作品タイトル不明
EP 13
【乱入】怒りの農民・カイト、戦場を耕す
「ポポロ村名物、【 強制開墾(リセット・ティリング) 】のお時間だよ」
麦わら帽子を深く被った農民・カイトの振り上げた『ひのきのクワ』に、膨大な大地の魔力がブラックホールのように収束していく。
その圧倒的なエネルギー密度に、ルナミス軍のキュロスも、レオンハート軍のハガルも、本能レベルで死(いや、農作物への降格)を悟った。
「ま、待てカイト殿! 悪かった! このパンの耳は全部返すから!」
「俺たちもトマトには絶対に触らねえ! だからそのクワをしまってくれェェ!」
最強の指揮官二人が、涙と鼻水と泥にまみれながら命乞いをする。
しかし、大切な黄金トマトのハウスを脅かされたS級農民の耳には、もはや害虫(エリート兵士)の鳴き声など届いていなかった。
「畑を荒らす悪い子は……土からやり直しッ!!」
ズドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!
カイトが『ひのきのクワ』を、眼前の地面へと力強く振り下ろした。
その瞬間。
物理法則も魔導防壁も獣人の闘気もすべてを無視した「超絶的な大地のうねり」が、戦場一帯を駆け抜けた。
地面そのものが、まるで巨大なカーペットをひっくり返したかのように、凄まじい勢いで捲れ上がったのだ!
「「「ぐわああああああああッ!!?」」」
ルナミス軍の兵士も、レオンハート軍の兵士も。
そして、彼らが命と借金を懸けて奪い合った「重さ50kgの旗」も「パンの耳の入ったビニール袋」も。
戦場にいたすべてのものが、無重力空間に放り出されたかのように、遥か上空へと打ち上げられた。
(あぁ……空が、青いな……)
キュロスは、走馬灯のようにゆっくりと流れる滞空時間の中で、澄み切ったポポロ村の青空を見上げていた。
軍資金の枯渇、ぼったくり商人、ストライキ、闇金、パンの耳。
この数日間の地獄のような記憶が、吹き抜ける風と共に浄化されていくのを感じた。
(俺たちは……一体何のために戦っていたんだっけ……)
同じく空中を舞っていたハガルも、悟りを開いたチベットスナギツネのような顔で空を見つめていた。
もはや、国家の威信もクソもない。彼らはただ、一人の農民の「畑仕事」のついでに、雑草ごと引っこ抜かれただけの存在なのだから。
ヒュルルルルル……スポンッ!! スポポンッ!!
やがて重力に従い落下してきた両軍の兵士約150名。
彼らは、カイトのクワによって見事に耕され、ふかふかになった極上の土壌へと、まるで『大根』のように頭から綺麗に突き刺さっていった。
「ふぅ。これでスッキリしたね! 美味しい野菜が育ちそうだよ」
カイトは、見渡す限り「エリート軍人が突き刺さった畑」と化した光景を見て、満足そうに額の汗を拭った。
◇
「ピピッ! はーい、そこまでですわ!」
大根状態の兵士たちの前に、ヒールを鳴らして桜田リベラが現れた。
彼女の頭上を、重さ50kgのレオンハートの旗がパラシュートのようにゆっくりと落下し、ポポロ村の場外(非公式市場の屋根)へと突き刺さる。
「ルール①『相手の旗を奪い、自陣で24時間キープすること』。
……現在、レオンハート軍の旗は『場外』。さらに両軍の兵士は『全員、畑の肥やし(戦闘不能)』となりました。したがって……」
リベラが、メガホンで高らかに宣言する。
「ポポロ村・特別代理戦争! 勝者なしの【引き分け(ノーコンテスト)】といたしますわーっ!」
「「「…………」」」
土から足をバタバタさせて抜け出した兵士たちは、もはや抗議する気力すら残っていなかった。
満身創痍、軍資金ゼロ、しかも多重債務者。
何も得られないまま、ただただ疲労と借金だけが残った、史上最も不毛な戦争の終結である。
「……終わったな、ハガル」
頭に土を乗せたキュロスが、大の字で倒れ転がりながら、隣に寝転がる黒豹の騎士に声をかけた。
「ああ……。だが不思議と、悔しいという感情は湧いてこねえ。むしろ、あの 地獄(ぼったくり) から解放されたという安堵感でいっぱいだ……」
ハガルが、泥だらけの顔でフッと笑う。
「ふふっ……違いない」
キュロスも、空を見上げたまま力なく笑った。
最新鋭の兵器も、圧倒的な闘気も、この村の「資本主義」と「農民」の前では全くの無力だった。
しかし、互いに「パンの耳」を巡って泥水(と飲む二郎)をすすり合った彼らの間には、国境も種族も超えた、奇妙で確かな【戦友の絆】が芽生えていた。
「おい、キュロス」
「なんだ」
「……あの時、お前が借金して買った水とパンの耳。……俺の人生で食ったメシの中で、一番美味かったぜ」
「……ふっ。光栄だ。借金(金利50%)をした甲斐があったというものだ」
二人の指揮官は、泥だらけの右手をゆっくりと伸ばし、固く、そして熱い握手を交わした。
夕日に照らされる二人の姿は、どこからどう見ても「死闘を演じきったライバル同士の美しい和解」であった。
――そう、彼らが抱えている莫大な『 請求書(ツケ) 』の存在さえなければ、これは完璧なハッピーエンドだったのだ。