軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 3

【労働】神の誤作動! 進化するマッチョ人参

「いいか、リリス。お前の借金(月次ローン)を払うためには、この農場で死ぬ気で働いて作物を売るしかない。分かったな?」

ポポロ村の朝。

S級農民のカイトは、クワを片手に厳しく言い渡した。

「(ここで健気に頷き、上目遣いで)……はいっ! 私、カイトさんのために一生懸命汗を流しますぅ!(そして可愛く微笑む)」

桃色ジャージに健康サンダル姿の見習い女神・リリスは、手に持ったカンペ(画用紙)を堂々と読み上げながら、嘘くさい笑顔を浮かべた。

ト書き(指示書き)まで声に出して読むので、情緒もへったくれもない。

「……そのカンペ、もう捨てるか燃やすかしてくれないか?」

「ふぇ!? だめですぅ! ルチアナ先輩直伝の『男をオトす完璧な接客マニュアル』なんですから!」

カイトは深い溜息をつき、気を取り直して本日のターゲットを指差した。

「今日収穫するのは『人参マンドラ』だ。引っこ抜くと悲鳴を上げて時速100kmで逃げ出すから、俺が抜いた瞬間に、お前がそのタモ網で捕まえろ。いいな?」

「お任せください! 私、これでも女神ですから、どんくさいことはしませんよぉ!」

リリスはタモ網を構え、ドヤ顔で胸を張る。

カイトは頷き、人参マンドラの葉を掴んで一気に引っこ抜いた。

「ギィィィヤァァァァァァァァァッ!!」

土の中から、短い手足が生えた人参が鼓膜を破るような悲鳴を上げて飛び出し、猛ダッシュで逃走を図る。

「いっけぇぇぇ! 私のタモ網ぃぃ!」

リリスが元気よく網を振り下ろす!

スカッ。

「アバババッ!?」

案の定、どんくさいリリスは空振りし、その勢いで前のめりに転倒。顔面から土に突っ込んだ。

「あーもう! 何やってんだ! 逃げられるだろ!」

「ふぇぇぇん、待ってくださいぃ! そうだ、これを使いますぅ!」

泥だらけになったリリスは、ジャージのポケットから、ゴツいハードケースに入った『エンジェルすまーとふぉん』を取り出した。

「天界のアプリ『ステータス操作』で、あの人参の素早さをダウンさせます! えーっと、パスワードを入れて……ぽちっとな!」

リリスはフリック入力ができないため、人差し指で力強く画面をタップした。

『ピピッ。エラー:操作ミスを検知。対象に【限界突破:マッスル進化(筋力+9999)】を付与しました』

「……は?」

カイトの顔が引きつった。

その瞬間。

遠くまで逃げかけていた人参マンドラがピタッと止まり、ブワァァァァッとまばゆい光に包まれた。

「ギィィィヤァァァ……ムウゥゥゥゥゥンッ!!!」

光が収まった後。

そこには、悲鳴ではなく「野太いマッチョの唸り声」を上げる、異常な姿の化け物が立っていた。

身長2メートル。

オレンジ色のボディは、大胸筋、腹筋、上腕二頭筋が見事にパンプアップしており、葉っぱの部分はドレッドヘアのようになっている。

ポポロ村の狂った土壌と神のバフが融合して生まれた、【S級変異種:マッチョ人参】である。

「サイドチェストォォォ!!」

マッチョ人参は、カイトたちに向かって完璧なボディビルダーのポーズを決め、地面を揺らしながら迫ってきた。

「アババババッ! 人参が筋肉の塊になりましたぁぁ!」

「お前のせいだろ!! どんだけ操作ミスしたら素早さダウンがマッスル進化になるんだよ!」

「ふぇぇぇ! カンペにはこんな状況書いてないですぅ!」

リリスはパニックになり、カンペの画用紙を放り投げた。

「キレテルヨォォ!!」

マッチョ人参が、丸太のような太腕を振り上げ、リリスに向かって殴りかかってくる。

「ひぃぃぃ! 私のプラチナカード(借金)ごと粉砕されちゃいますぅ!」

絶体絶命のピンチ。

その時、リリスの脳裏に「先輩女神の教え」が閃いた。

――『いい? リリス。魔法をミスった時は、物理で殴りなさい。それが一番早いわ』

「……そうだ。私にはこれがある!」

リリスは、手の中にある軍用レベルのハードケースに入ったエンジェルすまーとふぉんを逆手に握り直した。

そして、マッハの速度で踏み込み、スマホの「最も鋭利な 角(カド) 」を、マッチョ人参の脳天に向かってフルスイングした。

「神罰執行! ホーリー・スマッシュ(物理)!!」

ゴキャァァァァァァァンッ!!!

神聖なオーラ(と借金のストレス)を纏った、一切の慈悲もない一撃。

分厚いハードケースの角が、マッチョ人参の急所にクリーンヒットした。

「マッ……ス、ル……」

白目を剥いたマッチョ人参は、ドスゥンッと地響きを立ててその場に倒れ伏し、そのまま元の小さな人参マンドラの姿へとシュルシュルと縮んでいった。

「……ふう。やりました! カイトさん、私やりましたよ! これで借金もチャラですよね! 褒めてください、そして団子をください!」

リリスは、スマホの角についた人参の汁をジャージで拭きながら、満面の笑みでダブルピースをした。

「……」

カイトは、無言で倒れた人参マンドラを拾い上げた。

見事なまでに脳天が陥没し、商品価値(S級)は完全にゼロになっている。

「……リリス」

「ふぇ? は、はい?」

「今日のお前の給料、マイナス5000ポポロゴールドな」

「アバババババババ!! どうしてですかぁぁ!!」

借金返済の道のりは、まだ始まったばかりである。