軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 10

【再会】親友(戦友)の小料理屋と、甘い弾丸

「ふぇぇぇ……カイトさぁん、もう一歩も歩けませんぅ。お腹が空きすぎて、ジャージの繊維をかじりそうですぅ……」

「リリス、汚ねぇからやめろ。……ったく、ルチアナの野郎、あの50万ゴールドがあればどれだけ豪華な飯が食えたか……」

ポポロ村の静かな裏通り。

カイトは溜息をつきながら、ずっしりと重い『極上・太陽トマト』の木箱を抱え、一軒の店の前に立った。

『小料理 鬼龍(きりゅう) 』。

品のある黒塗りの板塀に、純白の暖簾。ポポロ村において、ここだけが異質な「静謐」を纏っている。

「……ここですか? なんだか、場違いなほど高級そうな店ですぅ」

「気にするな。ここのマスターとは、腐れ縁の 親友(ツレ) なんだ」

カイトが暖簾をくぐり、引き戸を引く。

店内に流れているのは、J.S.バッハの『無伴奏チェロ組曲 第1番』。

そして、カウンターを埋め尽くしているのは、マスターに熱視線を送る村の女たちだ。

厨房の奥。190cmの巨躯に赤と黒のレザージャケットを羽織った男が、包丁を研いでいた。

男――鬼神 龍魔呂は、カイトの足音を聞いた瞬間に、顔を上げずに口を開いた。

「……遅かったな、カイト。このバッハが終わるまでに来なきゃ、今日の仕込みを全部捨てるところだったぞ」

「相変わらず不愛想だな、たつまろ。ほら、約束のブツだ。世界一のトマトを持ってきてやったぞ」

カイトがカウンターにトマトの箱を置くと、龍魔呂はガリッと角砂糖を噛み砕き、ようやく顔を上げた。

鋭い眼光。だが、親友であるカイトに向ける視線には、確かな信頼が宿っている。

「……いいツヤだ。お前の土は、相変わらず血の匂いがしないな」

「当たり前だ、俺は農民だからな」

龍魔呂は真鍮製のオイルライターを取り出し、マルボロ赤に火をつけた。

カチッ。

その鋭い金属音だけで、店内の女性客たちが「はぅっ……」と吐息を漏らす。

「……で、そこの『桃色の不審物』は何だ? お前の新しい肥料か?」

「ふぇぇ!? 女神ですぅ! リリスっていう名前の、ピチピチの女神様ですぅ!」

カウンターに身を乗り出すリリスを、龍魔呂は品定めするように一瞥した。

「……リリス、か。いいか、そいつは俺の親友だ。見た目は怖いが、料理の腕だけは天界の厨房長より上だぞ」

「……カイトに免じて、少し待ってろ」

龍魔呂はタバコを灰皿に置くと、レザーナイフロールから【牛刀 210mm】を抜き放った。

一切の無駄がない、神速の包丁捌き。

カイトが育てたトマトは、龍魔呂の手によって一瞬で「宝石のようなコンパッセ」へと姿を変え、最高級の魚介と共に一皿の料理へと昇華された。

「食え。カイトのトマトの糖度に合わせて、ソースを調整してある」

「いただきますぅぅ!! ……んんん~っ!! 天国ですぅ! ここが新しい天界ですかぁ!?」

ガツガツと食らいつくリリスを横目に、カイトと龍魔呂は静かに視線を交わした。

「たつまろ……。お前、まだ『あの事』を追ってるのか?」

龍魔呂は角砂糖をもう一つ口に放り込み、ガリガリと音を立てて砕いた。

その表情が、一瞬にして冷酷な殺人鬼【DEATH4】の片鱗を見せる。

「……ユウが死ななかった世界にする。そのために俺はここへ来た。……カイト、お前の農場にいるあの『ルチアナ』という女。あれが地獄の 門(ゲート) の鍵を握っていることは分かっている」

「……やっぱり狙いはあいつか。たつまろ、俺は親友として、お前が血の海を歩くのは見たくないんだがな」

「分かっている。だが、あいつにゲートを開けさせ、始祖竜クロノに時間を巻き戻させる……。それが俺の『 全(オール) 』だ」

龍魔呂の手元で、真鍮のライターが再び「カチッ」と鳴った。

それは親友への合図であり、同時に、これから始まる「神への反逆」の狼煙でもあった。

「……ふぇ? ルチアナ先輩がどうしたんですかぁ? あの人なら昨日、50万ゴールドのフィギュア買って踊ってましたよぉ?」

空気を読まないリリスの言葉に、龍魔呂がピクリと眉を動かす。

「……50万だと? カイト、お前の連れは、相当に『悪運』が強いか、よほどのバカだな」

「後者だよ、たつまろ。……さあて、飯も食ったし、俺は農場に戻る。……死ぬなよ、親友」

「お前もな。……トマトの代金は、今夜の『BARの刻』に最高の酒で払ってやる」

カイトと龍魔呂。

ポポロ村の光と闇を象徴する二人の男が、それぞれの「大切なもの」を守るために、不敵な笑みを交わした。

その足元では、リリスが皿まで舐めようとしてカイトに首根っこを掴まれていた。