軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 12

【乱入】空腹の獣と、キレるS級農民

「……嗅いだことのある匂いだ。これは、タローソンの『パンの耳』……!」

ルナミス帝国軍が陣取る空き倉庫の外。

レオンハート獣人王国軍の黒豹騎士団長・ハガルの鼻が、ヒクヒクと激しく動いた。

獣人族の中でも最上位の嗅覚を持つ彼らには、分厚い鉄扉越しであっても、中で帝国兵たちが美味そうにパンの耳を咀嚼し、冷たい水を喉に流し込んでいるのがハッキリと分かった。

「だ、団長……もうダメです。腹が減って、目の前が真っ白になってきました……」

犬耳族の兵士が、ヨダレを滝のように流しながらへたり込む。

「耐えろ! ここで扉をブチ破れば、リベラの野郎から『建造物損壊罪』で数千金貨の罰金をむしり取られるんだぞ!」

ハガルは血走った目で周囲を見回した。

扉はダメだ。窓ガラスも割れない。壁を壊すなんてもってのほかだ。

しかし、本能は「メシを食え」と叫んでいる。

「……床だ」

ハガルが、低く唸るように言った。

「犬耳族、狼耳族! 貴様らの穴掘りスキルを全開にしろ! 倉庫の『基礎の下』をモグラのように掘り進み、床板の隙間から内部へ侵入するんだ! もちろん、床板は絶対に傷つけるなよ! ジョイント部分から『優しく、丁寧に』外すんだ!!」

「「「アウゥゥゥゥッ!!(了解!!)」」」

生きるため(とパンの耳のため)に、誇り高き獣人兵士たちが完全に「犬」へと退化した。

彼らはマッハの速度で地面を掘り進み、倉庫の地下へと潜り込んでいく。

一方、倉庫内部。

「美味い……! 借金(金貨1000枚)をして買ったパンの耳は、どうしてこんなにも胃袋に染みるのだ……」

キュロスが涙を流しながら、最後のパンの耳をかじろうとした瞬間。

ゴトッ……スゥーッ。

キュロスの足元の床板が、不自然なほど「丁寧かつ静かに」スライドして外された。

「……ん?」

床下の暗闇から、血走った獣の目玉がギョロリと覗いていた。

「ワ、ワオォォォォンッ!!(パンの耳を寄越せェェ!)」

「な、なんだ貴様ら!? どこから入ってきたァ!」

床下から次々と湧き出してくるレオンハート軍の獣人たち。

彼らは一直線に、帝国兵たちが抱えるクーラーボックスとパンの耳の残骸へと飛びかかった!

「ふざけるな! これは私が私財を投げ打って『トゴ(10日で5割)』の闇金で借りた水だぞ! 一滴たりとも野蛮な毛玉どもに飲ませてたまるかァァ!」

キュロスが、パンの耳とペットボトルを胸に抱きしめ、ダンゴムシのように丸まって完全防御の体勢に入る。

「うるせぇ! もう限界なんだよ! 旗なんかどうでもいいから、その水を一口飲ませろォォ!」

ハガルがキュロスの背中に馬乗りになり、スリーパーホールドを極めながらペットボトルを奪いにかかる。

「ぐふぅっ! 離せ! 誰か、旗を守れ!」

「む、無理です! 獣人どもが『お座り』も『待て』も聞いてくれませんゥゥ!」

重さ50kgの旗を巡る戦いは、完全に「パンの耳と水を巡る醜い争奪戦」へとすり替わっていた。

そして、極限の飢えによる揉み合いは、いつしか倉庫の裏口を突き破り(※リーザが開けっ放しにしていたため罰金は免れた)、外のエリアへと雪崩れ込んでいった。

「こっちだ! 旗をパスしろ!」

「させん! 帝国の意地を見よ!」

泥まみれになりながら、重さ50kgのポールをラグビーボールのように奪い合う両軍の精鋭たち。

しかし、彼らが揉み合いながら転がり出てしまった場所は、ポポロ村において「絶対に足を踏み入れてはいけない聖域」のすぐ真横であった。

『特A指定保護区画:超温度管理・Sランク黄金トマト用ビニールハウス』

「うおおおッ! 離せ毛玉ァ!」

「そっちが離せヒョロガリィ!」

もつれ合ったキュロスとハガルの巨体が、勢い余ってそのビニールハウスの薄い膜へと激突しようとした、まさにその時。

「……ちょっと君たち。僕の可愛いトマトちゃんたちに、何しようとしてるのかな?」

ピタッ。

キュロスとハガルの体が、空中で完全に静止した。

いや、静止させられたのだ。彼らの首筋に、冷たく、そして圧倒的な質量を持った『木の柄』がピタリと当てられていた。

「か、カイト……殿……?」

麦わら帽子を深く被った農民・カイトが、愛用の『ひのきのクワ』を片手で構え、そこに立っていた。

普段のニコニコした好青年の面影は、そこにはない。

麦わら帽子の影から覗く瞳は、一切の光を宿さず、ただただ「畑を荒らす害虫」を見るような絶対零度の冷酷さを放っていた。

「あのね、この『黄金トマト』は、温度と湿度が1度変わるだけでも味が落ちちゃう、とってもデリケートな子なんだ。もし君たちがそのビニールにぶつかって、少しでも隙間が空いたら……どうなるか、分かるよね?」

「「ひっ……!」」

大陸最強と謳われる二人の近衛騎士団長が、たった一人の農民が放つ『S級農民の逆鱗オーラ』の前に、呼吸すら忘れてガタガタと震え出した。

「喧嘩はよそでやってって言ったよね? 約束を破る悪い害虫には……」

カイトが、ゆっくりとひのきのクワを頭上に振りかぶった。

クワの先端に、大地の魔力がブラックホールのように収束していく。

「ポポロ村名物、【 強制開墾(リセット・ティリング) 】のお時間だよ」