軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 3

【底辺】リーザのガムテープ・ハイエナ戦法

「遠隔よォォォ! いますぐ魔王軍を呼んで更地にするわよォォ!」

「お客様ァァ! 落ち着いてくださいィィ!」

ルチアナとラスティアが店長相手に大暴れし、ドル箱がひっくり返り、店員たちがトランシーバーで怒号を飛び交わせている阿鼻叫喚のシマ(遊技台の列)。

その狂騒の足元、タバコの灰と埃が落ちる派手な柄のカーペットの上を、ズルリ……ズルリ……と這い進む不気味な影があった。

「フフフ……上ばかり見て、足元の『宝の山』に気づかないなんて。これだからお金持ちの神様やエリートさんたちは甘いのよ……」

芋ジャージを泥だらけ(というか床の汚れだらけ)にし、ほふく前進で進む人魚姫にして地下アイドル、リーザである。

彼女の両手には、粘着面を外側にしてグルグル巻きにされた『布ガムテープ』が装着されていた。

「銀玉一発、ポポロゴールド換算で約4円……。たかが4円、されど4円。台の隙間や、椅子の下。ちょっと手が滑って落としちゃった銀玉を『まぁいっか』って放置するお客さんが、この店にはたくさんいるのよ……!」

リーザは、台の足元にあるわずかな隙間へと、ガムテープを巻いた手をスササッ!と滑り込ませた。

ペチッ! ペチペチッ!!

ガムテープの強烈な粘着力により、暗がりで放置されていた銀玉たちが、次々とリーザの両手に吸い寄せられていく。

「シャアァァッ!! 3玉ゲットォォ!!」

リーザの目が、完全に「獲物を狙う深海魚」のそれに変貌していた。

アイドルとしてのキラキラしたプライド? 海の王族としての威厳?

そんなものは、ルナミス帝国で「タローソンの廃棄弁当」を巡って野良犬とステゴロで殴り合った日に、とっくに捨て去っている。

「あと……あと20玉集めれば、景品カウンターで『サバの味噌煮缶』と交換できる……! パンの耳じゃない、本物のお魚(タンパク質)が食べられるのよォォ!」

ズルリ、ズルリ。

リーザは床に這いつくばったまま、隣のシマへと移動する。

そこでは、アロハシャツを着た狼王フェンリルが、タワーのように積み上げたドル箱を足元に置き、ドヤ顔でタバコを吹かしていた。

「ヘッ、今日の俺はキレてるぜ。氷狼の右打ちが止まらねえ……おっと」

フェンリルが足を組み替えた拍子に、足元のドル箱からポロッと、一粒の銀玉がこぼれ落ちた。

コロコロコロ……と転がる銀玉。フェンリルは「ちっ、まあいっか」と拾うそぶりも見せない。

その瞬間である。

「いただきまぁぁぁぁすッ!!」

「うおぉっ!?」

床下から弾丸のような速度で飛び出してきたリーザが、ガムテープの両手でその一玉をダイビング・キャッチした!

そのままの勢いで床を滑り、見事な受け身を取って「獲物」を確保する。

「な、なんだお前!? 床から生えてきやがったのか!?」

フェンリルがギョッとして椅子から飛び退いた。

「フフフ……ありがとう、お兄さん。この一玉の『御縁』、決して忘れないわ!」

リーザは、ガムテープに張り付いた銀玉に頬ずりし、涙を流して感謝した。

「お、おう……。きめぇからあっち行けよ……」

天下の獣王すらドン引きさせる、底辺の凄み。

数十分後。

景品カウンターの前に、両手にビッシリと銀玉(計40玉)を張り付けたリーザが、達成感に満ちた顔で立っていた。

「……あの、お客様。玉は専用のケースに入れてお持ちいただかないと……」

カウンターの店員が、顔を引きつらせながら注意する。

「細かいことはいいのよ! さぁ、この玉で『サバの味噌煮缶』を一つ! お願いしますぅ!」

リーザが、ガムテープから無理やり銀玉をベリベリと剥がし、カウンターに叩きつけた。

「は、はい……。サバ缶、一つですね……」

店員から恭しく手渡された、黄金に輝く(ように見える)サバの味噌煮缶。

「やった……! やったわキャルルちゃん! 今日はパンの耳に、お魚の汁をつけて食べられるわよォォ!!」

パチンコ店という、金貨が滝のように流れ、万単位の金が秒で消えていく欲望の魔境。

その底辺で、わずか160円相当のサバ缶一つを抱きしめ、世界を救った勇者のような顔で歓喜の涙を流す人魚姫。

上を見れば、100均のガラクタにウン百万円を突っ込んで台パンする神々。

下を見れば、ガムテープで小銭を拾うアイドル。

ルナミスパーラー・ポポロ支店は、オープン初日にして、完璧なまでに「狂気の生態系」を築き上げていたのだった。

しかし、このパチンコ狂想曲はまだ序の口である。

ある一人の少女の「大勝利」と、ある男の「無自覚な優しさ」が交差した時。

ポポロ村の女性陣を巻き込む、真の『ホスト狂い地獄』が幕を開けることになるのだ。