作品タイトル不明
EP 2
【熱狂】『CR異世界転生トラックでドン!』
ジャラジャラジャラッ!
キュインキュインキュイーーーーン!!
ルナミスパーラー・ポポロ支店の店内は、耳をつんざくような電子音と、銀玉が弾ける爆音に支配されていた。
新装開店の熱気に包まれたシマ(遊技台の列)の中央。もっとも目立つ並びの席で、芋ジャージに健康サンダル姿の二人の女が、血走った目で盤面を睨みつけていた。
「回らないわね……。1金貨で15回転しかしないじゃないの。ボーダー下回ってるわよ、コレ」
女神ルチアナが、ピアニッシモ・メンソールを深く吸い込み、ふぅーっと紫煙を吐き出す。
「新装初日だからって、店長(ルナミス役人)が釘をガチガチに締めてるのよ。……でも、やめられないわ。このヒリつく感覚、月人くんのライブの最前列抽選の時と同じ脳汁が出る……!」
魔王ラスティアも、サンド(玉貸し機)に親の敵のように金貨をねじ込み続けている。
永遠の17歳コンビが夢中になっている台。
それこそが、ルナミス帝国が総力を挙げて開発した最新魔導遊技機『CR異世界転生トラックでドン!』であった。
そのルールは極めてシンプル。
液晶画面の中で、深夜のコンビニ帰りのニート(主人公)が、道路に飛び出した女の子を助けるために猛スピードのトラックの前に飛び出す。
見事トラックに轢かれ(ドン!)、女神の部屋に転移すれば『異世界転生ボーナス(大当たり)』という、倫理観ゼロの狂ったスペックである。
「あっ……! 来たわよラスティア! 液晶の下の保留玉が【赤】から【金】に変わったわ!」
ルチアナの叫びに、ラスティアが自分の台を打つ手を止めて覗き込んだ。
ピキピキピキィィン! と、脳を直接揺らすような激しい効果音が鳴り響き、液晶画面が暗転する。
『トラック……接近中……!!』
「アツいわ! この【深夜の交差点リーチ】は信頼度60%超えよ!」
ルチアナが、玉を弾くハンドルをギュッと握りしめる。
画面の中のニートが、道路に飛び出した猫耳の幼女に向かってダイブする。
そこへ、ヘッドライトをハイビームにした巨大なダンプトラックが、猛スピードで突っ込んできた!
「轢けッ! 轢き殺せェェ!!」
創造神である女神ルチアナが、主人公の死を全力で願うという完全な矛盾。
その時である。
画面の右側から、黄金に輝くメカライオンをはじめとする五体の神獣たちが、猛烈な勢いで画面を横切っていった!
「出たァァァ!! 激アツの【聖獣機神ガオガオン群予告】よ!!」
「ルチアナ、もらったわね! あの群予告の信頼度は脅威の95%よ! トラックでドン確定よ!」
ガオガオン――紛れもなく、ルチアナ自身が過去にデザインし、世界の調停者として組み込んだ絶対的な神である。そのガオガオンが応援に来たのだから、当たるに決まっている。
ダンプトラックが、ニートに激突する寸前!
画面全体がホワイトアウトし……。
キキーーーーーーッ!!
ピタッ。
画面に映し出されたのは、ニートの鼻先わずか1ミリのところで、見事な急ブレーキを決めて停車したダンプトラックであった。
『ふぅ、危なかったね。気をつけなよ!』
運転手のおじさんが爽やかに親指を立て、ニートも安堵のタメ息をつく。
……スンッ。
液晶画面が通常モードに戻り、平和なコンビニ前の風景が映し出された。
「「…………は?」」
ルチアナとラスティアの動きが、完全にフリーズした。
ガオガオン群が横切り、金保留。パチンコにおける「絶対的勝利の方程式」が、完璧に崩れ去った瞬間である。
次の瞬間。
ドゴォォォォォォォンッ!!!
ルチアナとラスティアが、同時に台のガラス面を強烈な拳(神気と魔力マシマシ)で殴りつけた。いわゆる『台パン』である。
台の枠がメキメキと悲鳴を上げ、エラー音が鳴り響く。
「おい店長ォォォ!! どういうことよ!! ガオガオン群が外れるわけないでしょォォ! 私が作った 神(システム) よ!? 信頼度95%が外れるなんて、確率的におかしいわよ!!」
ルチアナが、ジャージの袖を捲り上げてブチギレる。
「遠隔よ! 絶対に裏で操作してるわ! 善良な客から金貨を搾り取るルナミス帝国の陰謀よ! 今すぐ魔王軍を差し向けて、この店を更地にしてやるわ!!」
ラスティアも、魔王剣を抜く勢いで暴れ出した。
慌ててバックヤードから飛んできた店長(ルナミス帝国の役人)が、顔面蒼白になりながら土下座スライディングを決める。
「ひ、ひぃぃ! お、お客様ァ! 台パンはご遠慮ください! ガオガオン群はあくまで『大チャンス』であって、確定ではないのです! 遠隔操作など一切……!」
「うるさーい! 95%を外した私のメンタルをどう保証してくれるのよ! 今すぐV入賞(大当たり)させなさいよォォ!」
「 神(ルチアナ) が当たれと言っているのよ! これはもはや神託よ! さっさと確率を書き換えなさい!」
負け犬のパチンカス特有の「遠隔だ!」「確率操作だ!」という醜いクレーム。
しかし、それを言っているのが『本物の神』と『本物の魔王』であるため、店長にとっては冗談抜きで命の危機であった。
「あ、あわわわわ……警察! ルナミス警察を呼んでぇぇ!」
店長が泣き叫び、店内は大パニックに陥る。
だが、そんな神々の醜い争いと大騒ぎの足元で。
パチンコ店の「真の底辺」を這いつくばる、もう一人の女の姿があった。