軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十五章 借金返済 マグローザ漁船回避編

【遭遇】出会って3分で 不良債権(プラチナカード) を押し付けてくる桃色ジャージの女神

「……ここは、どこだろう?」

鬱蒼と茂る見知らぬ森の中。

S級農民であるカイトは、頭を抱えていた。

ついさっきまで自分の農場でダイズラ豆の収穫をしていたはずなのに、気づけば全く見覚えのない森のど真ん中に立っていたのだ。

「まさか……二回目の異世界転生? いやいや、俺はすでにポポロ村で立派な農業ライフを築いているはずなんだけど……」

ブツブツと呟きながら、カイトはとりあえず周囲を歩き始めた。

転生だろうが迷子だろうが、生き抜くための基本は同じだ。

「まずは水を探さないとな……ん?」

チョロチョロという水音が聞こえ、カイトが茂みをかき分けると、そこには澄んだ水をたたえた美しい池があった。

――しかし、その池の真ん中では、とんでもなく間抜けな光景が繰り広げられていた。

「アバババッ! アババババッ! 助けてぇぇぇ……ッ!」

胸元に『若葉マーク』の刺繍が入ったダサい桃色ジャージを着た少女が、派手な水しぶきを上げながら溺れていたのだ。

足元には、なぜか健康サンダルが片方だけプカプカと浮いている。

「何やってんだ!? ほら、俺の手に捕まって!」

カイトは慌てて池の畔に駆け寄り、腹ばいになって腕を限界まで伸ばした。

「ふぇぇぇん!」

少女が必死に手を伸ばし、カイトの腕をガシッと掴む。

しかしその反動で、カイトの胸ポケットから『全財産が入った革の財布』がポロリとこぼれ落ち、池の底へと無情にも沈んでいった。

「ああっ!? 俺の財布ッ!?」

「えへへ……ぶぅえっくしょん!」

カイトが少女を陸に引き上げると、彼女は盛大にくしゃみをした。

桃色ジャージはずぶ濡れ。頭には水草が乗っている。しかし、顔立ちは恐ろしいほど美しく、透き通るような肌を持っていた。

少女はプルプルと震えながら立ち上がると、懐から**『濡れてふやけたカンペ(画用紙)』**を取り出し、ジッと読み始めた。

「……えっと、えっと。(コホン。ここで慈愛に満ちた笑みを浮かべる)……貴方の落としたクレジットカードは、こちらの『金色のカード』ですか? それとも『銀色のカード』ですか?」

少女はカンペを読みながら、どこからともなく取り出した二枚のカードを天に掲げた。

「いや、君のせいで落としたんだろ! それに俺が落としたのは普通のカードだ! っていうかカードだけじゃない、なけなしのポポロゴールドが入った財布ごとだ! 全部返してよ!」

カイトの至極真っ当なツッコミを受け、少女はビクッと肩を震わせた。

「ふぇ!? え、えっと、えっと!」

彼女は慌ててカンペをめくる。パラパラと焦ってめくるせいで、カンペが破れそうになっている。

「(ターゲットがキレた場合)……あ、ありました! しょ、正直者の貴方には……こちらの『プラチナカード』を渡しましょう!」

「何でそうなるんだよ!! 童話のシステムどうなってんだ!」

少女が震える手で差し出してきたのは、神々しい光を放つ一枚のクレジットカードだった。

裏面には『オリンパス・プラチナ・デッドマスター』という物騒な印字と、誰かの血判のようなサインがある。

カイトは訝しげにそのカードを受け取り、裏面の極小文字(規約)を読んだ。

「……は? なにこれ。【利用可能残高:ゼロ】? 渡された時点で限度額の100万円使い切られてるんだけど!? しかも【支払いが滞った場合は強制的に身ぐるみを剥がされ、マグローザ漁船へとドナドナされます】って……」

カイトの顔から血の気が引いた。

これは童話の女神の贈り物などではない。ただの『超絶ブラックな不良債権の押し付け』である!

「で、では! サラダバー!」

少女はカイトが硬直している隙を突き、古臭い昭和のギャグとともに両手をクロスさせ、「シュワッチ!」の体勢で空へ逃げ出そうと跳躍した。

「待て! ゴラァァッ!! てめぇの不良債権を押し付けんなぁ!!」

ドスゥゥゥンッ!!

カイトはS級農民として鍛え上げられた強靭な足腰から、完璧なフォームの低空タックルを少女の足元に見舞った。

「ふぎゃっ!?」

カチャーン! と情けない音を立てて健康サンダルが宙を舞い、少女は顔面から地面に盛大にスライディングした。

「痛いぃぃ……! ひどいですぅ……!」

「ひどいのはお前だ! 出会って3分の赤の他人に、マグローザ漁船行きの借金を背負わせる奴があるか!」

カイトが胸ぐらを掴んで揺さぶると、少女――見習い女神のリリスは、ボロボロと大粒の涙をこぼし始めた。

「ふぇ!? ふぇぇぇ、だって、だってぇ! ルチアナ先輩からこのカードを押し付けられてぇ! 『これからはこのカードで、私の分のパチンコ代も決済しなさい』って! 私だけの甲斐性じゃあ、絶対に無理でぇ……!」

リリスは泣きながら、泥だらけのカンペをカイトに見せた。

そこには、ルチアナの字で『適当なカモを見つけてカードの家族会員にしろ。さもなくばマグロの餌だ』と、悪魔のような指示が書かれていた。

(あの自称17歳のダメ女神……ついに後輩に闇金まがいの借金を背負わせたのか……!)

カイトは頭痛を覚え、深くため息をついた。

「だからって、見ず知らずの俺に借金を押し付けていい理由にはならないだろ」

「うぅぅ……。じゃあ、じゃあ一緒に返してくれる? 奢ってくれる? 養ってくれる!? 私、こう見えても女神だから、すごく役に立つからぁ! お願い、見捨てないでぇ!」

リリスはカイトの腰にすがりつき、鼻水を垂らしながら必死に見上げてくる。

正直、ジャージ姿で泥だらけのポンコツ女神をこのまま放置すれば、間違いなく明日にはマグロ漁船で「アバババ」と言いながら出荷されるだろう。

(……面倒なことになったけど、放っておける性格じゃないんだよな、俺は)

カイトはガシガシと頭を掻きむしった。

「……分かったよぉ。とりあえず、そのカードの支払いについては一緒に考えてやる。その代わり、俺の農場で死ぬ気で働けよ」

「ふぇ……?」

リリスの顔がパァッと明るくなった。

彼女は嬉しさのあまり跳び起きると、カイトに勢いよく抱きついた。

「わあああい! カイトさん大好きぃぃ♡ ずっとついていきますぅ!」

「だーっ! 鼻水を服につけるな! あと俺はてめぇの財布じゃねぇ!!」

こうして、S級農民のカイトは、借金まみれのジャージ女神・リリスという「特級呪物」を抱え込むことになった。

理不尽すぎる負債と、尽きることのない彼女の食欲。

カイトの波乱に満ちた(そして胃の痛くなる)新生活が、ここに幕を開けたのである。