作品タイトル不明
EP 5
【情報】100金貨のGPSと、キュララの暴露配信
【特別代理戦争・ルール①:相手の『旗』を奪い、24時間自陣でキープしろ】
【追加ルール:旗の位置は毎日1回、10分間だけ全スマホにGPS通知される。ただし、1日金貨100枚を支払えば、通知を拒否し、好きな偽装場所を発信できる】
開戦2日目の朝。
レオンハート獣人王国の陣地にて、近衛騎士団長ハガルが、昨日農場バイトで稼いだ血と汗の結晶(金貨)の中から、泣く泣く100枚を抜き出していた。
「……チッ。まさか『人参マンドラ』を追いかけ回して稼いだ金で、 情報操作(オプション) を買う羽目になるとはな。だが、これも勝利のためだ」
ハガルは、魔導スマートフォンを操作し、 運営(ニャングル) の口座へ送金した。
「よし、 偽装(ダミー) のGPS位置は、村の北側にある『シープピッグ(豚型魔獣)の泥遊び場』にセットした。あそこは足場が最悪だ。ルナミスの連中がノコノコと旗を探しに来たところを、茂みに隠れた俺たちの奇襲で一網打尽にしてやる!」
野性の本能と狡猾な戦術(歩兵攻撃)を組み合わせた、ハガルの完璧な伏撃作戦であった。
◇
数十分後。
ルナミス帝国軍・近衛騎士団長キュロスのスマホに、ピロリン♪という音と共に『敵の旗の現在地』の通知が届いた。
「……村の北側か。こんな開けた場所に旗を隠すとは考えにくい。だが、クラウゼヴィッツも『情報の不確実性(摩擦)』を説いている。罠の可能性は高いが、この機を逃す手はない」
キュロスは、昨日の「ダイズラ豆」の収穫で腰を痛めた兵士たちを鼓舞し、慎重な足取りで北のエリアへと進軍を開始した。
彼らが辿り着いたのは、強烈な臭いを放つ広大な泥沼――ポポロ村名物・シープピッグたちが無邪気に泥遊びをしている牧場であった。
「くっ……臭い! 1型レーションのニンニク臭よりキツいぞ!」
「足が泥に取られて……団長、身動きが取れません!」
「慌てるな! 泥の中にも魔導地雷が仕掛けられているかもしれん、慎重に……」
キュロスが部下たちに指示を出そうとした、まさにその時。
『はーい皆さぁん! こんきゅらー☆ みんなのアイドル天使、キュララだよー!』
頭上から、不自然なほど底抜けに明るい声が降ってきた。
キュロスが空を見上げると、そこには黄金の天使の輪を輝かせ、数台の魔導ドローンカメラを引き連れた天使族のT-チューバー・キュララが、空中にふわりと浮遊していた。
「な、なんだ貴様は!? 一般市民は戦場に立ち入るな!」
『あはは、怒らないでよキュロス団長! 私、この特別代理戦争の【公式実況・広報担当】を任されたの! だから今日は、ルナミス軍の勇姿を全世界に生配信しちゃいまーす☆』
キュララがウインクをすると、ドローンカメラが泥沼でもがく帝国兵たちの情けない姿をズームで映し出した。
『あーっと! 大陸最強と名高いルナミスの近衛騎士団、ただの豚さん(シープピッグ)の泥沼で大苦戦ですぅ! あっ、あの兵士さん、昨日のダイズラ豆のトラウマで、ズボンを押さえながら歩いてるから余計に遅いですねー! 草!』
「き、貴様ァァァ! 配信を止めろ! 我が帝国の威厳が!!」
キュロスが激怒して叫ぶが、キュララは悪びれもせずにタブレット端末のコメント欄を読み上げ始めた。
『あ、リスナーさんからスパチャ(投げ銭)いただきましたー! アバロン魔皇国の【永遠の17歳】さんから金貨5枚!「ぷーくすくす、エリートが泥遊びしてるわー。最高の飯テロね!」……ありがとうございますー!』
『続いて【パンの耳大好き】さんから銅貨1枚!「キュロス団長の泥まみれ顔面アップのスクショ、100金貨で売り飛ばしてやるわ!」……えーと、商魂たくましいですねー!』
「る、ルチアナ様!? リーザまで見ているのか!?」
キュロスは、自分の無様な姿が完全にエンタメとして消費されていることに気づき、胃に激痛を覚えた。
『おおっと! さらに特大スパチャです! ええっ!? ルナミス帝国の【M・皇帝】さんから、なんと金貨500枚!?』
「へ……? 陛下!?」
『メッセージ読みまーす。「我が軍の無能を余さず映せ。そして笑え。これが100均の便利さに甘えた結果だ。……帰還後、二郎系ラーメン地獄の刑に処す」……ひぃっ! 皇帝陛下マジこわーい☆』
「終わった……俺の騎士としてのキャリアが終わった……」
キュロスは泥の中に両膝をつき、真っ白に燃え尽きた。
だが、地獄を見ているのはルナミス軍だけではなかった。
「チッ……! なんだあの羽虫(天使)は。俺たちの完璧な奇襲作戦が、あいつのせいで台無しじゃねえか」
泥沼のすぐそばの茂みに息を潜めていたレオンハート軍のハガルが、舌打ちをした。
ルナミスがこれだけ隙だらけになっているのだ。今すぐ飛び出せば勝てる。ハガルが双剣に闘気を込めた、その瞬間。
『あ、ちなみにですねー!』
上空のキュララが、ニコニコしながら茂みの方を指差した。
『この泥沼の右側の茂みに、レオンハート軍の皆さんが100人全員でギチギチに隠れて伏兵してまーす!』
「なっ!?」
ハガルの心臓が跳ね上がった。
『さっき非公式市場で、ポポロ村のルナ・シンフォニアちゃんから「うちの森の植物さんたちが、茂みにケモミミのおじさんたちがいっぱい隠れてて暑苦しいって言ってたよぉ」ってタレコミ(暴露)があったんですよねー! 情報提供ありがとうございまーす☆』
「ば、バカヤロォォォォ!! なんでそれを放送で言うんだ!!」
ハガルが茂みから飛び出して絶叫する。
「……ハガル。貴様、こんなみみっちい罠を張っていたのか……」
泥まみれのキュロスが、虚無の瞳でハガルを見つめた。
「う、うるせえ! そっちだって皇帝に見放されて公開処刑されてるじゃねえか!」
「……もう嫌だ。帰りたい」
「……俺もだ」
かくして、両指揮官が頭を捻った「高度な情報戦」と「奇襲作戦」は、T-チューバーの暴露配信と、植物と対話できるエルフの天然タレコミによって、完璧に崩壊した。
命懸けの戦争すら、ポポロ村の狂った住人たちの前では「ただのバラエティ 番組(コンテンツ) 」に過ぎないのである。