軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 4

【労働】エリート兵士たちの「農業バイト」

「……このままでは、ジリ貧だ」

ルナミス軍陣地。近衛騎士団長キュロスは、すっかり軽くなった軍資金の入ったジュラルミンケースを見て、深い溜息をついた。

罰金、ニャングルのぼったくり物価、そしてリーザの運送料。これらがボディーブローのように効き、彼らの手元には数日分の食費(飲む二郎)を残すのみとなっていた。

「団長! 村の掲示板に、こんな張り紙がありました!」

副官が、一枚のビラを握りしめて走ってきた。

『大募集! ポポロ村・カイト農場での農作業アルバイト! 未経験者大歓迎♪ 日給:金貨1〜2枚。※美味しいまかない野菜付き』

「日給……金貨1枚……。たった1万円か」

キュロスがギリッと歯を食いしばる。普段の彼らなら、鼻で笑って捨てるような金額だ。

だが、今の彼らにとっては、その金貨1枚が「明日の弾薬とマトモな飯」に直結する命の金である。

「……背に腹は代えられん。非番の兵士を半分集めろ。農場へ出稼ぎに行くぞ」

「はっ!」

同じ頃、カイト農場。

麦わら帽子を被った農民・カイトの前に、全く同じことを考えたルナミス軍とレオンハート軍の兵士たち、合わせて約100名が、バツの悪そうな顔で整列していた。

「ええと、みんなうちのバイトの面接に来てくれたんだね! ありがとう!」

カイトがニコニコと笑いながら出迎える。

「あ、でも軍隊同士だからって、畑で喧嘩したり魔法を撃ったりしたら即クビ(とガオガオンのレーザー)だからね? 約束できる?」

「「「はいっ!!」」」

泣く子も黙る大陸最強の兵士たちが、一介の農民の言葉に背筋を伸ばして返事をした。

「よし! じゃあ早速、レオンハート軍の皆さんはあっちの『人参マンドラ』の収穫を。ルナミス軍の皆さんは『ダイズラ豆』の収穫をお願いね!」

「ふん、農作業だと? 笑わせる。俺たち獣人の脚力と体力をもってすれば、昼までに終わらせて日給をせしめてやるぜ」

レオンハート軍の獣人兵士たちは、余裕の笑みを浮かべて『人参マンドラ』の畑へと向かった。

そして、葉っぱを掴み、勢いよく引っこ抜いた。

「ギィィィヤァァァァァァァァァッ!!」

「うわあっ!?」

抜かれた人参マンドラが、耳をつんざくような悲鳴を上げ、畑に降り立つなり、短い根っこの足で猛烈なダッシュを始めたのだ!

「な、なんだこの野菜!? 逃げたぞ!?」

「待てェ! 日給(金貨1枚)が逃げていくぞ!! 追えェェ!」

時速100kmで走る豹耳族や狼耳族の兵士たちが、泥だらけになりながら、チョコマカと逃げ回る人参を全速力で追いかけ回すシュールな光景が展開された。

「ちょこざいな! 俺の闘気を見せてやる……うわっ、転んだ!」

最強の獣人部隊が、ただの人参相手に息を上げ、畑を這いずり回っている。

一方、ルナミス帝国軍の陣取る『ダイズラ豆』の畑では、別の悲鳴が上がっていた。

「よし、帝国兵の規律を見せてやれ。一糸乱れぬ動きで豆を収穫するのだ!」

号令とともに、帝国兵たちが一斉に『ダイズラ豆』のサヤをもぎ取った。

その瞬間。

スコンッ。

「……え?」

収穫作業をしていたルナミス兵士たちのズボンが、重力を無視して一斉に足首までずり落ちた。

「ひぃっ!? な、なんだ!? 俺のズボンが!」

「お、俺のもだ! ベルトはしっかり締めていたはずなのに!」

ダイズラ豆――「収穫するとお父さんのズラやズボンがズラされる」という、カイトの悪ふざけ(豊穣スキル)の産物である。

「貴様ら! 何を軍服を乱している! 早くズボンを上げろ!!」

監視していたキュロスが怒鳴る。

「はっ! 申し訳ありませ……スコンッ!」

「ひぃぃ! ズボンを上げながら豆を採ると、また落ちますゥゥ!!」

「だが豆を採らないと、今日のメシ(飲む二郎)すら買えないんですゥゥ!!」

純白のパンツを丸出しにしながら、泣き顔で中腰になり、必死に豆を収穫し続ける帝国が誇るエリート騎士たち。

その地獄のような絵面は、もはや軍隊の威厳など微塵も残っていなかった。

夕暮れ時。

全身泥だらけになり、ゼェゼェと肩で息をする獣人たちと、ズボンを必死に押さえながら虚無の顔をしている帝国兵たちが、カイトの前に並んでいた。

「みんな、お疲れ様! いやぁ、さすがエリート軍人さんだね、作業が早くて助かっちゃった! はい、今日の日給ね!」

カイトから手渡される、金貨1枚。

命を懸けた任務の報酬ではなく、人参を追いかけ、パンツを晒して稼いだ、血と汗と泥の結晶である。兵士たちの目から、熱いものが込み上げてきた。

「あ、それと。これ今日の『まかない』ね! 頑張ってくれたから、特別にSランクの『月見大根のサラダ』と『太陽芋のふかし芋』だよ!」

カイトが、ボウルに山盛りの野菜を振る舞った。

兵士たちは、泥だらけの手でそれを受け取り、無言で口に運んだ。

「……っ!?」

瞬間、彼らの瞳孔がカッ!と開いた。

「う……美味い……! なんだこの大根、シャキシャキで瑞々しくて、疲れた体に染み渡るゥゥ!」

「芋が甘い! まるで極上のスイーツだ! しかも、食った瞬間に減っていた闘気と魔力が一気にMAXまで回復したぞ!?」

彼らは思い出した。

自分たちが昨日から食わされていたのは、ニャングルのぼったくり価格で買った「飲む二郎」や、カスカスの乾パンだったということを。

「こんな……こんな美味いものがタダで食えるなんて……!」

「俺たち、何のために戦争してるんだっけ……?」

「あの、カイトさん……!」

ルナミス軍の兵士が、涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら、カイトにすがりついた。

「明日も……明日もシフト入れてくださいッ! 俺、もう銃撃つより豆採ってる方が性に合ってる気がしますッ!!」

「俺たちもだ! 明日はあのふざけた人参どもを、一匹残らず収穫してやるからな!!」

戦争の勝利条件(旗の奪取)など完全に頭から消え去り、「明日のまかない」のためにバイトのシフトを奪い合う両軍のエリートたち。

ポポロ村の恐るべきスローライフ(ブラック農業)は、着実に彼らの牙を抜き、立派な「農奴」へと洗脳し始めていたのだった。