軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 2

【強制執行】空から降るスーツケースと、恐怖のドナドナ・シークエンス

カイトの広大な【カイト農場】に連行されてきた見習い女神・リリスは、到着するなり地面に大の字になって盛大に腹の虫を鳴らした。

「ぐきゅるるるるる……。カイトさぁん、ご飯まだですかぁ? 私、女神なので燃費が悪くてぇ。とりあえず大盛りご飯とおかず三品、あと食後のたい焼きをお願いしますぅ」

「出会って10分の借金持ちにフルコース出すバカがどこにいる! まずは草むしりから始めろ!」

カイトがクワを片手に一喝するが、リリスは「ふぇぇ」と頬を膨らませた。

「けちんぼ! いいですぅ、カイトさんがご飯くれないなら、私の『エンジェルすまーとふぉん』で日本の出前を頼みますから!」

リリスは自慢げに、軍用レベルのゴツいハードケースに入ったスマホを取り出した。

フリック入力ができない彼女は、人差し指でポチポチとたどたどしく画面を叩く。

「えーっと、『特盛カツ丼』を……ぽちっとな!」

『ピピッ。エラー:残高が不足しています。※ルチアナ様が【朝倉月人・等身大抱き枕(プレミアム版)】で枠を使い切りました』

無機質なシステム音声が鳴り響き、リリスは石化した。

「……あ、あのクソ先輩、やっぱり限度額いっぱいまでパチンコの景品と推し活に使い込んでやがる……!」

カイトが頭を抱えた、その直後だった。

キュインキュインキュイーーーーン!!!

ピュルルルルルル!!!

突如、エンジェルすまーとふぉんから、パチンコの大当たり確定音のような凄まじい爆音が鳴り響いた。

「わぁっ!? カイトさん、大当たりです! 私、何もしてないのにスマホが光ってますぅ!」

「バカ! 画面を見ろ! 赤文字でなんか書いてあるぞ!」

カイトが指差したスマホの画面には、血のような赤い極太フォントでこう表示されていた。

【警告:本日25日は月次ローンの支払日です。利息の未払いが確認されたため、 神罰執行(ドナドナ・シークエンス) を開始します】

「ドナドナ……?」

リリスが首を傾げた瞬間。

上空100メートルの空間が歪み、そこから『黒塗りの機内持ち込みサイズのスーツケース』が猛スピードで落下してきた。

ズドォォォォォォォンッ!!!

地面にクレーターを作りながら着陸したスーツケースが、カチャリと不気味な音を立てて開く。

中から、ドス黒いオーラを纏った「無数の手」がワラワラと這い出してきた。

「ひっ!? な、なんですかこれぇぇ!?」

「リリス! 逃げろ!」

しかし、黒い手は圧倒的な速度でリリスに伸び、彼女の『桃色ジャージ』と『健康サンダル』をガシッと掴んだ。

シュウゥゥゥ……!

「アババババッ! 服が! 私の 正装(ジャージ) が光の粒子になって消えかけてますぅぅ! スースーしますぅぅ!」

第一段階【強制剥奪(差し押さえ)】である。

さらに黒い手は、半泣きで抵抗するリリスの両足首を掴み、あの小さなスーツケースの中へと強引に引きずり込み始めた。

第二段階【パッキング】の開始である。

「痛い痛い痛い! 無理ですぅ! 私、身長158センチあるのに、そんな手荷物サイズに折り畳まれたら関節が全部逆方向に曲がっちゃいますぅぅ!!」

「マジでマグローザ漁船に出荷される気か!? 待ってろ!」

カイトは手にしたクワを振り上げ、リリスを捕まえている黒い手を叩き切ろうとした。しかし、物理攻撃は黒い手をすり抜けてしまう。

「ふぇぇぇん! カイトさぁぁん! 助けてぇぇ! 私、マグロなんて素手で釣れませんぅぅ!」

リリスの体が半分以上スーツケースに飲み込まれ、いよいよ完全に蓋が閉まろうとしたその時。カイトは閃いた。

(借金取りなんだから、要は『金』か『それに代わる価値のあるもの』を払えば止まるんだろ!?)

カイトは猛ダッシュで農場の倉庫に向かい、今日出荷する予定だった最高ランクの特産品『S級・太陽芋』の木箱を抱えて戻ってきた。

「オラァァァッ! これで利息分はチャラにしろォォ!!」

カイトは、リリスを飲み込もうとしているスーツケースの口に、S級・太陽芋を箱ごとねじ込んだ。

スーツケースはピタッと動きを止めると、赤いスキャナーの光を放った。

『ピピッ。現物支給の査定を完了。……S級農作物の価値を確認。今月の利息分として受理しました。次回の支払いは来月25日です』

ポンッ!

黒い手がリリスを吐き出し、スーツケースはパタンと閉まると、再び空の彼方へと消えていった。

「ゲホッ、ゴホッ……! た、助かりましたぁ……(アババ)」

ジャージが半分はだけ、頭に泥をつけたリリスが、涙と鼻水まみれでカイトの足元にへたり込んだ。

「……助かったじゃない、バカ野郎」

カイトは、空を見上げたままワナワナと震えていた。

「俺が丹精込めて育てた……今月一番の稼ぎ頭になるはずだった『太陽芋』の売上が……お前の利息だけで消え飛んだァァァァッ!!」

「ひぃぃ!? す、すいません! でもでも、これで一ヶ月は命拾いしましたよ! ねっ!?」

「来月もこれがあるってことだろーが!!」

S級農民の悲痛な絶叫が、ポポロ村の青空に虚しく響き渡る。

リリスという最強の「負債」を抱え込んだカイトの、胃薬が手放せない借金返済ライフは、最悪の形でスタートを切ったのである。