作品タイトル不明
EP 10
【極限】軍資金ゼロ! 銃を捨てよ、拳で語れ
ポポロ村の西区画、収穫が終わった後の開けた荒地。
ルナミス帝国軍(残り80名)と、レオンハート獣人王国軍(残り70名)の両部隊が、泥だらけの軍服で対峙していた。
彼らの腹からは「ぐきゅるるる……」という、猛獣の呻き声のような悲痛な音が絶え間なく鳴り響いている。
ストライキによる兵站の断絶、そして理不尽な市民投票による兵士削減。
心身ともに極限状態まで追い詰められた両軍の間に、もはや開戦時の「最新鋭の軍隊」としての威厳は一切なかった。
「……ハガル。貴様らも、ずいぶんと数が減ったようだな」
ルナミス近衛騎士団長キュロスが、ふらつく足取りで前に出る。
「フン……お前らこそ、立てるのか? 帝国自慢の『魔導ライフル』を持つ手も、震えているじゃねえか」
レオンハート近衛騎士団長ハガルが、乾いた唇を舐めながら鼻で笑う。
両軍の兵士たちは、互いに武器を構えていた。
しかし、誰一人として引き金を引こうとしない。いや、引けないのだ。
(((撃てば……罰金(金貨数千枚)を取られる……!!)))
昨日、ポポロ村の法務担当・リベラから叩きつけられた「花が折れた慰謝料・金貨2000枚」のトラウマが、彼らの脳髄に深く刻み込まれていた。
万が一弾が外れて民家の窓ガラスでも割ろうものなら、陣営は即座に自己破産。さらに「騒音苦情」で市民投票の的になる恐怖すらある。
キュロスは、愛銃である特注の魔導ライフル「菊花」を静かに見つめ……そして、ゆっくりと地面に置いた。
「……総員、魔導ライフルを捨てよ。傷がつかないよう、そっと地面に置くのだ」
「だ、団長!? 丸腰になるおつもりですか!?」
「撃てない銃など、重い鉄パイプにすぎん。我々にはもう、予備弾薬を買う資金すらないのだからな」
キュロスの悲壮な決断に、帝国兵たちは涙を飲みながら、そーっと(傷がつかないように)ライフルを地面に並べた。
「フッ……賢明な判断だ。ならば俺たちも、野性の掟に則ってやろう」
ハガルもまた、魔導双剣「陰影」を鞘に納め、部下たちに武装解除を命じた。
そして、鋭い爪を引っ込め、拳を固く握りしめる。
「聞け、野郎ども! 魔法は禁止だ! 爪も立てるな! もし敵を殴り飛ばして『村のフェンス』にでも激突させようものなら、俺自ら貴様らを八つ裂きにする!!」
「「「おおおおおッ!!」」」
「帝国兵よ! 誇り高きCQC(近接格闘術)を見せよ! 相手の関節を極め、絶対に『音を立てずに』気絶させるのだ!!」
「「「イエッサー!!」」」
かくして、大陸最高峰の軍事力を持つ二つの大国は。
**「絶対に村の備品を壊さず、騒音も出さない、極めて環境(と財布)に優しいエコな殴り合い」**へと突入した。
「ふんッ!」
ハガルが、時速100kmに迫る縮地でキュロスの懐に飛び込み、無音の右フックを放つ。
「甘い(歩兵攻撃)!」
キュロスはそれを最小限の動きで躱し、ハガルの腕を取って流れるように背負い投げを放つ。
しかし、ハガルが地面に叩きつけられる寸前!
「バカヤロウ! 地面が凹んだら『アスファルト修繕費(金貨2000枚)』を請求されるぞ!!」
ハガルが空中で叫んだ。
「ハッ!? しまったァァ!!」
キュロスは慌てて自分の体をクッションにし、ハガルを優しく抱きとめるようにして地面にグラップリングで倒れ込んだ。
「あ、危なかった……。恩に着るぞキュロス」
「気にするな。危うく我が軍が破産するところだった……」
泥だらけの男二人が、抱き合いながら冷や汗を流して安堵する。
その周囲でも、兵士たちが奇妙な死闘を繰り広げていた。
「くらえッ! 帝国のスリーパーホールドだ!」
「ぐふぅっ……! な、投げるなよ! そこに 村長(キャルル) の育てたトマトの苗があるッ!」
「わかっている! 静かに寝ろォォ!」
殴る蹴るの打撃技は「吹っ飛んだ際の器物破損リスク」が高すぎるため、両軍ともに自然と「関節技」や「絞め技」を主体とした 寝技(グラップリング) 地獄へと移行していた。
「しーっ! 痛くても大声を出すな! キュララに配信で『騒音部隊』と晒されるぞ!」
「ぐぐぐっ……! わ、わかってる……(小声の悲鳴)」
極限の飢え。そして罰金の恐怖。
疲労困憊のエリートたちが、泥まみれになりながら、互いの口を塞いで静かに関節を極め合う。その光景は、もはや戦争というより「狂気の前衛芸術」であった。
そんな泥沼の寝技合戦の中。
乱戦を抜け出し、レオンハート軍の陣地(という名の指定された空き地)の奥深くへと這い進んだキュロスの目に、ある人工物が飛び込んできた。
「あ……あれは……ッ!」
草むらに無造作に置かれた、長さ2メートル、重さ50kgの巨大な金属製のポール。
その先端には、レオンハート獣人王国の紋章が刻まれた布が巻かれている。
勝利条件である『敵の旗』だ。
「見つけたぞ! レオンハートの旗だ!!」
キュロスの叫びに、ルナミスの兵士たちが歓喜の声を上げようとし……慌てて両手で自分の口を塞いだ(騒音防止)。
「チィッ! 見つかったか! おい、全力で阻止しろ!」
ハガルが部下たちに怒鳴るが、寝技地獄で体力を消耗し、飢餓状態の獣人たちには、キュロスを止めるだけの瞬発力は残っていなかった。
「フンッ……!」
キュロスは最後の力を振り絞り、重さ50kgの旗を肩に担ぎ上げた。
普段なら片手で振り回せる重さだが、丸二日まともな飯を食っていない今の彼には、まるで鉛の柱のように重くのしかかる。
「やった……! ついに旗を奪取したぞ! これを我が陣地で24時間キープすれば……!」
キュロスの目から、感極まった涙がこぼれ落ちた。
軍資金の枯渇、ぼったくり商人、ストライキ、理不尽な市民投票。数々の地獄を乗り越え、ついに栄光をその手にしたのだ。
「全軍、撤退! この旗を死守し、24時間耐え抜くのだ!!」
旗を担ぎ、泥だらけで陣地へと逃げ帰るルナミス帝国軍。
彼らはまだ気づいていなかった。
勝利条件である「24時間キープ」。
つまり、水も食料もない極限状態で、さらに丸一日、重さ50kgの旗を抱えながら、怒り狂う獣人たちの猛攻を「無音・無破壊」で凌ぎ切らなければならないという、正真正銘の生き地獄が始まることに。