軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 8

【交渉】週に一度の労使交渉! 商人と運び屋の牙

ポポロ村・特別代理戦争、開戦から1週間。

ルナミス帝国軍とレオンハート獣人王国軍の両部隊は、完全に疲弊しきっていた。

昼は敵と「素手と関節技」でみみっちい小競り合いをし、夜はカイトの農場でパンツを晒しながらダイズラ豆を収穫する日々。

エリート軍人としての誇りはとっくに泥にまみれ、彼らの頭の中は「いかに罰金を払わず、安くカロリー(飲む二郎)を摂取するか」で支配されていた。

そんな彼らに、追い打ちをかける「恐怖のイベント」がやってきた。

【ルール⑥:1週間に1回、ポポロ商人とポポロ村バイトは両軍に対して条件交渉ができる】

ポポロ村の中央広場。

ゲッソリと頬がこけたキュロスとハガルの前に、ピカピカの虎柄羽織を着たニャングルと、赤いハチマキを巻いた芋ジャージ姿のリーザが並んで立っていた。

「まいどぉ! 1週間お疲れさんでっす! ほな早速、今週の【ポポロ商会・ 価格改定(プライス・チェンジ) 】の発表といきまっか!」

ニャングルが黄金の算盤を高々と掲げると、背後の巨大なボードがパタンと裏返った。

【ポポロ商会・今週の特売品(価格改定後)】

魔導ライフル用・予備マガジン(1個): 金貨10枚 → 金貨20枚(200万円)

ルナミス軍戦闘糧食2型(1パック): 金貨5枚 → 金貨10枚(100万円)

レオンハート軍Modulo型(1箱): 金貨8枚 → 金貨16枚(160万円)

「……は?」

キュロスとハガルの声が見事にハモった。

「キ、キサマッ! 全部キッチリ倍額になってるじゃねえか! どういう計算だ!」

ハガルが怒りで毛を逆立てて吠える。

「いやぁ、ハガルはん。これが経済っちゅうもんでっせ。最近、世界樹の森から来る物流が滞ってましてなぁ(大嘘)。さらに両軍の皆さんが農場で汗水垂らして稼ぐもんやさかい、ポポロ村内に【インフレ圧力】がかかってしもうたんや。ワイらも苦渋の決断でっせ?」

ニャングルが、嘘泣きをしながら煙管の煙をふーっと吐き出す。

完全に「売り手市場」であることを理解した上での、えげつない価格の吊り上げである。

金貨1枚を稼ぐために、どれだけ人参マンドラに追いかけ回されたか。兵士たちの血の滲むような努力を、商人の算盤一つが紙屑に変えてしまったのだ。

「くっ……! 背に腹は代えられん。……ニャングル、ルナミス軍に一番安いMRE型(飲む二郎)を100食頼む。それならなんとか払える」

キュロスが、屈辱に震えながら注文を出した。

「ワイらもだ……! Modulo型はもう買えねえ。一番安い乾パンのセットをよこせ!」

ハガルも泣く泣く予算を切り詰める。

「毎度おおきに! ほな、荷物の運搬はいつものように『ポポロ村公式バイト』にお願いしまっさー!」

ニャングルが手を叩くと、赤いハチマキを締めたリーザが一歩前へ出た。

そのハチマキには、マジックでデカデカと『ストライキ決行中』と書かれている。

「はーい皆様、注目ぅ! 私たちポポロ・イーツ(運送部)から、労使交渉の通達ですぅ!」

リーザは、ジャージの胸を張って、拡声器(100均のメガホン)を構えた。

「先週1週間、皆様の陣地まで重いお弁当を運んであげましたけどぉ……道は悪いし、戦場で危ないし、労働環境が劣悪すぎますぅ! したがって本日より、私たち『運送バイト』は【全面ストライキ】に突入しまーす!」

「なっ!? ストライキだと!?」

キュロスが目を剥いた。

【ルール④:武器、弾薬、弁当の荷運びはポポロ村バイトに一任する。自分で運べばルール違反で失格】

つまり、リーザが運んでくれなければ、両軍は目の前に積まれた食料に指一本触れることができないのである。

「ふ、ふざけるな! お前はただリヤカーを引いているだけだろうが! なにが劣悪な労働環境だ!」

ハガルが怒鳴る。

「うるさーい! アイドルの華奢な肩で、毎日数百キロの荷物を引かされてる身にもなりなさいよ! というわけで、ストライキを解除してほしければ、以下の【待遇改善要求】を飲みなさい!」

リーザが、メガホン越しに要求を突きつける。

【要求その1:運送料を従来の「銀貨1枚」から「金貨1枚(10万円)」に値上げすること】

【要求その2:運搬中、兵士たちは 私(リーザ) を『お神輿』に乗せて担ぐこと】

【要求その3:お神輿を担いでいる間、常に『Love & Money』を大合唱して私を讃えること】

「…………」

「…………」

広場を、死のような沈黙が包み込んだ。

法外な運送料の要求だけでも狂っているのに、追加された「お神輿」と「アイドルの歌の合唱」という狂気のオプション。

誇り高きルナミス帝国とレオンハート王国の精鋭たちに、人魚の極貧アイドルを神輿で担ぎ、笑顔で歌を歌えと言うのだ。

「……断る。そんなふざけた要求が飲めるか」

キュロスが、ギリッと奥歯を噛み砕く勢いで拒絶した。

「俺たちもだ。そんな屈辱を味わうくらいなら、飢え死にした方がマシだ」

ハガルも、腕を組んでそっぽを向いた。

「あっそ。じゃあ、交渉決裂ねぇ。……ふぁ~あ、お腹すいたし、私お昼ご飯(パンの耳)食べてこよーっと。あなたたちは、そこにあるお弁当を指をくわえて見てればいいわぁ」

リーザはリヤカーを広場のど真ん中に放置し、健康サンダルをペタペタと鳴らしながら帰っていってしまった。ニャングルも「ほな、商談成立したらまた呼んでや~」と姿を消す。

広場に残されたのは、ニャングルから購入した「食事(飲む二郎と乾パン)」の山と、それに一切触れることができない空腹の兵士200名。

「……キュロス団長。俺たち、昨日から水しか飲んでません……」

「……俺もだ」

目の前にメシがあるのに、ルールに縛られて食えない。

兵站を「一人の極貧アイドル」に完全に握られた両軍は、ついに飢えと弾切れの極限状態へと突入した。

しかし、彼らの地獄のフルコースには、まだ「最悪のデザート」が残されている。

明日は、ポポロ村の一般市民による【兵士削減・ 市民投票(イエローカード) 】の日なのだ。