軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 9

【制裁】 市民投票(イエローカード) の恐怖

「ぐぅぅぅ……っ」

ポポロ村の中央広場に、エリート兵士たちの腹の虫がオーケストラのように鳴り響いていた。

目の前には、ニャングルから全財産を叩いて買った『飲む二郎(ルナミス軍)』と『乾パン(レオンハート軍)』の山。

しかし、運び屋リーザの【ストライキ(神輿に乗せて歌を歌えという要求)】を拒否したため、彼らはルール上、その食料に指一本触れることができないまま、丸一日が経過しようとしていた。

「……キュロス。もう限界だ。俺の部下たちは、その辺の雑草(陽薬草)をむしって食べようとしている」

レオンハート獣人王国のハガルが、虚ろな目で呟く。

「……耐えろ。我々ルナミス帝国軍も、空腹を紛らわせるために『自省録』を暗唱している状態だ」

ルナミスのキュロスも、もはや立っているのがやっとだった。

そんな地獄の飢餓空間に、ヒールの音を高らかに鳴らしながら、法務担当・桜田リベラが歩み出てきた。

彼女の背後には、透明なアクリル製の『投票箱』が置かれている。

「皆様、お腹は空いておりますか? でも、お食事の前に大事な【村の行事】がありますのよ」

リベラは美しい笑みを浮かべ、ルールブックを掲げた。

「これより、週に一度の【ポポロ市民による兵士削減投票】を開始いたしますわ!」

「へ……? 兵士削減、だと?」

キュロスが霞む目を瞬かせる。

「はい。この特別代理戦争において、ポポロ市民は『両軍の働きぶり(または賄賂の量)』を評価し、過半数の賛成を得ることで、陣営の兵士を強制的に退場(失格)させる権利を有しています。

警告は3段階。

【イエローカード】は10人退場。

【レッドカード】は20人退場。

そして【ブラックカード】は30人退場となりますわ」

あまりにも理不尽な市民権力。

民主主義という名の、村人たちによる「公開処刑」である。

「さぁ、ポポロ市民の皆様! 忌憚のないご意見と、清き一票をお願いいたしますわ!」

リベラの合図とともに、投票箱の前にポポロ村の面々(極悪市民たち)が並び始めた。

先頭に立ったのは、永遠の17歳コンビ、女神ルチアナと魔王ラスティアである。二人の顔は、般若のように怒りに満ちていた。

「……ちょっと、ルナミスのキュロス。あんた、昨日『朝倉月人のライブチケットを用意する』って言ったわよね?」

ルチアナが、腕を組んでキュロスを睨みつける。

「あ、ああ。軍の通信網をフル活用して、急ぎ手配したはずだが……」

「たしかに魔導通信で電子チケットは届いたわ。……でもね、これ【スタンドC席(最後列)】じゃないのォォォ!!」

ルチアナが、プリントアウトしたチケットをキュロスの顔面に叩きつけた。

「アリーナ最前列を用意しろって言ったでしょ! 推しの汗の飛沫が見えない席に、なんの価値があるのよ! ルナミス帝国軍の権力って、その程度のものなわけ!?」

ラスティアも激怒して地団駄を踏む。

「そ、そんな無茶な! そもそも一般発売は秒で完売したプラチナチケットなのだぞ! それをたった半日で用意しただけでも……」

「言い訳無用! 賄賂をケチる(手配ミスする)無能な軍隊には、制裁よ!! ルナミス軍に【レッドカード(20人退場)】に全票ぶち込みまーす!!」

バンッ! バンッ!

ルチアナとラスティアが、真っ赤な投票用紙を箱に叩き込んだ。

「ば、馬鹿な……っ! ライブの席が悪いという理由で、精鋭が20人も削られるだと!?」

キュロスが頭を抱えて崩れ落ちた。

「フハハハハ! ざまあみろルナミス! 余計な工作(アイドルのチケット手配)などするからそうなるのだ!」

ハガルが、腹の虫を鳴らしながらも高笑いする。

「あら、毛玉のおじさんも笑っていられる状況ですかぁ?」

ハガルの背後に、ふわふわドレスのエルフ・ルナ・シンフォニアが満面の笑みで立っていた。

「レオンハート軍の皆さん、昨日の夜、うちの森の『マンドラゴラの群生地』でこっそり野営しましたよねぇ?」

「っ……! ああ、ルナミスの目を逃れるためにな。それがどうした」

「おじさんたちの獣臭とイビキのせいで、お花さんたちが『ストレスで枯れそう』って泣いてたんですよぉ。おまけに、私が金貨500枚でお買い得な『火炎龍』を勧めてあげたのに、無視しましたよねぇ?」

ルナの瞳から、一切の光が消えた。100%の善意(押し売り)を拒絶された、エルフ特有の静かなる怒りである。

「お友達をいじめて、私のご厚意を無下にする悪い毛玉さんたちには……これですぅ♡」

ルナが、漆黒の投票用紙を箱に滑り込ませた。

「レオンハート軍には【ブラックカード(30人退場)】でーす♡」

「な、なにおォォォォ!?」

ハガルの目玉が飛び出んばかりに見開かれた。

その後も、村人たちによる「顔が怖い」「歩き方がムカつく」「ダイズラ豆の収穫の時のパンツの色がダサかった」という、私情と偏見にまみれた最低の投票が続けられた。

「はい、開票終了ですわ!」

リベラが電卓を叩き、無慈悲な結果を発表する。

「過半数の賛成により、以下の制裁が確定いたしました。

ルナミス帝国軍、レッドカード。

レオンハート獣人王国軍、ブラックカード。

……ガオガオン様、執行をお願いいたします」

リベラが上空へ合図を送る。

ピピピピッ……!

上空に待機していた聖獣機神ガオガオンから、対象となった兵士たち(ルナミス20名、レオンハート30名)へ向けて、無害だが強制力のある『 転送光線(トラクター・ビーム) 』が照射された。

「ひぃぃっ! 体が勝手に宙に浮くゥゥ!」

「嫌だ! せめて……せめて最後に『飲む二郎』を一口だけ舐めさせてくれェェェ!」

光に包まれた兵士たちは、次々と上空へ吸い込まれ、戦場から強制退場させられていく。

(※ちなみに退場した兵士たちは、そのままカイト農場の別エリアに転送され、罰金返済のための『無給の草むしり刑』に処されている)。

「……俺たちの、部下が……」

「半分近くに、減ってしまった……」

広場に残されたのは、50人を切ったレオンハート軍と、80人のルナミス軍。

飢えと疲労、そしてポポロ市民の「理不尽な民主主義」によって、両軍の戦力と精神力は完全にズタズタに引き裂かれていた。

「さて。これにて投票イベントは終了です。引き続き、戦争をお楽しみくださいませ♡」

リベラが微笑み、村人たちと共に去っていく。

軍資金はゼロ。兵站(食料)はストライキで絶たれ、兵士の数は理不尽に減らされた。

もはや、彼らに残された選択肢は一つしかない。

弾薬を買う金すらないこの極限状況下で。

文字通り「身一つ」で敵の旗を奪い合う、原始の死闘が始まろうとしていた。