それではゲートが永久に閉ざされる……)

「マスター! お詫びにこれ奢ってあげるわ! 私、今日ポイント倍増日なの!」

ルチアナがスマホを連打する。

『ピピッ。決済完了。ルチアナ様への【最推し・朝倉月人様からのモーニングコール(有料)】を購入しました。支払いはリリス様の借金に加算されます』

「アババババババババ!! 私の借金で先輩の推し活しないでくださいぃぃ!!」

ドォォォォォォンッ!!!

案の定、店の外に「中型スーツケース」が降ってきた。

「……カイト。……悪いが、この女を今すぐ叩き出せ。さもなくば、この村を更地にする」

龍魔呂は、包丁を震える手で握りしめながら、マルボロの煙と共に吐き捨てた。

こうして、龍魔呂の「地獄篇」への第一歩は、ルチアナというあまりにも分厚い「クズの壁」に阻まれ、盛大に空振りに終わったのである。