軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 7

【癒着】非公式市場! 市民への賄賂工作

BAR『鬼龍』での血の契約を終え、裏路地へ出たルナミス帝国軍・キュロスと、レオンハート獣人王国軍・ハガル。

二人は足並みを揃え、ポポロ村の公民館の裏手にある、怪しげなテント群へと向かった。

そこは、ポポロ村の一般市民たちが独自に運営する【非公式市場】。

ルール⑤に基づき、月額金貨100枚のサブスクリプションを支払った陣営のみがアクセスできる、「情報の闇市」である。

「まいど。サブスクの更新日やで。両軍とも金貨100枚、耳揃えてもらいまっせ」

入り口のテントで、ニャングルが黄金の算盤を弾きながらニヤニヤと手を差し出す。

「……チッ。このボッタクリ村め。ほらよ」

ハガルとキュロスは、忌々しげに金貨を投げ渡し、市場の中へと足を踏み入れた。

テントの中は、一見するとただのフリーマーケットだった。

しかし、そこで売買されているのは、手作りの雑貨などではない。「敵の陣地の情報」「デマの流布権」、そして最も恐ろしい「市民投票(兵士削減)の投票権」である。

「いらっしゃーい! ルナミスの騎士団長さんと、レオンハートの毛玉さん! 今なら特大のスクープ情報があるわよぉ!」

ジャージ姿の女神ルチアナと、魔王ラスティアの【永遠の17歳コンビ】が、ござの上に座って手招きをしていた。

「ルチアナ殿、ラスティア殿。……情報の対価はなんだ。金貨か?」

キュロスが警戒しながら尋ねる。

「金貨? そんなものいらないわ」

ラスティアが鼻で笑い、ござの下から一枚のポスターを取り出した。

そこには、ルナミス帝国で絶賛アイドル活動中のイケメン、『朝倉月人』がプリントされている。

「ルナミス帝国軍、あんたたちの本国のコネを使って、来月帝都で行われる『朝倉月人アリーナツアー』の最前列チケットと、直筆サイン入りTシャツを用意しなさい。そうすれば、レオンハート軍が先ほど旗を隠した『新しい偽装場所』の正確な座標を教えてあげるわ♡」

「なっ!? お前たち、俺たちの陣地をいつの間に……!」

ハガルが驚愕して牙を剥く。

「フフフ、天下の魔王と女神の 索敵(ストーカー) スキルを舐めないことね」

「……承知した。手配しよう」

キュロスは即答した。帝国近衛騎士団長の権限をフルに悪用すれば、アイドルのチケットの横流しくらい造作もない。国家権力の完全な無駄遣いである。

「交渉成立ね! いいわよぉキュロスちゃん、その話の早さ、嫌いじゃないわ♡」

ルチアナがご機嫌で拍手をする。

「おい待て! フェアじゃないぞ! 俺たちレオンハート王国には、そんなチャラついたアイドルはいねえ! 代わりに、最高級の獣肉(モジュール1)を弾むから……」

ハガルが焦って交渉に割り込むが、永遠の17歳コンビは冷たい視線を向けた。

「は? 肉? 朝倉月人くんの尊さに比べたら、そんな脂っこいものゴミ以下よ。獣人はすっこんでなさい」

「そうだそうだー。これだから野蛮な毛玉は。推し活の邪魔よ」

「……ッ!!」

ただ「国にアイドルがいない」という理由だけで、情報戦で完全に後れを取るレオンハート軍。ハガルは悔しさのあまり、己の牙で唇を噛み破った。

「ふふっ。どうやら情報戦は我がルナミス帝国の圧倒的勝利のようだな」

キュロスが、ハードボイルドな笑みを浮かべて勝利を確信する。

「あのぉ〜。そこの軍人さんたち〜」

その時、隣のブースから、ふわふわしたお嬢様ドレスを着たエルフ・ルナ・シンフォニアが、ニコニコと極上の笑顔で話しかけてきた。

「情報もいいですけどぉ、もっと直接的な『解決策』はいかがですかぁ?」

ルナの背後で、ゴゴゴゴゴ……と異常な魔力が渦巻き、灼熱の炎を纏った巨大な『火炎龍(精霊魔法の最上位)』が顕現していた。

「私が丹精込めて作ったこの火炎龍、金貨500枚で買いませんかぁ? これを放てば、敵の陣地も旗も、まるごと綺麗に灰になりますよぉ♡ お買い得ですぅ♡」

「「っっ!!?」」

キュロスとハガルは、物理的に後ずさりした。

「バ、バカなことを言うな! そんな大量破壊魔法をぶっ放せば、ルール違反(民間施設への攻撃)で、ガオガオンのレーザーが降ってくるだろうが!」

キュロスが真っ青になって怒鳴る。

「えー? 大丈夫ですよぉ。これは『私のお友達(植物と精霊)』が勝手にやったことになりますからぁ。自然災害扱いで、ガオガオン条約には引っかかりませーん♡」

ルナが、一片の悪意もない、100%の善意と純粋さ(天然)で、法の抜け 穴(グレーゾーン) を突いた極悪非道な提案をしてきた。

「こ、このエルフ、ナチュラルに戦争犯罪を斡旋してきやがった……!」

「おまけに条約の抜け穴まで熟知してやがる……ポポロ村の住民は全員イカれてるのか!?」

「あ、買わないんですかぁ? じゃあ、この火炎龍、暇つぶしにあっちの山にでも放っちゃおっかなー。えいっ♡」

ルナが軽く杖を振ると、火炎龍が轟音と共に飛び去り、遠くの山肌を丸ごと吹き飛ばした。

ズドォォォォォォン!!! という爆音と熱風が、非公式市場のテントを大きく揺らす。

「……」

「……」

キュロスとハガルは、自分たちが手にしている「魔導ライフル」が、まるで子供のオモチャのように思えてきた。

この村では、最強の軍隊などただの道化だ。

戦争の勝敗は、戦術でも兵站でもなく、ただ「この狂った村人たち(神、魔王、エルフ)のご機嫌を、いかに賄賂で取るか」にかかっていた。

「……ハガル。俺たちは、一体何と戦っているんだ……」

「……俺に聞くな。俺はもう、人参マンドラを追いかけてる方が心が安らぐ気がしてきた……」

エリート指揮官たちの誇りと尊厳は、ポポロ市民たちの圧倒的な「癒着」と「理不尽」の前に、もはや風前の灯火となっていた。

しかし、彼らの苦難はまだ終わらない。

明日は週に一度の【交渉日】。

ポポロ村で最も恐ろしい『猫耳の守銭奴』と『人魚の運び屋』が、牙を剥いて彼らに襲いかかろうとしていた。